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やっぱりモネも好き…「モネ 連作の情景」(上野の森美術館)

 展示品が全てクロード・モネの作品で構成されている「モネ 連作の情景」。
 上野の森美術館での東京展の会期末に滑りこみで行くことができた。日本でも多くの美術館が所蔵していることもあっておなじみの画家ではあるけれど、まとめて作品を観て改めてその世界に浸ることができた。 


あえてモネの作品を考えてみる

 モネ作品の魅力ってなんだろうか。
 言うまでもなく、小難しいことを考えなくても誰でも「美しい」と思えるところだ。
 ただそこで終わってしまうのももったいないので、今回はあえて自分なりに、その特徴を考えながら観てみた。

構図の安定性

 光の移ろいや水面の揺らめきの表現を得意としたモネ。この展示でもはやり多数を占めるのは水辺を描いた風景画・海景画だ。
 出品作を通して感じたのは、絵の構成は割とオーソドックスだということ。画面を水平に二分割していたり、画面に大きな三角形を作っていたり、一点透視図法だったり。
 あくまでも目に映る光景の再現が主眼だったことや、戸外制作でイーゼルを立てるにはある程度安定した足場が必要だったこともあるだろうか。浮世絵を意識したという大胆なモチーフの配置もあるが、目を驚かす・頭が混乱するようなものはなく、だからこそすんなりと画面に魅入ることができる。

定形と不定形、明瞭さと揺らぎ

 水辺を描いた作品が多いこともあって感じたのは、モネはあえてモチーフの実像と鏡像を並べて描いていたのかな、ということ。水面に映る舟、家、並木、はては磨かれたテーブルに映る瓶まで。
 彼は水面やテーブルを境界として、形の変わらない実体と、同じものでありながら常に揺らぐ鏡像の対比を画面に映しとろうとしていたように見える。
 
 この関心がおそらくのちの連作につながる。形の変わらないモチーフも、時間帯によって異なる色彩を帯びて、違った表情を見せる。同じく「印象」を捕らえた作品ながら、まさに目の前の一瞬の揺らめきを描きとめる作品と、定点観測のように時間を超えた同じ画面を切り取る連作。2つのテーマを感じられる。

色彩と荒い筆致の効果

 モネ作品の色彩の美しさは見ての通りだ。
 印象派の技法としてよく語られるのが、絵の具の混色を避けること。そして異なる色を細かく並置することで、観る人の脳にそれらを混ざった色として認識させる視覚混合。これらによって、原色ではないが、色は鮮明に目に入ってくる。
 そして、光の移ろいを追っていく荒い筆致。これによってモチーフはソリッドさをなくすが(描きかけの壁紙の方がマシ、とか言われたり……)、それが一層、私たちの「記憶の中の風景」に結び付くのではないだろうか。
 
 思い出や空想というのは美化されがちだが、この鮮やかな色彩と少しぼやけた情景が、私たちの記憶や憧れの中を呼び起こしてくれる気がする。
 今回のメインビジュアルにもなっている《ヴェンティミーリアの眺め》という作品などは展示室の照明の中でまさにため息の出るような美しい青だった。

再認識するモネの魅力

 美術にあまり関心がない人でも、「印象派」「クロード・モネ」という名前は浸透している感がある。だからこそ、何度展覧会をやっても大勢の人がやって来る。
 逆に一般的になりすぎて、またかと感じてしまう人も多いだろう。
 
 私はといえば、またか、と思いつつ印象派特集の展示にはつい足を運んでしまう。特にモネ、ピサロ、シスレーなどの風景画は、いつ観ても気持ちが安らぐような感覚がある。

 今回改めてモネのみの展示を観て、彼の作品の魅力を再認識した。上につらつらと色々書いたが、とても受け入れやすい作品なのだ。
 
 特別ではない日常の場面(あるいは私たちにとっては、海外の憧れの風景でもある)でありながら、その色彩と筆致が、それぞれの記憶や想像と結びついて幸せな感情を呼び起こしてくれる。写真のように精緻な画面とは違い、筆致による揺らぎが、流れていく時間も感じさせる。モネ本人がそこまで意図していたかは知らないが、だからこそ彼の絵画というのは、多くの人が何度でも、そしていつまでも眺めていられる。
 
 レオナルドやミケランジェロ、そして古代ギリシャの美術が模範的で普遍的な美を持っているとすれば、印象派の画家たちの作品も、また別種の普遍的な美と言ってもいいのではないだろうか。

 晩年には白内障を患い、画面は抽象画のようにより揺らいでいく。好みが分かれるところだと思うが、こうして年代を追って作品を観ていくと、さらに夢の中に深く入り込んでいくような感覚もある。

 展示の冒頭、自信作ながらサロンで落選したという《昼食》という作品もあったが、やはり風景画の方がいい。戸外制作を勧めた「空の王者」ことウジェーヌ・ブーダンさまさまである。


 「モネ 連作の情景」はそんな世界に耽溺できるとてもいい空間だった。目と脳が喜ぶ。激混み必死なのだが、あとわずかの東京展、これから巡回する大阪展でもぜひ多くの人に訪れてほしいところだ。

 睡蓮や積みわらなどアイコニックなモチーフがあるからこそ、頭の中でイメージが固まってしまいがちではあるし、画集やグッズでも簡単に触れられる画家ではある。またモネか……と思いつつスルーしてしまう人も多いかもしれないが、もう一度じっくり観てみることで、私のように「やっぱりモネ好きだわ」と自覚できるかもしれない。


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