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【神話エッセイ】 ぼくの癖(へき)

ぼくには癖(へき)がある。


ぼくは散歩中の犬を見るのがやめられない。

うちは2匹の犬を飼っていると前に話した。その犬たちの散歩当番はぼくの役目。犬たちはぼくのことをバカにしているのか、全然いうことを聞いてくれない。好き勝手な方向に引っ張られていく。もう少し歳をとると、いつ転んでもおかしくないなと思う。

先日などは、散歩の途中で近所のおばさんに声をかけられ、世間話をしようとしたところを2匹の犬たちに思いっきり引っ張られ大こけ。こけた拍子に1匹のリードを離してしまい、犬が逃走。

いやぁ、連れ戻すのに苦労した。

逃げたのは雌犬チャ(ほんとの名前は別にあるのだが、ぼくはわかりやすく色で呼んでいる)。一目散に逃げるとはこのことだ。まったく後ろを振り返ることもなく、まっしぐらに進んでいく(お前はどこへいきたかったのだ)。

もう一匹の雄犬クロ(これも名前はあるのだけれどぼくが色で呼んでいる)はチャが逃げたので、気が気でない。犬は群れでできている。クロ、チャ、ぼくという群れ(たった3匹だ)の中で大きすぎる一匹(1/3だ!)が離脱したのだ。これは大変なことである。クロとぼくのこころの中で非常ベルが鳴っていた。

チャを捕まえるまでの約30分の中で、われわれ(クロとぼく)は同朋意識を再認識した。われわれは分かち難き3ピースなのだ(それほどのものでもないでしょ)。はじめてクロとぼくのこころが通じ合った瞬間であった(それは数秒にも満たなかったけれど)。



このような暴れ犬たちを抱えていると、よその犬たちがとてもかわいらしく見えてくる。なぜか、その犬たちは歩き方もお上品であり、飼い主たちも楽しそうに見える。

だから、どうしても羨望のまなざしで見てしまう。

こんなチビでデブなメガネのおじさんにじっと見つめられ、きっと飼い主も迷惑がっているに違いない。妙齢な女性なら「いやだわ、あのチビデブメガネおじさん、またこっちを見ているわ。気持ち悪いったらありゃしない」なんて思っているかもしれない。いや、思っているに違いない。

しかし、見るのをやめることができない。

見るなと言われても見てしまう、もうすでにこれはちょっとした病(やまい)のようなものだ。だから、なるべく犬だけ見ていますよという風を必死に装う。しかし、どうしても犬を見ている顔がニヤついてしまい、余計に気持ち悪がられてしまう(ような気がする)。

どうしたものだろう。「ぼくは犬を見ているのであって、うら若き乙女を見ているのではありません」というプラカードがあったら、掲げたいほどである。



出雲神話の中で、覗いてはいけないといわれたのに、やっぱり覗いてしまった代表選手(そんな代表、嫌だ)はイザナギだろう。

初めての男女の神様、イザナギとイザナミ。

夫婦(兄妹という説もある)の神様として、この国を生んだ伝説上の神様である。二人はきっと仲良かったに違いない。しかし、残念ながらイザナミは最後に生んだ子が炎の神様だったので死んでしまう。

イザナミの死を知り、残念に思ったイザナギは、黄泉の入り口に行き、イザナミに帰ってきてほしいと懇願する。イザナミはそこまで言うのなら黄泉の神様に蘇えるようにお願いしてくるから、入り口のところで待っててくださいという。そして、その間、決して中を覗かないでくださいとお願いする。

さて、待てど暮らせど、帰ってこないイザナミ。だんだん心配になってきたイザナギは、黄泉の入り口をついに覗いてしまう。

すると、

なんと、そこには腐乱死体のイザナミが横たわっていたのである。あれほど覗いてはいけないといったのに、イザナギが覗いてしまったことに怒ったイザナミは、黄泉の軍団を引き連れ追いかけてくる。

逃げに、逃げた、イザナギは黄泉の入り口を大きな岩でふさいでしまう。岩を挟んで相対したイザナギとイザナミは最後の別れの言葉をかけあう。

イザナミ 「あなたがこんなことをなさるなら、あなたの国の人間を一日千人殺します」

イザナギ 「あなたがそうなさるなら、わたしは一日に千五百も産屋を立てて見せる」


・・・とても、お別れの夫婦の言葉とは思えません。

あなたたち、あんなに愛し合っていたのではないのですか?

国をたくさん生んだのではないのですか?


そんな二人の哀しい物語を記念(記念と言えるかわからないが)して
、今は黄泉比良坂の石碑(とでもいうのかな?)が建てられている。



イザナギさん、あなたの気持ちはほんとうによくわかる。覗かないでと言われても、ついつい覗いてしまうその気持ち。

同じおじさん同士(イザナギさんはおじさん?)、今日は酒でも飲みながら慰め合いましょう(何を慰めるというのだ!)。

といいつつも、明日もきっと覗いてしまうんだろうな。



今回も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。  

よかったら、黄泉比良坂にもいらしてください。

そのときは、けして中を覗いてはいけませんよ。

では、お待ちしています ♪



こちらでは出雲神話のエッセイを集めています。
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ヘッダー画像はオゼキカナコさんの画像をお借りしました。ありがとうございました。


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