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不換通貨論 ~忘れられた日本銀行券の正体~ #009(1章-09) MMTは通貨の何を勘違いしているか


MMTは通貨の何を勘違いしているか

「MMT現代貨幣入門」(L・ランダル・レイ)には、「全ての金融資産には、同類の、その裏返しとなる金融負債が存在することは、会計の基本原則である。」と書かれている。

ところがこれはまったく間違いなのだ。

日本証券業協会は「金融資産」を『現金・預金・有価証券・貸出金などの形で保有する資産』と説明している。このうち、預金は預けた相手にとって負債であり、貸出金は貸した相手にとって負債であるが、有価証券のなかでも株式は発行した会社の負債ではない。(会社に株式を買い取るように強要することはできない)

また現金とは「現にその場に持っている金銭」を指し、これは一般には通貨のことであるから、「兌換通貨」も「不換通貨」も該当する。

たしかに兌換通貨に限って言えば発行者に「正貨との交換義務」という負債が存在するのだが、不換通貨の場合にはこの義務が存在しないため、これは負債ではない。

資本には他人から借りた「他人資本」のほかに、「自己資本」(純資産)というものがある。

他人から借りなくても不換通貨は生み出せるので、これは「自己資本」であり、その価値の源泉は「通貨発行益(利益)」である。

「全ての金融負債には、同類のその裏返しとなる金融資産が存在する」という主張ならば、借金は誰かに借りないと発生しないので成立するのだが、その逆は成立しないのだ。

借金を返さなくてよいという主張は常識に阻まれて受け入れられない

またMMTが、現代の通貨を「負債」だと主張する限り、おそらく一般の善良な日本人に受け入れられることは難しいだろう。我々日本人は世界でも有名な「お人好し文化(馬鹿正直)」を持っている。お人好しの日本人は、道で「おカネ」を拾っても交番に届けるような人たちだ。

そんな日本人に、「借金は返さなくていい」とか、「民間の黒字は政府の赤字」と熱心に説得・勧誘したらどうなるだろう。

その人物はおそらく「借金を返さなくていいと考える下劣な人間」と評価されるか、あるいは「自分さえ良ければ国家や政府が傾いてもいいとそそのかす横領者」という評価を受ける可能性さえある。自分が属する政府や会社が借金まみれになっても自分が儲かればいいと誘う同僚など、どうしたら信用できるというのか。

この常識のもつ心理的な壁について、内閣府経済動向分析チームメンバーの経歴も持つ法政大学大学院政策創造研究科教授の真壁昭雄氏が、その著書で次のように指摘している。

最も重要なことは、わたしたちの常識に照らして考えた場合、借金を膨らませてよいという主張はどうしても受け入れることができないということです。

真壁昭雄 「MMT(現代貨幣理論)の教科書」

おそらくMMTを根拠にして積極財政を薦める人たちにはそんなつもりはないだろう。しかしそのつもりが無くとも、それを「赤字」だ、「債務」だ、「しかし返さなくてもいい」と言うかぎり、自分さえよければ他人が損をしても構わないという理論に聞こえる恐れがあるのだ。

災害が起きればすぐに暴動と略奪が起こるような地域なら、それで納得する人もいるかもしれないが、やはりここはお人好しの多い日本だ。その理論は通用しない。

永遠に借り続けられる、政府には通貨発行権がある、と言っても行きつく先は永遠の借り換えで、結局いつの日か膨らんだ借金の清算が必要となるのではないか、どこかで超大規模増税があるのではないかと国民は不安になる。

MMTが前提としている「通貨は債務だ」という主張では、際限なく増え続ける債務の「最終処理」がどうなるのか、不安になってしまう人間心理を超えることができていない。

そこでまず「不換通貨は『不換券』なので債務(借金)ではない」という事実が広く知られなければならない。

そしてこれを発行すると「負債」ではなく「利益」が発生する、つまり「純資産」が増えるのであって、発行しても財政問題など全く起こらないという会計的に正しい認識が必要である。

それなのに、むしろこれまで財政赤字だ借金だと騒ぎ立て、この純資産を増やさなかったために、日本が衰退してしまったのだと考えなければならない。

私は不換通貨制度の理解については緊縮財政派よりも積極財政派やMMT派の方が正解に近いと考えている。

ぜひさらに一歩踏み込んで、通貨が負債という認識から離れてほしいと願っている。

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