【争いの原因にもなる】土壌についてざっくりまとめてみた
様々な要素が複雑に絡み合う農業にとって特に欠かせない要素である「土・土壌」についてまとめてみました。
先にまとめです。
土づくりは農業の必須事項
農業において欠かせない要素の1つ
農作物は複数の要素が複雑に重なり合って完成するものなので、品種、栽培方法、栽培条件などどれも重要な要素なのですが、その中でも良い土壌を作ること=「土づくり」は特に重要な要素として農家さんの中で認識されています。
作物によって理想の土の状態は異なりますが、良い土とは水捌けがよく、かつ保水力・保肥力もある「団粒構造」と呼ばれる状態の土を指します。
※水はけが悪い土は粘質土、逆に保水性がない土は砂質土と呼ばれ、この真ん中を目指します。
その団粒構造を作るためには腐植という微生物による有機物の分解後の残差が必要なので、微生物や有機物は大切なのです。
そして作物が育つためには栄養も必要なので、その辺りは土に肥料を混ぜ込んだりすることで理想的な土の栄養状態に近づけていきます。(「地力を上げる」と言います)
良い土壌を判断する3つの観点
良い土壌は下記の3つの観点に基づいて判断されます。
昔は経験や勘に頼っていた土づくりですが、現在は土壌分析・診断を行うことで理想的な状態からどれくらいの乖離があるのか、その差を埋めるためには何を行う必要があるのかが分かるようになりました。
土の種類
一言に土と言っても、色や粘度など様々な違いがあるのは公園の砂と畑の土が全然異なることを考えるとなんとなく理解できると思います。
こういった土は森林総研主任研究員の藤井一至氏によると12種類に分けられており、土によって作物の育ちやすさが変わるようです。
このように土には種類がありますが、上位ランクの土壌であっても風にさらされたり水に流されたりして侵食を受けてしまえば、地力は落ちてしまいますし、逆に下位ランクの土壌であっても腐植を増やしたりすることで農業に向いている土壌に変えることができるようです。
また、同じ土でも異なる色をしていることがあるようで、見た目だけではなく母材がどのような環境で土となり堆積したのか、太古の世界にタイムスリップしたような感覚で考える必要があります。
日本の土壌について
もともとは火山灰が主体で半数が不良土壌
日本は火山灰土壌が主体で、母材の質はそこまで良くないと言われています。
さらに雨が多いことや傾斜地が多いことで腐食の分解や塩基の流亡が起きやすいと言われており、日本の酸性土壌が多いのはこのためです。
(雨が少ないヨーロッパとはこの点が大きく異なります)
農水省の資料によると昭和34年〜53年の調査では耕地全体の52%が不良土壌と言われていたようです。
土壌改良が進んだ
上記のような背景があり、日本では土壌改良が進められてきました。
その一つがリン酸資材の投入です。
植物の3大栄養素(窒素、リン酸、カリウム)の1つであるリン酸は植物の実を大きくすると言われますが、このリン酸は火山灰土壌では植物に吸収される前にアルミニウムと結合してしまう特徴があるため、リン酸資材の投入は大量に行う必要がありました。
耕種と畜産の分業が進む中で、堆肥の使用は減り、代わりに稲わらのすき込み量が増えるようになりました。
また水路のコントロールや裸地を避けることで土壌の侵食防止も行なっています。
海外の土壌
アメリカ
まずアメリカの地域別の主要な農作物を見ると以下のようになります。
アメリカは土壌侵食が日本よりも深刻だと言われています。
1970年代より牧草や野草に覆われていた土地を開拓し穀類や大豆の畑に変化させていることが土壌劣化を招いていると言われています。
1985年からは土壌を保全する農法に対して補助金をつける制度(CRP)により土壌保全に力を入れています。
そのほかにも複数の農業環境保護政策を組み合わせることで土壌侵食は依然として問題ではあるものの、改善はされてきているようです。
それでも最新の研究ではアメリカ中西部においては、近代農業が始まる頃と比べると10~1000倍のスピードで土壌侵食が進んでいると言われています。
ちなみに上述の中西部とも被るプレーリーと呼ばれるエリアでは世界一肥沃とも言われるチェルノーゼムが分布しています。
他の地域についてはそこまで情報を集めることができなかったのでかなり内容を浅めにして紹介します。
その他の地域の土壌
ヨーロッパ
東ヨーロッパはウクライナなどのチェルノーゼムや、シベリアのポドソルがあります。
