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人生を悲劇にしないためには?(ACT実践編⑥)

前回は、
「アクセプタンス」(受け容れること)という
ACTにおける感情へ対処するプロセスを
説明しました。

特に、「怒り」という感情に対して、
「拡げる(エクスパンション)」というエクササイズを
紹介いたしました。

今回は、私たちを苦しめる感情の一つ
「悲しみ」
に焦点を当てます。

悲しいという感情については、
グリーフケアの知見が参考になります。

アメリカでは、災害が起きた際に
グリーフケアの専門家が
避難所へ訪れることもあるそうです。


繰り返しになりますが、

ACTにおいては、
特に感情によって起こされる
「体験の回避」が問題となります。

不快な感情を経験したために、
それに関わる体験を
強く避けてしまう状態
です。

例えば、

人と話すときに言われた一言に
傷つき悲しんだために、
人と会うこと自体を避けてしまう。

顔を会わせて話すと
イライラしてしまうため、
家族と話すことを避けてしまう。

などです。

本当は、
その体験によって得られる
心地よい感情や経験もあるはずですが、
その体験自体を避けてしまうのです。

毎回書くことですが、
こうした状態があっても、
困難を感じていなければ問題はないです。


ただもし、あなたが今

「本当はやりたいことがあるのに
 人に否定されることが怖くて
 やりたいことを避けてしまう」

「会話は大事だとわかっているが
 話すことで生まれる感情が嫌で
 その人と話さない状態になっている」

そのような状態が続いていて、
苦しい気持ちがあるのなら、
この記事がお役に立てるかもしれません。



悲しみとは何か

悲しみを定義するのは、
とても難しく感じます。

心理学では、
「大切な人を失ったとき」や
「目標を達成できなかったとき」などに
感じる、否定的な感情
とされているようです。

悲しみの中でも
愛する人が亡くなってしまう
などの体験から生じる深い悲しみは

悲嘆(Grief)と呼ばれます。

悲嘆が特にそうですが、
悲しみは本当に複雑な感情です。

喪失感、罪悪感、自責、後悔、不安、
いろんな感情が入り混じっています。


悲しみの有名なモデルとして
精神科医のキューブラー=ロスが
死期が迫った人の感情的段階を5つに整理しています。

  • 否認

  • 怒り

  • 取り引き

  • 抑うつ

  • 受容

典型的には、この順番で経験するとされます。

ここで、「怒り」が段階に含まれていることが、
感情の複雑さを示しています。


科学的根拠がある話ではないですが、
「怒り」は、たかぶり、外へ向かう否定的感情
「悲しみ」は、落ち込み、内へ向かう否定的感情

と捉えることができるかもしれませんね。


悲しみへのアクセプタンス

ACTでは、
体験の回避に対して、
アクセプタンス(受け容れる)というプロセスをとります。

受け容れるというと、
「諦める」とか「耐える」といった
ニュアンスを感じてしまうかもしれませんが、

アクセプタンスという言葉は、
そうした意味ではありません。

むしろ、
怒りや悲しみについて否定するのではなく、
「そういう感情もあっていいよね」と
積極的に認めてあげるようなイメージです。

「あるがままにする」という言い方でも
よいかと思います。



では、
「深い悲しみによって
 生きる意味を見失ってしまった」

という例を考えてみましょう。

※実在の人物とは関係ありません。


一生懸命がんばってきた目標が達成できず、
とてもショックを受けました。

もちろん、また新たな目標を目指せばいい
それは頭ではわかっています。

しかし、達成できなかった自分への失望
周りの人の信頼を失ったこと
そうしたことが浮かんでしょうがないのです。

いろんなことを思い出しては、涙が出ます。

今回のことだけじゃないんです。
過去に同じような失敗をしていて、
変われない自分にも嫌気が指します。

とにかく、ずっと落ち込んだ気分で、
生きる意味も見出せず
何も手につかないんです。


こうした場合、
「悲しみ」という不快な感情の経験から、
「社会的な活動」という体験
避けるようになっています。

やはり感情は複雑で、
日によってはとてもイライラしてしまうことも
あるでしょうが、

現在のところの大きな困難は、
「悲しみ」「落ち込み」という状態と言えそうです。

悲しみに暮れず、何か趣味でも小さな仕事でも始められれば、
また、活動する意欲が湧いてくるかもしれません。

あなたの人生にとって大切なことに、
もっと多くの時間とエネルギーを使えるかもしれません。


こうした例に対して、
「癒しの手」
というエクササイズをご紹介します。


それでは、始めます。

あなたを
悲しませている出来事があれば、
それを思い出してみてください。

あなたの心ができる範囲で
構いません。

一気にいろんなことが思い出されて
嫌な感情に呑まれそうになるかもしれません。

もし、そうした悲しみがあることに気づいたら、
まず、片方の手を、身体の、
その気持ちを感じる部位に当ててみてください。

それは、胸かもしれません。
あるいは、頭かもしれません。
悲しい記憶を見せる目かもしれません。

あなたが、その気持ちを感じている場所に、
手を当ててみましょう。

目を瞑るのもいいですね。

次に、その手を「癒しの手」だと
想像してください。

優しく温かい、友人や親、
あるいは看護師さんの手だと
想像してみてください。

そして、
その手から、身体に伝わってくるぬくもりを
感じてみてください。

次に、
悲しみを消してしまうのではなく、
ただ、悲しみがあるスペースを意識してみてください

悲しみの周りのスペースを、柔らかく、緩めてみてください。


悲しみを、
泣いている赤ちゃんや
怖がっている子犬かのように、
優しく抱きかかえてみてください。



どうでしょうか。

時間をとって、集中して取り組んでみると、
少し心がほぐれ、楽になる感覚が
掴めるのではないかと思います。

大事なのは、

「悲しみ」という感情が、
自分の中にあることを認めてあげることです。

それを認めることは、
怖いことかもしれません。

しかし、嫌な感情も、よい感情も
あなたの心というスペースの中にある
一つに過ぎないのです。

問題なのは、
「悲しみ」を否定し続けることで、
かえって「悲しみ」に呑まれてしまうことです。

「悲しみ」に呑まれて行動し続けると、
その行動があなたの人生になってしまいます。
あなたの人生が、悲劇になってしまいます。

「悲しみ」に呑み込まれないために、
「悲しみ」の周辺に空間をつくるイメージで、
ゆとりを持って感情と接してみましょう。


おわりに

最後までお読みいただき、
ありがとうございます!

今回は、
「悲しみ」についてACTのエクササイズを
紹介しました。


ちなみに、今回のエクササイズは、
「セルフ・コンパッション」とも
親和性が高いです。

気になる方は、
コンドウケンゴさんの記事が参考になりますので、
ぜひご覧ください。


ACTのエクササイズを
なんだかいぶかしく感じる方も
いるのではないかと思います。

その理由の一つは、
ACTが体験やイメージを重視しているところ
なのではないかと思います。

もっと論理的で、理屈で解決してくれ!
と思う方は、怪しいとさえ感じるかもしれません。

しかし、こうしたエクササイズは、
スピリチュアルや宗教ではなく、
研究者の実証研究に基づいて作られています。

ACTにおいて、
マインドフルネス(今、この瞬間に集中すること)
がとても重要視されていますので、
瞑想的な手法も多いのですが、

瞑想の機能的な部分、
科学的に効果のある部分を
エクササイズとして使っているイメージですね。


ACTの全体像については、
以下の記事をお読みください!

また、私の運営するジブンテツガク・プログラムでは、
ACTをベースとした心理スキル習得のための
エクササイズ
も提供しております。

プログラムの詳細はこちらをご覧ください。

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