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聖母の被昇天

Assumption

「被昇天の聖母マリア」ニコラ・プッサン作 ルーヴル美術館蔵
「聖母マリアの死」カラヴァッジョ作 ルーヴル美術館蔵

第二次世界大戦の後、日本に平和が訪れた8月15日は、ヨーロッパ、中南米でも国家の祝日になっている国や地域が多い。8月15日は、聖母マリアが天使たちに導かれて霊魂と肉体が天に向かった日で「聖母の被昇天」の日と呼ばれる。英語で聖母マリアの被昇天は「アサンプション(Assumption)」と言い、イエスの昇天「アセンション(Ascension)」と区別している。しかしプラグマティックなドイツ人たちは、ドイツ語で天に昇るという意味で共に「ヒンメルファール(Himmelfahrt)」、フランス語でも「ドルミション(Dormition=永眠)」が使われることがしばしばあり興味深い。

「聖母マリアの永眠」作者不明 ボローニャ国立絵画館

イタリア語では「アスンツィオーネ(Assunzione)」と言い、イエスの昇天の「アセンシオーネ(Ascensione)」と区別はするものの、8月15日を一般的には「フェラゴスト(Ferragosto)」と言う。この時期イタリア人は海へ山へ、夏のヴァケーションの真っ盛り。帰省する人もいて、日本のお盆にあたる。フェラゴストは、ラテン語の「八月の祭事(Fiera Agosto)」の短略形で、8月(August)の由来ともなったローマ帝国初代皇帝アウグストゥスの祭りがあったことに由来する。

「被昇天の聖母」グィド・レーニ作 ミュンヘン アルテ・ピナコテーク蔵
「被昇天の聖母マリア」ジャン・バティスタ・ピアツェッタ作 ルーヴル美術館蔵

聖母マリアの被昇天は、5世紀頃から祝われ、6世紀の皇帝マウリキウスの時代から8月15日と定められた。芸術上では、ダイナミックな聖母マリアの被昇天は、反宗教改革の芸術とも言える17世紀、18世紀のバロック時代に好まれて描かれた。しかし正式に教義とされたのは、1950年、ローマ教皇ピオ12世のエクス・カテドラ宣言による。

言葉同様、祭事の祝い方もさまざまだ。
被昇天の聖母マリアの祝祭は、南フランス、カトリック色が強いドイツ南部のバイエルン地方に多い。
地中海に面した南フランスのモンペリエでは、8月15日の夜、聖母マリアへの宵の祈りの後に聖母マリア像を先頭に蝋燭行列のプロセッションがある。

8月16日はモンペリエ出身の聖人ロッホ(Saint Roch)の記念日で、二日続けてプロセッションがある。聖ロッホは、伝染病、黒死病の守護聖人であると共に、聖人が巡礼中にペストで臥した時に犬が助けてくれたことから愛玩動物の守護対象でもある。聖人の記念日、8月16日の聖ロクス大聖堂での記念日のミサの後に、動物たちの祝福もある。


一方、アルプス山脈を越えたドイツ南部のバイエルン地方で聖母の被昇天の日に、自然美豊かな記念日の特別ミサがある。オーストリアとの国境に近いアルプス山麓のコッヘル湖に面したコッヘル・アム・ゼー(Kochel am See)では、湖畔に特別祭壇を築き、自然の中で記念日のミサが行われる。この日村民たちは朝早くから野の花を摘み、記念日のミサに持ってくる。
聖母マリアが帰天、被昇天した際に、石棺の中に薬草が残っていたという言い伝えにもとづく。バイエルン地方では老弱男女を問わず、多くの人が民族衣装でミサに参加する。この地域からオーストリアにかけてチロル地方と呼ばれ、男性たちもチロル帽を花で飾って参列する。

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