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JASTPRO&SIPS合同セミナー「日本発国際標準の現状と展望」報告

【初出:月刊JASTPRO 2021年11月号(第511号)】

第二次大戦後、欧州で始まった貿易手続簡易化活動が、我が国でも本格的に始められたのが1971年。今年で50周年を迎えました。

貿易手続簡易化活動は貿易手続や書式の標準化から始まり、貿易手続の電子化の進展に伴い、データの項目や形式の標準化へとその活動は発展し、現在も、その対象を拡大し活動は続いています。一方、国際標準を制することは、我が国企業が貿易活動を円滑に進める上で重要であり、我が国の経済発展に寄与するものでもあります。

そこで、我が国の貿易手続簡易化活動の担い手である国連CEFACT日本委員会(国連CEFACT日本委員会は、電子データ交換国際標準の国内展開を推進するための機関として、1990年に民間企業専門家や学識経験者により組織され、オブサーバーとして財務省・経済産業省・国土交通省の専門家も参加しています。)の事務局である当協会とSIPS(一般社団法人サプライチェーン情報基盤研究会)は、貿易手続き簡易化活動50周年を記念して、日本発の国際標準を目指す各分野における活動をご紹介するセミナーを開催しました。

タイトル:日本発国際標準の現状と展望 ―デジタル社会を推進する国連CEFACT標準―

日 時 :10月27日(水)14:00~17:00

形 式 :ZOOM Webinarによるオンライン形式

平日午後の時間帯にもかかわらず、募集開始から数日で400人を超える大勢の方々にご登録いただき、この分野への高い関心が寄せられていることを改めて認識しました。

セミナー講演概要

開催にあたって、国連CEFACT日本委員会事務局長の秋田 潤(当協会専務理事)から挨拶の中で、国連CEFACT日本委員会設立の経緯や組織構成、現代の課題、活動、そして貿易手続の世界標準を制することの重要性を述べました。

来賓として、デジタル庁統括官の冨安 泰一郎 様にビデオ出席いただき、以下ご挨拶<要旨>のとおり、デジタル庁の紹介や本セミナーにより標準化やデータ連携が促進することへの期待、当協会及びSIPS活動にさらに期待したい旨のご挨拶をいただきました。

ご挨拶<要旨>

今年9月1日に発足したデジタル庁は、「誰ひとり取り残さない人にやさしいデジタル化を目指す」をミッションとし、政府全体のデジタル化を推進するにおいて、国民・ユーザにとって使い勝手がよいこと、働き易くなること両方の視点をもってシステムを整備していく。マイナンバーカード普及推進では、ユースケースを増やし、デジタルで便利になっていくことを実感してもらいたい。

もう一つの柱は、「データ戦略」。本年6月政府として初めて包括的データ戦略をまとめ、データ連携し易いようにベースレジストリーを整備し、必要な法制を詰め、実際に使えるプラットフォームを構築していく。データ信頼性確保にはトラストの枠組みも検討する。

本日のセミナーは、貿易手続の標準化活動50周年を記念したもの。データを繋ぐことで、新たな付加価値を創出し、我が国の成長に繋げて行くことが重要で、標準化はその土台、基盤となる。本セミナーにより、データ連携の有用性、その実現方策や課題等につき理解が深まり、標準化、データ連携が推進されることを期待する。

※    各講演の録画ビデオを当協会YouTubeのJASTPRO公式チャンネルにて公開(2022年1月31日まで)しています。併せてご覧ください。

1. 貿易PF間連携で未来の貿易を作るTradeWaltz

講演者:株式会社トレードワルツ 代表取締役 社長 小島 裕久様

講演資料URL:https://www.jastpro.org/files/libs/1333/202111021045111249.pdf  

講演録画(YouTube)URL:https://youtu.be/9FpGDRK11Dk 

<要旨>

課題と目指す方向

弊社トレードワルツは、貿易業務に関わる皆様に対しSaaSを提供する会社。

日本の貿易の課題は、貿易取引の増加に対し実務者が不足。貿易手続に紙文書やFAX、PDFによるメール交換が多く残っており非効率。これを解決するには、情報の改ざんが困難で各ノードで同じ情報がリアルタイムに保有され拡張性もあるブロックチェーンが最適な技術である。

