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【ショート・ショート】 煙の向こう

もうもうと立ち上がる白煙。


くさやの焼ける匂いが交差点を越えてこちらの通りまで届いてくる。

通りの向こうに増上寺と東京タワーが見えるオフィス街に突如として現れる大衆酒場。
秋田の地酒の看板が堂々と掲げられている帰り道にあるその店は一階、二階、三階全て15時半の開店とともに満席になる。

「私は入れないかな。」

いつも気になってはいるけれどヒールを履いた客なんていないし、そもそも女性の客の姿が見えない。
くさやと豚串の焼ける匂いを鼻で香りながら横を通り過ぎた。


「おーい。こっちこっち。」


突然呼ばれる。
部署の同僚女子二人が店の奥、煙のむこうから手を振っている。

あれ?なんで?

聞いてみると二人とも前から気になっていて今日勇気を振り絞って入ってみたらしい。
そこに私が通りかかったのをみかけて声をかけてくれたらしい。ありがとう。

かくして、おじさんばかりの大衆酒場の中に女子3人、とりあえずのジョッキビールを頼んだ。


「かんぱーい。」


開店早々から大忙しの店内。
お店のスタッフの方だけがわかるオーダーの声。
串を焼く大将は、焼台の白煙と熱気にむつかしい顔をしている。


しばらくして注文していた串が運ばれてきた。


炭火で焼いた豚串の表面は程よく焦げてジュージューと言っている。
みんなで熱い串を頬張る。
焼きたてのアツさとビールがよく合うので思わず三人同時に叫んだ。


「おいしー!」


焼台を見ると大将が一瞬ニコッとしたのを私は見逃さなかった。

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