ばる|専業読書家(人文学)

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ばる|専業読書家(人文学)

哲学、資本、テクノロジー、歴史、文化などを学び、なにかを考えて吐き出します。京大(工学)→東大院(環境学)→IT企業(ビジネス職)→退職:死ぬまで独学。30代。100%人力で執筆します。

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  • 随想

    世の中の色々な事柄についての思索・散文

  • 「文学」で読む、人と世界のこと

    古今東西の文学作品を通して、人間や文化、社会について学んでいく記事を集めました。

  • 根源を問う~哲学のススメ

    哲学書のレビュー集です。自身、専門家ではないので、比較的読みやすい本の紹介や、読みにくいものであっても非専門家の言葉で噛み砕いていきます

  • 思想で読み解く企業経営

    単なるビジネス書ではなく、企業や事業の構想や理念など、上流にある思想的な部分を、人文学における思想などと絡めて読める本を紹介した記事を集めます

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    「読んでよかった本◯選」的な記事を集めるとこです

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絵のサブスクと、対話の多面体

ここ半年ほど、絵画のサブスクを契約して、じぶんの部屋に絵を飾っている。 使っているのはCasieという伸び盛りのサービスで、サイト上で気に入った絵を選んで申し込むと発送されてくる。新しいものを飾りたくなったら、注文してから今飾ってるものを梱包して、宅配業者に集荷を頼んで返却。オプションが色々あるものの、過去平均だとおおむね月額4,000円ぐらいだろうか。誰もが知る名画家というよりは、売出し中の若いアーティストが多く出品しているようで、点数もバラエティもけっこうある。 絵画

    • 独学考#5:文脈を置き直す(ための管理手法をわりとミスってたかも)

      ここ最近、アルチュセールの概説書を少しずつ読み進めてて、多面的に衝撃受けまくってるんだけど、とりわけ徴候的読解とか認識論的切断の話とかを自分の学習/知的生産システムと重ねて考えていくともう全部が全部反省しきりって感じで、根底的に刷新しなきゃいけないかもなと思ってきた。いろいろミスってたわ、と。 自分の情報の集約の仕方ってわりとデジタル偏重というか、抜き書きとかは基本Scrapboxに全部突っ込んで、概念語同士のリンク構造をつけていく感じで。Scrapboxの特異的な特徴はそ

      • 久々に池袋ジュンク堂でいっぱい買った。

        • 昨日の記事の参考文献。とりわけ『中国山水画の誕生』は緻密な考証から背面の思想的傾向を丁寧に炙り出してて良かった。松岡正剛がこれを千夜千冊で取り上げてるけど、ふわっとした昔話に終始してて面白い。

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          【絵画読解】山谷深くして気韻生動す

          もはや恒例の、絵画読解記事。今回もCasieで借りた作品、あきこ屋《The Story of the Monkey King》を題材として、さまざま思いを巡らせてみたい。 西遊記を題材にしているらしい動きのある作品を一瞥して、立ちどころに浮かびあがるイメージがある。それは、中国奥地に屹立する山々の原風景である。千年以上の歴史が脈打つ水墨山水画が描いてきた雄大な自然である。 なによりもまず、この絵は山水画を強烈にイメージして描かれたものと推測される。まずはこのあたりを確認し

          【絵画読解】山谷深くして気韻生動す

          独学考#4:読みながら索引を作る

          普通に読んでもさっぱり読めない難しい本というのが世の中にはたくさんあって、それでも内容を少しでも理解する必要がある場面というのもたくさんある。 眼の前のテクストに真正面からぶち当たって無理そうなときは、読者の側で読解のためにアレコレ策を弄するよりほかにない。足場を組んでみたり、手すりを設置してみたり、分解して調べてみたり、遠くから見たり。 「自前の索引を作る」というのもそういう手段のうちのひとつで、最近重い本を読むときには作るようにしてるのだけどこれがなかなか頼りになるや

          独学考#4:読みながら索引を作る

          君は「ドラえもんひみつ道具レビューサイト」の存在を知っているか

          つい先日、R-1の決勝メンツが発表されてたので眺めていると、史上初のアマチュア決勝進出者「どくさいスイッチ企画」とある。興味が湧いたのでyoutubeとかでネタ動画を漁ったら、これがかなり面白い。 典型的な一人コントではあるんだけど、どのネタにも風刺的/批評的にしっかりとした幹があって、主題えらびと構成の妙から生まれる構造的な裏切りがじわじわと効いてくる仕掛けが心地よい。社会人落語の実力者でもあるらしく、そのバックグラウンドと経験値が存分に反映されている形である。 ほぼす

          君は「ドラえもんひみつ道具レビューサイト」の存在を知っているか

          夕暮れを待ち望む~カミュ『異邦人』

          ちょうど先日記事にした『適切な世界と適切ならざる私』において、詩人は私と世界の再構成の実験をしていた。翻って、20世紀フランス文学を代表する本作の著者はむしろ、精神生活において正しい秩序への従属を日々演じることの耐えがたさの告発と内在的な正しさへの問いへと向う。それも一歩一歩が震えるように重く、地中に沈み込むような足取りで。 カミュが主人公のムルソー氏の目を通して表現した違和感は、社会への鋭い問題提起に留まらない豊かなヒューマニズム的視点を宿している。不条理文学とも言われる

