西瓜万端

競い合う蝉の鳴き声が洗濯日和だと告げるので、ベッドカヴァーを引き剥がし、洗濯機のスイッチを入れました。と、大きなカナブンがベランダに迷い込んできました。悪戯心が働いた僕はそのギラギラした光沢の虫を掴み、観察します。つまんだ指に絡みつく四肢は非常に威勢良くこの危機に立ち向かう。

幼少期に父がお土産だと言って捕まえてきたカブト虫を思い出しました。父は量販店で適当に選んできたであろう小さな虫籠に、冷蔵庫で冷やしてあった西瓜を入れて準備万端!とカブト虫を投げ込みました。しかし小さな黒い囚人にはあまりにも大きな餌...虫籠の3分の2も占拠していました。
あまりにも息苦しそうに思えたので助けてあげたい衝動に駆られましたが、その当時まだ虫が恐ろしく、それに父が折角子供のために捕まえてきたものを逃がしてしまうことも憚られ...

放したカナブンが窓から飛んでいく様子を眺めながら、あの日のカブト虫に思いを馳せます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?