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『聖書』初めて読んだらトゲトゲしさが思いの外すごかった

さいきん、やっぱり聖書読まなきゃダメだよなぁと思うことが増えてきてたので、手始めにAudibleあたりで聴けるものがないか探していたら、とても良いのに出くわした。

日本聖書協会が出しているもので、日本語のなかでは比較的バランスが取れていると評判の「新共同訳」で朗読してくれる。

1巻あたり30分強ぐらいで全20巻なので、合計10数時間程度。非常に明瞭で聞きやすい朗読と、平明で簡潔な日本語で聞ける神話のような感じで、とっつきにくさが全然ない。一般の人のほとんどが聖書に対して抱いているイメージよりも全然ハードルが低いと思う。

個人的にも、まだ半分も行ってないがとても満足している。

世にいう『聖書』のフルバージョンは『旧約聖書』数十巻と『新約聖書』数十巻の大きく2つから成り、流派の違いによって聖典以外のもの(外典や福音書等)をどの程度この『聖書』に含めるかが違うようであるが、ボリューム的にはそれなりのものになる。10時間強で聴けるこのAudible版は、ゆえに重要巻の重要箇所のみの抜粋であるらしい(それもかなり大胆な抜粋だろう)が、いろんな本を読んでいて引用される箇所の掲載巻はそれなりに網羅してくれている印象。『ヨブ記』『マタイ伝』『ヨハネの黙示録』とか、聖書とまったく関わらずに生きていてもなんとなく耳にしたことのあるようなものはだいたい収録されているゆえ、とにかく初手の目的は十分に達せられそうだ。


読んでまずびっくりしたのが、思っていたよりもぜんぜん過激な物言いで各方面に喧嘩売りまくっていること。

信者の方が読んだら激おこ必至な感想になるのだけど、すごく素朴に書いていくと、俺様的なキャラの神=創造主が被造物たる人間を付き従えて御名と御業でブイブイ言わせ、俺つえー感を振りまいていく無双的ストーリーという感じ。旧約聖書が成立した背景としての、ユダヤ人を取り巻く地政学的なアレコレや迫害の歴史なんかがにじみ出ているのだろうけど、たとえば『出エジプト記』でエジプト全土を血の海で満たし、イナゴやアブの大群を消しかけ、挙句の果ては全家庭の赤子を大量虐殺したりする。評判が悪かったソドムの街は一瞬で火の海となり、なんなら全人類も少し徳が下がってきたタイミングでノア一味以外は大洪水で全滅させられたりする。

しかもそれほど確固たる理路も説明も検証もないままに、ササッと罰がくだされる。

言ってしまえばサウスパークぐらいカジュアルに不条理に人が死んでいくし、実在する具体的な国とかが冷笑を浴びせられた上で滅せられたりする。ここには、二項対立と前項優位の構図が満ち満ちている。異民族とイスラエルの民の戦闘・殲滅の様子が頻出し、神の御前で祈るものの救いと祈らないものへの天罰はセットで語られる事が多い。全能であるはずの神も、人間の高慢にいちいちつむじを曲げたり、結構感情的・擬人的に振る舞っているように見えることが多く、さながらギリシア神話の神々を見ているようだった。自由意志と現世の事情をいともかんたんに吹き飛ばし、人間を軽く翻弄し、その運命を遇運にゆだねてしまう「自然」としての神。

日本とかは関係ないからいいものの、まさに攻撃されている国の人とかがこれを読むなら、分断や迫害に至る契機はぜんぜん隠れもしていない。出てくるタイミングを間違っていたら、余裕で禁書指定されて終わっていたであろう。

多義的な叙述で多くのアレゴリーと啓示を含み、その意図するところを精確に掴むことが容易ではない聖書が、2,000年に渡る膨大な解釈と議論にさらされてきて、その上でいまなお尊ばれているのは承知の上で、知識ゼロのいち個人のごくごく表層的なファーストインプレッションがこんな感じになってしまいかねない読み物ではある。

新約時代の序盤からストア派教義との折衷が図られたことからも分かるように、多分に倫理的で禁欲・克己的な側面は旧約パートから顔をのぞかせているのだが、ほとんどそれだけの内容をイメージして読み始めたら意外に攻撃力の高く刺激的な物語だったので、逆にすごく興味が湧いてきた。

そもそも聖書ほど長きに渡り世界に影響を与え続けてきた書物は他に無い。そういう力を持った本というのはやはり、一面的な解釈で終わってしまうと即座に破綻して焚書されてしまうような絶妙に危ういバランスのもとで、綱渡り的に多くの論争をこなしていくからこそ、尽きせぬ魅力を持つかもしれない。フォロワーや読みが固定化せず、それゆえにむしろ多様な時代と価値観の中をくぐり抜けていけるのは、この攻撃性と曖昧さの故なのかもしれないなぁと、思わなくもない。

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