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不換通貨論 ~忘れられた日本銀行券の正体~ #011(1章-11) 兌換通貨・金銀の価値は本当に信用できるのか/第一章のまとめ


兌換通貨・金銀の価値は本当に信用できるのか

そもそも兌換通貨の裏付けとして信頼されている金銀の価値というものは、はたして本当に信頼に足るのだろうか。経済学者のアダム・スミスとカール・マルクスは、ともに金銀の価値変動について次のように語る。

金銀はその価値が変動するので普遍の価値尺度とはなり得ない。
金銀は、すべての他の商品と同じようにその価値が変動し、安価なこともあれば高価なこともあり、購買が容易なることもあれば困難なこともある。ある特定量の金額で購買または支配できる労働の量、あるいはそれと交換される他の財貨の量は、そうした交換が行われるときにたまたま知られている諸鉱山の豊度の程度につねに依存する。
アメリカの豊富な鉱山が発見された結果、ヨーロッパにおける金銀の価値は以前の約三分の一に下った。それらの金属類を鉱山から市場にもたらすのに費やす労働がいっそう少なくなったので、それらの金属類が市場へもたらされたときに、購買しまたは支配出来た労働もいっそう少なくなった。

アダム・スミス 「国富論」

十六世紀には、アメリカにおける豊穣で採掘しやすい鉱山の発見の結果として、ヨーロッパで流通する金銀が増加した。そこで、金銀の価値は他の諸商品に比較して減少した。労働者たちは彼らの労働力に対し、これまでと同じ分量の銀貨を受けとった。彼らの労働の貨幣価格は同一不変であったが、それにもかかわらず彼らの労賃は下落した。けだし彼らは、同一量の銀と交換して、より少量の他の諸商品しか受けとらなかったからである。

カール・マルクス 「賃労働と資本」

裏付けがあって信頼に足るものとして兌換通貨を語り、その裏付けができなくなったために仕方なく使用されているのが不換通貨だろうと考える人たちも居る。しかし金銀もまたその供給量に応じて価値が変動する一つの商品である以上は、交換のための道具として見たとき、本当に手に入れたい商品をどれだけ買えるのかについては不確定である。

当然、兌換紙幣も「金銀何グラムか」の引き渡しを約束してくれるが、その金銀でなにを買えるのかを保証するものではない。

アダム・スミスやカール・マルクスが見たヨーロッパ社会では金貨の歴史が長いが、日本の金貨の歴史はそう長くはない。平城京をつくる際の費用としても銭貨(銅銭)を渡していた。そしてこれらの銭貨も物価の変動によって、たとえば豊作凶作によってその購買力を変動させた。

たとえ金銀との兌換通貨にして、あるいは金貨銀貨を直接渡したところで、そもそもの金銀の購買力自体が変動するのであって、通貨(貨幣)の価値は不変ではない。

物品貨幣である金・銀・米もその購買力は約束されていない

江戸時代には、武家には「貨幣」ではなく「年貢米」が支給されていた。武家はその米を売却して通貨を得て、他の日用品の購入や部下の給与にあてていた。決まった収入はあるがそれは米の量(石高)であって、貨幣に換算した収入となると米相場の上下の影響を受けるため、その購買力は変動した。

「裏付けとなる物品」の有無によって、兌換通貨と不換通貨は「発行の仕組み」、「発行限界量」などが全く違う通貨ではあるが、どちらの通貨であっても「最終的な購買力は約束されていない」という意味においては同じであるといえる。

また庶民生活において、兌換紙幣を金貨に交換する機会もなかった。

だからこそ我々「通貨の使用者」にとっては、特に混乱なく通貨制度が切り替わることができてきたのだろう。どちらでも日常生活で通用すればそれで問題がないのだ。

通貨の制度を変更することで、これまでと全く違うルールで運用することを求められるのは、「通貨の発行者」なのだ。

第一章のまとめ

さて、そろそろ第一章で述べた内容をまとめることにしよう。

通貨(通貨制度)にはいくつかの種類がある。

とくに物品そのものを貨幣として扱った「物品貨幣」や、その物品を証券化した「兌換通貨」、そして商品価値を持たない「不換通貨」ではまったく異なる性質を持っている。

兌換通貨には裏付けとなる「商品(金)」が必要であり、発行者にとっての債務である。

一方、不換通貨には裏付けとなる「商品(金)」は不要であり、発行者は兌換義務を負わないため、発行者に債務は存在しない。これは債務ではないので、発行量に応じて通貨の価値は下落するが、財政破綻は起こり得ない。

貨幣自体が商品としての価値を持たない不換通貨を発行することは発行者にとって、ほぼ額面どおりの「通貨発行益」を生み出すことになる。

負債ではなく、通貨発行益によって通貨を生み出した政府は、政府支出によって赤字になることなく、この通貨と通貨発行益を国民に譲り渡すことができる。


以上が、第一章の内容をまとめたものになる。

つづく第二章では、通貨の種類に関わらず、通貨の流通量が経済状況、社会の発展や衰退に影響を及ぼしているということから、通貨をどれだけ発行するのが望ましいのかを解説していく。

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