          夕暮れを待ち望む~カミュ『異邦人』

          私-世界を結び目から開ける~文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』

          いつ何時も力強くそびえ立っている「世界」という舞台があって、その中には無数の存在者がひしめいている。それを意識の主体としての「私」が認識する。人はふつう、このように思っている。 しかし実際には、そうした「世界」の存在をほのめかすような知覚の印象(視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚)が「私」の手元にあるだけであり、感覚を超えたところにある外界の有り様やそこで起こっている事柄を指し示すものは何一つない。  たとえどれだけ一貫性と揺るぎなさを持つように見えても、この世界は不安定でしば

          私-世界を結び目から開ける~文月悠光『適切な世界の適切ならざる私』

          死ぬという驚き~池田晶子『41歳からの哲学』

          哲学エッセイスト池田晶子の週刊新潮での連載エッセイを一冊にまとめたもの。おそらくは著者41歳の1年間分なんだろう。それ以上には、書名にあまり意味はない。 時事ニュースをとっかかりに人生と日常のあれこれを幅広く扱っており、1話毎に数ページ完結ぐらいのボリュームながら、それぞれのテーマに鋭く切り込んでいく迫力が感じられる。そして、それら多方面への思索の核である「死」への眼差しが、一冊の全体を緩やかに取りまとめている。 日々の生活上の通念をぐらぐらと揺り動かした時にこつ然と現れ

          死ぬという驚き~池田晶子『41歳からの哲学』

          2024年の前口上

          やっと年が明けた。なぜといえば、おととい本屋に行って、今年のカレンダーを買ったからだ。そして、つい今しがたデスクの大掃除が済んだからだ。 思えば、年越しそばを元日の0時半に食べたのがまずかった気がする。その辺りから今日に至るまでの記憶がおぼろげである。傑作PS4ゲーム『Red Dead Redemption 2』の20世紀アメリカ西部でカウボーイとして動物の皮を剥いだり駅馬車を襲ったりして過ごしていた時間も長かったので、身体の半分ぐらいが無法者になってしまった感覚もある。

          【引用】偶有性へと"投機"する個

          【引用】偶有性へと"投機"する個

          "でも、ここでしょうか。 この世間の荒波、都の嵐のただなかでしょうか、 私が竪琴の響きに和した言葉を紡ぐのにふさわしいのは。" ―ホラーティウス『書簡詩』,講談社学術文庫,Kindle版位置番号. 2,143

          "でも、ここでしょうか。 この世間の荒波、都の嵐のただなかでしょうか、 私が竪琴の響きに和した言葉を紡ぐのにふさわしいのは。" ―ホラーティウス『書簡詩』,講談社学術文庫,Kindle版位置番号. 2,143

          ストックオプションと分裂症

          マルクスが『資本論』を書いて、グレーバーが『負債論』を書いたので、当然そろそろ『ストック・オプション論』も必要だろうと思う。以下はそのうちのほんの片隅の試論である。 『資本論』が労働者の労働生産物からの疎外を言うとき、資本主義において生産手段の所有者と実際に生産を行う労働者との不一致という事態が大きな役回りを担っていた。労働の対象化たる生産物が、資本(家)の価値増殖運動のうちに労働者の手を離れて自立化し、独立した存在として労働者に対して支配力を振るう局面である。 現在の株

          ストックオプションと分裂症

          独学考#3:その理想主義を捨てよ

          およそ人がなにか物事に取り組み始めるとき、圧倒的な作品や才能や努力に触れて感動し、それ自体が持つ熱気に当てられて行動を起こすということがあると思う。その熱量が自分に乗り移り、同じように素晴らしいなにかを成し遂げたい、そのために同じように頑張ろうと決意することがあると思う。 自分も、「5万冊の本を読んだ人」とか「図書館に3年寝泊まりして資料編纂した人」とか「毎日20時間ものを書き続けてる人」とかの話を見かけると興奮するし、歴史上の天才達のエピソードも大好きだし、自分もこういう

          独学考#3:その理想主義を捨てよ

          『消費社会』の言葉とモノ

          いまや、我々の幸福というものは、パノプリ=パッケージとしてのモノ同士の相互関係のうちに凝集している。 かつてオルテガは、(例えば都市における)大衆の密集、充満を指摘した。ながらく特定の階級のみのものだった幾多の社会的リソースが、19世紀のうちに急増した盲目的な群衆により殺到され、蕩尽されるようになった、と。 オルテガが「満足したお坊っちゃんの時代」と呼ぶこの時代の大衆の精神性のうちに、すでにして現実的な社会的関係による権利規定から商品的な効能の実体化への離陸の兆候が見られ

          『消費社会』の言葉とモノ