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土地なし農民の問題

こんにちは。
ネパールで農業関係の仕事をしています。

日本では死語となりつつある「小作農」という言葉ですが、ネパールのような途上国にはそういった人たちが今でも一定数存在します。

今回は小作農などの土地なし農民について書きます。


現在の日本にはない農家のカテゴリー

小作農とは「自らは土地をほとんどもたず土地所有者(地主)から借りて耕作し、小作料を支払う農民」のことを指します。
これだけの定義に従えば、実は日本の農家も1/3ほどは小作農であり、その割合はむしろ増えています。
しかし「小作農」という言葉は歴史で習うぐらいで現代の「農地を借りている農家さん」を小作人と呼ぶことはありません。

日本の場合、戦後のGHQによる農地解放でそれまで小作人と呼ばれていた人たちにも土地が配分され、それと同時に「小作農」という言葉は無くなりました。
しかし、現在は農家減少により「土地持ち非農家」と呼ばれる人たちが現れ、農地集約化の流れがあるため、土地を借りて農地を増やすことや借りた土地で新規就農を行うことが当たり前になっています。

日本で土地を借りている農家さんとネパールの小作農の違いとはなんでしょうか。
やはり小作農というと地主への重い年貢の支払いなど虐げられているイメージがあります。
現代の日本では農家と地主の間にそういった関係性がそこまで強くないため小作農とは違う存在として捉えられているのだと思います。

話をネパールに戻すと、ネパールにも商業的農家と自給的農家がいますが、小作農というのは上記2つとは似て非なる存在だと考えることができます。

そして土地持ちでもなければ小作農とも呼べない人たちとして、国の土地に許可なく住み込んで農業を行う不法滞在パターンもあります。
しかし、彼らの境界線は曖昧で、農地は借りているとしても居住スペースが国の土地であれば不法滞在になりますし逆も然りです。

いずれにしても彼らのような人たちは被差別カーストであり、戸籍等がなく定住先を持てないため正式な仕事には就けず、一定期間で住処を移動しなければならない、自然災害の危険がある場所にしか住むことができない等、ネパールでも一番辛い境遇にある人たちです。
(ネパールにおけるアウトカーストの人口は400万人もしくはそれ以上いると考えられています)

住処を転々とし、最もリスクの高い川沿いに行き着く

定住先を持てない人たちが最終的に選択する生活拠点としてよくあるのが川沿いです。
「河原者」という言葉もあるように、生活困窮者が川沿いに住むということは古今東西よくあることなのだと思います。
これは、川沿いというのが、住民の居住エリアとは隔絶されているため住処を作っても危害を加えられるリスクが少なく自らの寝床を用意しやすいからだと言われています。

しかし、川沿いに住むことは川の氾濫などの自然災害への被害に対するリスクを高めます。
そういった被害は以前はそこまでなかった場所でも、近年は地球温暖化などの影響で被害が甚大化しているケースもあり、何もなくても最も生活が厳しい人たちが環境問題のしわ寄せを最も受けるという状況になっています。

そしていざ洪水対策をするために水路の強化等の工事を行おうということになっても、土地契約書を持たない彼らは立ち退き対象となり、その恩恵を受けることはできません。

NGOの介入により自治体のみで行うよりも優れた対応が可能

上記のような問題の解決にはNGOのような組織の活動がとても役立ちます。
地元自治体だけで上記の解決を行うことができれば、それがベストなのは間違いありませんが、NGOが介入した方が良いと考えられる点がいくつかあります。

予算の確保

まず一番はこの点です。
地方というのはそもそも税収が少なく、自治体だけではインフラ開発等必要な活動に十分な予算を割くことができません。
これはしょうがないことだと切り捨てることもできますが、そうすることで都市と地方の格差がさらに拡大し、地方の過疎化、都市の過密化、出稼ぎの増加につながってしまいます。
(ネパールの都市部には雇用の受け皿が少ないため都市の過密化以上に出稼ぎ増加が深刻になっています)
もちろん何かを作ったりするだけでは問題解決にはならないというのは散々言われていることなので、現地で活躍するNGOもそれを理解をしており、あくまでNGOが去った後でも住民たちが自立して活動を行えることを計画に盛り込んでいるようです。

地域住民のクッションや触媒となれる

お金をかけてハード面を強化することとは対照的にソフト面での効果ということでいうとコミュニティ作りに一役買えるという点が大きいと思います。
自然災害の発生に備えた防災を行なっていく上では地域コミュニティ全体での協力が必須です。
しかし、ネパールの農村部というのは異なるカーストでも同じコミュニティに属しているということがよくあり、異なるカースト間の人たち(それも不法滞在と思われている人たちもいる)をまとまるのはかなり難しいです。
そこで両者とは全く異なる第三者的な立場としてNGOが介入することで円滑に地域コミュニティを作ることが可能となるケースもあるようです。

弱者にも寄り添った活動

仮に自治体が自らの予算のみで活動を行う場合、本当に必要な小作農への対応は十分に行われないことが予想できます。
NGOが介入することで、どういった活動が最も適切かを贔屓目なしで計画することができます。
その結果として最も対応が必要な人への活動も十分に行われるのです。

最後に

よく援助に対して汚職の温床となり、本当に必要なところにお金が回らないという意見があります。
それ自体は実際にあることだと思いますが、事実として途上国の地方自治体というのは仮に何かをしたいと思っていてもそれを実行するためのお金が本当にありません。(日本も同じことが言えると思いますが)
そして、限られた予算の中でいかに多くの人の課題を解決させられるかを判断するには綿密な調査や計画が必要であり、そういった活動はある意味NGOのような組織がプロフェッショナルとして持っている部分だと思います。

私はどちらかというとビジネスセクターの人間ですし、基本的に全てのNGO活動を盲目的に肯定するわけではないのですが、ネパールのような国においてはやはりNGOの必要性があると考えており、今回はそれを以前とは別の角度から認識することができました。

辺境地に住むにも関わらず差別的な理由で自らの土地を持っていない人々というのは最も暮らしが難しい人たちです。
自分もビジネスを通じてもそういった方たちと何かを行えるように考えていきたいです。

今回は以上です。
最後までお読みいただきありがとうございました。


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