大手でEDI化は進んでいるが、デジタルで連携できていない箇所が残っている。TradeWaltzを用いることで、企業間の情報連携を全てデジタルで行えるようにする。

貿易完全電子化の効果は、①業務時間とコストが44%以上効率化、②書類の紙保管が不要、③リモートワークが可能、④イベント、各貿易実務者の進捗ステータスの可視化など。

TradeWaltzは、本年11月25日にトライアル利用が可能となる。(正式リリースは2022年4月予定)、2021~2022年の2年間で貿易の輸出入に関わる基本機能の実装を進めていく。

国内外プラットフォーム、サービスとの連携

TradeWaltzは、世界連携した貿易エコシステムを目指す。

欧米のプラットフォーマーは民間企業主導で広域、一方アジアは、国・官主導で自国向けが主。TradeWaltzは、①関連業界横断のプラットフォーム、②幅広い貿易書類を構造化データで利活用可能、③蓄積データで新たなエコシステム構築の観点でサービスを提供していきたい。

国内外の競合と目されるプラットフォーマー、サービスとも積極的に協業し、システム連携により貿易エコシステム形成を目指す。国内の連携事例としては、NACCSとの連携 2020年11月にMOU締結し連携を進めている。2022年4月にはnetNACCS形式の連携を目指している。 国内7400社の導入事例のあるBINAL社のTOSSシステムとの連携も進めている。世界の他国プラットフォームとの連携としては、シンガポール関税局のNTP、タイのNDTP、 オーストラリア・ニュージーランドのTradeWindowとの具体的な検討を進めている。その他、世界20以上のプラットフォーマーから連携、協業の依頼がある。

世界とつながるための国際標準化の活動状況としては、①デジタル船荷証券(eBL)については電子化を容認する法改正、②取引データの具体的な取扱いに関する国際的な共通ルール整備として、国連CEFACTが整備しているEDIFACTやEDI共通辞書(=CCL:Core Component Library)をベースとしたプラットフォーム間のやりとりのルール造り、③国連CEFACTが参加しているISO/PWI 5909の制定など、今後も国連CEFACT日本委員会と連携し進めていく。

その他、国際商工会議所デジタル標準化イニシアチブ共通ルールが発表されたためこれを遵守し他のプラットフォーマーとの連携を進めていく。

世界は大きく貿易DXと国際標準化に向けて動いている。皆さまと共に活動していきたい。

2.中小企業共通EDIによる電子インボイス

講演者:ITコーディネーター協会つなぐIT推進委員会共通EDI標準部会長
フェローITコーディネーター 川内 晟宏 様

講演資料URL:https://www.jastpro.org/files/libs/1334/202111021054049666.pdf 

講演録画(YouTube)URL:https://youtu.be/JLn9aIfWf4U 

<要旨>

中小企業のEDI取組み経過

中小企業のIT化がなかなか進んでこないのが現状。その理由は、①業界毎に標準仕様(業界EDI)が異なり繋がらない、②大手発注側の個別仕様により多画面問題、③FAXの方が便利。

IT化は、ユーザが便利だと思わないと進まない。全体の底上げを図るためには企業間取引をデジタル化して全ての業務がデジタルで始められる環境を整えることで中小企業の社内のIT化・DXを促進する考え。中小企業EDIはそれらを実現することを目標に開発が始まった。

業界毎にEDI標準仕様が異なり繋がらない問題は、国際的に同様の状況であったことから、国連CEFACTにて、既存業界EDIの存在を維持しながら互いに共通辞書に変換して繋ぐ考え方に基づき、EDI共通辞書(CCL)が開発され、2008年に実用版が公開された。