西ヨーロッパのフランスなどは石灰岩からできたアルカリ性の土壌が多く、ワイン栽培に適しています。
褐色森林土やポドソルなどが広く分布します。オーストラリア
降水量が少ないオーストラリアにはアルカリ性の土壌が広く分布しています。
農地の約5%で塩害問題を抱えているという報告もあります。
砂漠土、栗色土、ラトソルが広く分布します。アジア
アジアといっても広いので様々な土壌が存在します。
インドは肥沃なレグール土が分布するデカン高原を始め、沖積土、赤土、ラテライトなどが分布します。
中国も赤土系の土、褐色森林土が広く分布します。
中東エリアは砂漠土が中心です。
アジアについては降雨量もエリアにより分かれるので、主要作物がエリアによって異なります。
東アジア・東南アジアは雨が多いので稲作が中心、半乾燥地帯である中央アジアや西アジアの一部は小麦、トウモロコシ、綿花などの栽培が盛ん、同じ中央アジアや西アジアの一部でも乾燥地帯では灌漑設備が整っていないと農業が難しいですが、小麦、大麦、ナツメヤシなどの栽培が盛んです。アフリカ
アフリカは土壌の母材が古いのが特徴で、赤道から西アフリカにかけては鉄分の多い赤土や砂漠土、東アフリカでは日本でもよく見られる火山灰由来の黒ボク土、インドのデカン高原のレグールと同じ特徴を持つバーティソルなどが分布しています。南米
赤土系の土壌が広く分布していますが、アルゼンチンのパンパにはチェルノーゼムと同じ特徴を持つ肥沃な土壌が広がっています。
ブラジルのセラード開発は日本のODAが関わった土壌開発プロジェクトとして有名です。
世界的に問題になっている土壌劣化
世界にはさまざまな土壌が分布している中で、近年では開発や経済発展の影響もあり、土壌の劣化が世界的に深刻です。
土壌劣化の種類
水や風による侵食
水による侵食は傾斜地で植生被覆が失われた地域で発生しやすく、風による侵食は乾燥地帯で発生しやすいとされています。いずれも植物が生えていた地域を何らかの理由で裸地化してしまったことが原因で、具体的には伐採や放牧などが挙げられます。化学的な土壌劣化
塩類集積、栄養不足、酸性化、化学物質による汚染等でアジアの乾燥地帯での塩類集積が特に深刻です。灌漑水を使い過ぎることや、地下水の塩類濃度が高く蒸発した時に塩類が表土に集積し土壌の劣化につながります。土壌の物質的な劣化
過剰な農業による土地痩せや土壌の固化など、農業のために土壌を使い過ぎて本来土壌が持っている栄養を持っていない状態になってしまっていることを指します。
事例
土壌侵食:ネパール
過去30年間で農地転換や薪炭材採取により毎年平均2%ずつ森林が減少しており、土壌侵食が深刻化している。災害の甚大化とも関連しておりネパール国内だけでなくインドやバングラデシュにおける洪水の原因にもなっています。
塩類集積:アラル海
アラル海周辺は砂漠地帯であり、元々降雨量が少ない地域で農業を広げるために灌漑用に塩湖であるアラル海の水を利用しましたが、広範囲で塩類集積が起き、かつて世界第4位の面積を誇っていたアラル海自体も2010年代にはほぼ消滅してしまいました。現在は復活に向けて取り組んでいるようです。
対策
カバークロップ
土壌侵食の防止だけでなく、有機物の土壌への供給にも役立ちます。等高線に沿った畝立て
畝が高さとなり水食を防ぎます。防風垣・防砂林
風食を防ぐことにつながります。不耕起栽培・耕起作業の減少
土壌の流出を防ぎます。植林
土壌の流出を防ぎます。点滴灌水
水の使用量が減ることで水食のリスクを下げます。
最後に
今回は土づくり・土壌についてまとめました。
土づくりは農業に欠かせない要素の1つであり、保水性と保肥性を兼ね備えた団粒構造と作物の栽培に必要な養分を適度に含んでいることが重要です。
土の種類は地域によって異なり、12種類に大別することができます。ウクライナに広がるチェルノーゼムは世界で最も肥沃な地帯で、世界の穀物倉庫と呼ばれる所以となっています。
日本の土壌は酸性土壌が多くポテンシャル自体は微妙ですが、土壌改良を継続的に続けていることで現在は土壌に関する全国的に大きな問題は起きていません。
海外では土壌劣化の問題が深刻な地域があり、人間による開発が原因となっていることが多いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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