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#日本遺産 長い、長い日本遺産のお名前 勝手に日本遺産学【1】

さて、前回筆者が担当した番組の成り立ちをお届けしました。ここからは日本遺産そのものの話題に入っていきます。少々ひんしゅくを買いかねない内容もあったりしますが、実はそれも日本遺産ならではの楽しみ方だったりしますので覚悟をもってお伝えします。(※太字から公式HPなどにジャンプできます。)

まずは、2016年度放送分のラインアップを再度添付します。

放送した日本遺産のタイトルを見てみましょう。
 上記PDFの表には日本遺産名(正式名)の列がありますが、それは番組でもエピソードごとのサブタイトルとなりました。前述の通り、番組は思いのほか上々の滑り出しでしたが、実は放送関係者からヒトコト注文がありました。サブタイトルの長さについてです。

 せっかくなので文字数数えてみました。

いちばん短いのは8文字。

 和歌山県の
「鯨とともに生きる」です。 

 そしていちばん長いのは50文字。

 愛媛県と広島県にまたがる
 「“日本最大の海賊”の本拠地:芸予諸島 −よみがえる村上海賊“Murakami KAIZOKU”の記憶−」です。

 この年の放送では22の日本遺産をとりあげましたが、すべての名前の総文字数は605を数え、平均すると約27文字になります。

 ちなみに○(マル)を1文字として27並べると

 「○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○」

 これはどう見ても長いですよね。テレビ局関係者にしてみるとサブタイトルがこうも長いのはあり得ないわけで、内容は評価してくれながら「サブタイトルはどうにかならんか」とあいなったわけです。

「鯨とともに生きる」編より
8文字しかないタイトルは珍しい

 「日本遺産はわかりづらい」と評されることが多いと前も述べましたが、その大きな要因のひとつはこのタイトルの長さにあるのではないでしょうか?小説でもやたら長いタイトルの作品があったりしますが、表紙デザインと一体となっての表現だったりもしますから同次元で論じられるものではないかと思われます。

 では、なぜこんなに長いのか?
 日本遺産の映像制作が始まった当初は、「ありがちな盛り込みすぎ」に見えて、筆者もその長さに憤りすら感じることもあったのですが、その後、何年も企画が続き、多くの関係者のお話を聞いたりするうちこんな推論をもつようになりました。

 タイトルの文言は「そこに何があるのか」を指し示す文化財物件(群)の名称だったり、ひとことで言い表せる文化の呼称だったりしたほうが何を指し示しているかは解りやすい。

だがしかし、
認定審査の際に審査の対象になるのはあくまで「ストーリー」である。

 つまり認定審査の際、選定委員のみなさんはストーリーの中身を見に行きます。そして選定委員のみなさんはおそらく忙しい合間を縫って委員会に参加している。となれば、ストーリーがどのような軸で論理構成されているか、タイトルをみるだけで、できるだけ察知してもらえるような文言にした方がいい。

 つまり、認定後、一般に公表されたあとのわかりやすさとは少々異なる背景から生まれたのが数々の長い名前ではなかったか?

 そのように筆者が想像するに至った根拠は、毎年の申請数の多さです。
 下の資料をもう一度見てください。2015年度(平成27)の認定ストーリー一覧の下に、その年の申請一覧が掲載されています。

 なんと40都府県(238市町村)から83件もの申請がされています。

 私どもテレビ業界でも企画コンペをひらいたりすることがありますが、一度のコンペで83件もの企画書に目を通るような気がしました。

 申請にあたり申請元から提出された資料は、一部文化庁のポータルサイトでみることができます。(トップページ→個別の日本遺産検索→基本情報タブ選択→「詳細(PDF)」ボタン)

 ぱっと一例を見られるよう、ひとつURLを埋め込んでおきますのでみてみてください。
「海と都をつなぐ若狭の往来文化遺産群 ~御食国若狭と鯖街道~」の申請資料

 見ていただけましたか?このような申請資料を83件分も目を通すのは大変ですよね。

 申請段階も含め日本遺産に関わる方々には大きなご苦労があることお察し致します。申請時、このタイトルに決まるまでにどれだけの侃々諤々があったのだろうか?そう思いをはせると敬意を表さずにはいられません。

 でもしかし、とはいえです。思うところはあります。
 晴れて認定されたら、今度は国民から、ひいては世界から認知されるものにならなければいけません。
 と考えると、タイトルはこのままでいいのだろうか?
 正直言って疑問に思います。
 やはり文字数がやたら多いのは一般への「通り」は悪いと思うのですね。SNSのではよくハッシュタグ「#」を使いますよね。筆者もこの誌面で「#日本遺産」などと表記していますが、特定の日本遺産を#でくくろうとしても10文字程度ならまだしも20も30もあったら無理があります。

さて、このように思う筆者と同じ考えなのかはわかりませんが、ある協議会が運営する公式ページに思い切ってタイトルを短く変えている例がありましたのでご紹介します。

タイトルを短くアレンジしている例 TOPページに公式名称すらない

こちらの日本遺産、正式名称は
「400年の歴史の扉を開ける旅 〜石から読み解く中世・近世のまちづくり 越前・福井〜」

39文字あります。

 それが、ページではこうなっています。

福井・勝山石がたり

しめて9文字。
これなら、一般の人にも通りやすく、「#」も付けやすいですね。

あ、そういえば、
前述の50文字もあったタイトルの日本遺産ですが、公式ページでは
こんなデザインになってました。

公式名称を残しながら「村上海賊」との主題を前面に打ち出している

いかがでしょう。名前一つとってもちょっとした探究心があれば、日本遺産は面白くなるという実例ではないでしょうか?
ほかにもタイトルの工夫が見られる日本遺産があるかもしれませんよ。

それではまた。

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