見出し画像

ここに地終わり海始まる

喜望峰
南緯34度21分25秒
東経18度28分26秒
アフリカ大陸の最南西端
漬物石のような石に埋まる波打ち際
打ち上げられた海藻を拾ってみる
風に帽子が吹き飛ばされそうになる

漬物石のような石がごろごろしている喜望峰の波打ち際

ロカ岬
北緯38度47分
西経9度30分
標高140メートル
ユーラシア大陸の西の果て
海と空がつながる領域で
空気の層が青白く光っていた

ロカ岬(ポルトガル) ここに地終わり海始まる

ハバナ
仙台まで11,850キロメートル
ローマまで8,700キロメートル
銅像になった支倉常長が
右手の扇子で指し示している方角は
仙台ではなくローマ
ここは旅の途上

ハバナ 仙台まで11,850km

喜望峰で夜が明け
ロカ岬で夜が明け
ハバナで夜が明け
東京で夕食が始まる

東京に赴任した途端
肩を骨折した息子を
神戸に住む父がひとりで見舞い
半島の頂上に建つ展望台から
喜望峰を見下ろす灯台は
深い霧に隠れ
ロカ岬の多肉植物が茂るあたりでは
少女がふたり額を寄せあって
携帯を見るふりをし
ハバナの海岸通りでは
チャチャチャのリズムが
1日中鳴っている

東京 東西線の葛西駅

アフリカ大陸の最南端へは
喜望峰からさらに
200キロメートルほど南東にある
アグラス岬まで行かねばならない
人類が方位を知った時から
風は休むことなく
波の上を吹き続けている
すべての日没とすべての夜明けの間を
深夜特急が
走り抜けて行く
誰に気付かれることもなく
立ち去ることが
できないかのように

深い霧に包まれる喜望峰の灯台

(註)この詩の題名に使った「ここに地終わり海始まる」という言葉は、ポルトガルの詩人ルイス・デ・カモンイスの詩『ウズ・ルジアダス』の一節に書かれていると言われている。私はまだその詩を読んだことはない。

  (詩集『フンボルトペンギンの決意』第1章「旅程」より)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?