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いい人・タイムカプセル(掌編)

いい人・タイムカプセル(掌編)

 掌編小説です。

 いい人・タイムカプセル  丸田洋渡

 いい人 って思われつづけるのも難しいって感じ。

 一度も開いたところを見たことがない教室があの学校にあったことを覚えている。

 タクシーに乗ると必ず、運転手に、怖い話ありませんかって聞くようにしてるんですよ。

 招待状にタイムカプセルの七文字が手書きで書かれている。

 ・

 誰かを助けたい、ってもう思わなくなったっていうか、/

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海と空腹

海と空腹

 彼女は半身を海に浸していた。海に足を向け、波がちょうど腰のあたりにくるようにして、仰向けになり目をつむっていた。
 僕は近くに落ちていた大きな何かの骨を両手で持ちあげ、彼女に少し離れて置いた。それを椅子にして、海の方に向いて座った。

 他に誰もいない海はとても静かで、波の音だけがさらさらと打ち寄せていた。水平線まで雲は無く、ひどく晴れていた。

「無理だった」
 彼女が喋った。
「そうだと思っ

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重い水辺

重い水辺

怯えた顔の友人が僕のもとに駆け寄ってきて、僕の手を取る。それに連れられて、辿り着いた場所にいた上級生に背中を殴られたあと、晩夏の川で友人とともに川に落ちた。

殴られるとき、友人は兎みたいな目をしていた。上級生に「やめてくださいよー、そろそろ痛いっす」とへらへらしていた。うまいことを言って切り抜けようとしているんだなと思った。
その上級生は、僕たちを「豚」と呼んだ。もしくは「カス」と。別に太っ

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