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映画と演説 愛国者学園物語 第197話

 強矢悠里(すねや・ゆうり)は映画を見ることが大好きな少女であった。

それも、アクションシーンの多いハリウッド映画が。まだ幼い彼女がそうなったわけは、父親の影響であった。サバイバルゲームやモデルガンが好きな彼は、好んでアクション映画を見る人物だったのだ。

 ある日、彼が

「ランボー2」

を見ていたときのこと。幼稚園年少組だった強矢も、食い入るようにディスプレイを見ていたのだ。

そして、ランボーが爆薬を付けた矢で悪役を爆@すると、彼女は

歓喜の声

をあげて、ランボーを応援していたのであった。

 幼い強矢がアーチェリーを始めたのは、どうやらランボーの影響だったらしい。彼女は日本古来の弓道には目もくれず、アーチェリーを楽しんだ。

 やがて、

「アバター」

を何度も見たが、それは、ナヴィの一族が使う強力な弓に魅せられたからであった。いつかああいう立派な弓で敵を倒したい。それが、強矢の幼いの心のうちであった。

 次に彼女が意識したのは、米映画の

マーベルシリーズに登場するホークアイ

であった。その「アヴェンジャーズ」シリーズでホークアイを演じるジェレミー・レナーが、強矢のアイドルになった。あの団子鼻のおじさんが素敵なのかわからない。でも、彼が強力な弓矢を使うヒーローであることは、彼女の心を大いに燃やしたのである。だから、2023年に彼が大ケガをしたと報道された時は、強矢はとても悲しんだし、数ヶ月後に彼が元気な姿を見せたときは、とても喜んだのであった。

 そして、愛国者学園小学校に上がる少し前に見つけたのが、米映画

「ハンガーゲーム」

である。未来のディストピアで、国民が熱狂していたのはサバイバルゲームである「ハンガーゲーム」だった。

 各地区から選ばれた人々は敵を@して生き延びなければならないのだが、強矢は「ハンガーゲーム」シリーズが特に気に入った。これはサバイバルゲームに参加することを強要された少女が、弓矢を武器に過酷なゲームに立ち向かうというもので、4本のシリーズになっている。ゲームを勝ち進んだ彼女は、メディアに派手に取り上げられ、人気者になるのだった。

 強矢はすぐにその少女、カットニスを自分の姿を重ね合わせた。そう、強矢は弓矢を上手く扱う強い少女になり、メディアに取り上げられ、みんなの人気者になる。そういうシチュエーションに憧れていたのだ。

カットニスみたいにテレビに出たい! それが幼い強矢悠里の願いだった。

 愛国者学園で、彼女はやがて「雄弁会」に入会した。それは、政治家の登竜門である、早稲田大学の演説サークル・雄弁会をそのまま真似たものだった。学園生の中でも勇ましい性格の子供は、ここでスピーチ術を学び、人前に立ったのだ。

 大人たちは、メンバーにさまざまな演説の原稿を読ませたが、強矢が一番面白かったのは、ガンダムのそれだった。それも、敵国ジオン公国のトップ・リーダーである、

ギレン・ザビ

のそれが。声優・銀河万丈の力強い声は、幼稚園時代の強矢を虜にしていた。だから、彼女はギレンをギレン様と呼び、インターネットから取り寄せた彼と銀河の写真をプリントして、部屋に飾った。

 そして今、彼女は雄弁会のメンバーから選抜されて、そのセリフを真似してスピーチをするという栄誉を与えられたのだ。(私があのギレン様のスピーチをすることが出来る。なんて素晴らしいのかしら!)

 ギレンの、弟を悼む(いたむ)演説は彼女の心を打った。そして、その演説の極めつきを叫んだ。

私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。なぜだー!

悲しみを怒りに変えて、立てよ国民! 

ジオンは諸君らの力を欲しているのだ。

ジーク・ジオン!

 雄弁会のメンバーや教師たちは、強矢の迫力に感心した。

 ガンダムの次に良かったのは、

吉沢友康議員の演説

だった。よく通る声の持ち主である彼の演説動画を見ていると、強矢はわくわくした。

「日本を貶め(おとしめ)ようとしている反日勢力はね、日本の神道、皇室、愛国心がいけないんだと叫んでる。だから、それら神道と皇室、愛国心を大切にする日本人至上主義はダメだってね。とんでもない話ですよ、反日勢力は日本の敵なんだ、そんな奴らの言うことを信じる馬鹿はここにはいないよね? いますか?」

(皆真剣な顔) 
「いないよね? いるわけないんだ、ここは愛国者学園なんだから。日本を世界最高の存在として讃える日本人至上主義、それに日本の神道、皇室、愛国心を何よりも尊いものとして教える学校。それが愛国者学園なんだ。君たちは選抜されたんだ。ここは誰でも入れる馬鹿の学校じゃないんだ。君たちは選ばれたんだよ。そうだよね?」

(弱い返事)
(怒鳴りつけるように)

「そうだよな?」
「はい、そうです!」
「もっと大きな声で!」
「はい、そうです!!」
「よーし、それでいい。声の小さな奴は反日勢力に@されちゃうよ。それでもいいの?」

(近くの少女に向かって言う)

少女、頭を振る

「そうだよな、奴らをやっつけろ。そういうガッツのある奴じゃなきゃ、日本に未来はないよ。」
(中略)

「私はね、偉大な祖国日本のためなら、喜んで敵を@しますよ。皆さんもそうでしょう? ここで反対する人は、反日勢力に@されますよ。長生きは出来ないな。絶対。でも、それじゃダメなんだ。祖国日本がその気になったら、皆さんも武器を持ってください。それが正しい日本人の在り方なんですよ。反日勢力に侵略されてもいい、@されてもいいだなんて、狂ってる、そんなことを言う奴は」

(大歓声)

「(吉沢、うれしそうに)そうでしょう? そうでしょう? そこの君、そうですよ、そのとおりだ。外国の味方をするような日本人は日本人じゃないんだ。反日勢力なんだ。同じですよ、外国の味方なんだから」

 小学生がこんなことを言う大人の真似をする。それが愛国者学園であった。


続く 
これは小説です。

次回 第198話
この物語の主役である三橋美鈴の人生に2つの大きな出来事が起こります。さて、その2つとは? 次回もお楽しみに!


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