2009年ビジネスインフラ事業(経済産業省)においては、このCCLを採用することを結論とし、その後の展開をSIPSに引き継いだ。ITコーディネーター協会は、SIPS 会員としてCCLを活用した中小企業EDIの仕様を検討し実用化する活動を行ってきた。これが中小企業庁の目に留まり2016年度の次世代企業間データ連携調査事業として取り上げられ、検証実験にて、整備してきた中小企業共通EDI仕様にて問題なく紙の企業間取引を移行でき、半分以下となる生産性向上も確認できたことで、中小企業共通EDI仕様を標準に位置付け2018年3月公開した。翌2019年には、金融EDI(ZEDI)と連携できることも確認された。

さらに、2020年には、中小企業共通EDI標準実装ITツールの認証制度を開始。標準をアプリに実装したパッケージベンダー12社26製品を認証し、EDI導入スキルとノウハウを備えた人材を育成するためのサポーター制度も開始した。

業種を超えたデータ連携を実現できる仕組みとしては、クラウド上に共通EDI標準に変換するサービスを提供する「共通EDIプロバイダ」を置き、プロバイダ間も繋ぐことにより、各企業のアプリはアプリ仕様のままCSV等で共通EDIプロバイダに送信するだけでEDIが実現するようにした。これにより、FAXやメールより便利でFAXと同レベルのコストを実現した。

電子インボイス制度の企業間取引上の影響進行状況

2023年10月に導入される適格請求書等保存方式(インボイス制度)に対応するための仕様変更をVer. 4で行うための検討を進めている。電子インボイスは全ての取引に適用されるので、業界を超えて繋げること、パッケージの変更が最小で移行できるように中小企業向け電子インボイス仕様を検討している。

電子インボイスについては、電子インボイス推進協議会(EIPA)が設立され、2020年12月に行政の電子インボイスには日本版PEPPOL(JP-PINT)の採用が公表されている。中小企業共通EDIとしては、日本版PEPPOL仕様の電子インボイスも繋ぐ方向で検討している。(中小企業共通EDIはサプライチェーン全体を対象、EIPAは請求から支払のみを対象)

業界を超えて全ての電子インボイスを繋ぐには、業界毎に異なる仕様のインボイスデータを変換する仕組みが必要なので、共通EDI電子インボイス仕様開発にあたり、ベースとなるCCLを作成し実装に落としていく。繋ぐための通信プロトコルは、国際EDIからの選択を想定し、2022年10月のサービス開始を目指している。

これは、EIPAの計画と同時期であり、EIPA・デジタル庁が詰めている電子インボイス仕様との整合性を保ちながら進める。

まとめ

2023年適格請求書等保存方式をしっかりサポートできる仕様。企業間接続を実現する標準化の水平展開。各企業内での受発注から出荷・納入・請求・支払までの縦の繋がり。この3つが基本的な考え方として、中小企業共通EDIは実施されている。

3.AI連携を目指す電子交渉の仕組み

講演者:NECデータサイエンス研究所 主任研究員 中台 慎二 様
講演資料URL:https://www.jastpro.org/files/libs/1335/202111021100594412.pdf 

講演録画:なし

<要旨>

電子交渉(eNegotiation)は、ドローンやAGV管制への適用においてNASAやGoogleと共に海外で標準化が進めているが、サプライチェーンでも使えるだとうということで、国連CEFACTのプロジェクトとしてプロトコルと情報項目の標準化を推進している。その目的は、メールや電話、FAXなどで実施されている交渉や調整をEDI化し、AIに交渉をさせ、手軽に早くより良い合意点を得ること。企業の最適化を企業間のAI交渉でリンクしていくことにより全体最適に近づける。

AI交渉の仕組みは、各組織の交渉AIが効用関数(調整内容に対する便益を現した情報です。例えば、再配達を調整するとき、受取時刻に対する意向が効用関数で表すことができます。)持って、自身の効用を最大化するようにお互いに提案する。時間が制限されているので、時間とともに妥協する場合もある。製品売買業務や航空貨物のスペース調整業務、共同配送の適用例が挙げられ、煩雑な調整業務の負荷低減とレベニュー最大化などのメリットを見せた。

4.     体験プログラムの標準化とサスティナブルツーリズムの推進―国際標準の普及・実用化に傾注―

講演者:NPO法人 観光情報流通機構(JTREC)副理事長 堀田 和雄 様
講演資料URL:https://www.jastpro.org/files/libs/1336/202111021110113458.pdf 

講演録画(YouTube)URL:https://youtu.be/kr-2b4ffxwE 

<要旨>

「体験プログラム」(Experience Programs:Eps)は、隙間時間を埋める楽しみの旅行商品ではなく、地域の特性を活かしたイベント等が滞在の主目的となるように開発されたもの。農業や産業、健康関連にも関わる地域専門性の高い商品であり、地域活性化や自然環境維持、利用者の生活の質の改善に寄与するため、サスティナブルな社会にも繋がる。

スマートフォンやSNSが普及する環境下、体験プログラムの安全性や信頼性などを理解してもらい、スムーズに宿泊プランへ組入れや予約ができるようにするには、内容や取引の標準化が必要と認識され、2019年より国連CEFACT観光部会の活動として標準化作業が進められ、本年12月で完了見込みとなっている。

体験プログラムの国際標準を実用化するために、対象としてウエルネス(健康長寿に役に立つ)分野を選択し、コンソーシアムの結成、標準の実装とシステム化、それを活かしたビジネスモデルの開発を進めており、ウエルネスEPsを普及させることでサスティナブルな社会実現への貢献を目指している。まずは、国内版から開始するが、将来的には、国際標準の利点を活かし、中国医学を取り入れた台湾版、アーユルベーダを取り入れたインド版への展開を考えている。

5.     スマート物流を支える動態管理

講演者:一般社団法人SCCC・リアルタイム経営推進協議会 理事長 兼子 邦彦 様
講演資料URL:https://www.jastpro.org/files/libs/1337/202111021111559524.pdf 

講演録画(YouTube)URL:https://youtu.be/n3QxvvYI5mU 

<要旨>

トラック輸送においては、車両に装備されているデジタルタコメーターが様々なメーカーによる製品であるため、データが連携されておらず、元請は下請業者の庸車の情報を取得できないため、配送状況確認や連絡に電話などの伝言ゲームが多発している状況にある。

運輸デジタルビジネス協議会(TDBC)とSCCCは、それを改善するように、APIを備えた動態管理プラットフォーム構築を進めてきた。プラットフォームはハブ役として、各社の運行車両の車両動態情報を収集、統合一元管理し、荷主システムや配車管理システム等に通知、配信する。

今回、動態管理項目は、実際に利用する項目に限定し、車両車番/デバイスID/計測時刻/経度/緯度/測地系/温度とし、国際標準として国連CEFACTに申請した。

国土交通省が主導するSIP「スマート物流サービス」も、国連CEFACTを重視する標準としているが、末端であるトラック輸送の動態管理項目は無く、SIPとは車両番号で連携することになっている。また、経済産業省が主導する物流「MaaS」とも今後連携していく予定。

終わりに

沢山の方々にご参加いただき、オンラインセミナーは盛況のうちに終わりました。講師の皆様の熱く、解り易い講演により、参加者から大好評をいただきました。日本発の貿易業務手続プラットフォーム、我が国の商慣行を反映した電子インボイス標準、AIを援用した交渉プラットフォーム、我が国のトラック輸送業界事情を斟酌した情報プラットフォーム、さらに観光事業における体験型プログラムの標準化と、多岐にわたる分野について非常に有益な内容を講演いただきました。講師の皆様には改めて御礼申し上げます。

末筆ではございますが、今回のセミナー開催を成功裏に終えられましたのは賛助会員の皆様からのご支援の賜物でございます。この場をお借りして賛助会員の皆様に厚く御礼申し上げます。

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