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2019年下期劇場映画 ひと言フリカエリ

2019年下期劇場作品 ひと言フリカエリ
「JORKER」「ジョンウィックCP.3」「マレフィセント2」「IT2」「ターミネーター」「ドクタースリープ」「アナ雪2」「スターウォーズ」と、過去の作品にすがるかのようなハリウッドのリブートや続編モノを横目に、我関せずを決め込むかのようなタランティーノの「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は、まさに会心の一撃だった。下期ダントツのNo.1‼エンディングロールを含めた上映時間の161分間、あれほどまでに多幸感に包まれた映画体験は、これまでになかったかも。嬉しさのあまり、封切直後と終了直前の二度見、いや二度観しちゃうほど良かった!
非ハリウッド作品は、以下の4作品がとくに印象深かった。バレエを題材にトランスジェンダーの苦悩に胸を締め付けられた「Girl」、劣悪な環境の中で強く生きる子供たちと、そのエンディングに度肝を抜かれた「存在のない子供たち」、現代中国社会の閉塞感とカタルシスを長回しでじっくりと描いた「象は静かに座っている」、ダンサーの豊かな表現力で一点突破した野心的な試みが見事にハマった「CLIMAX」。 
個人的にはこれまでにない豊作な半年だった。

アドルフ・ヒトラー100年

’クリストフ・シュリンゲンジーフ・リターンズ!’からのチョイス。最期に過ごした地下壕で狂乱するヒトラーやエヴァ、側近の狂乱っぷりを描いた作品。役者のテンションが高すぎて、完全に置いてけぼり喰らってしまった。

COLD WAR

艶やかなモノクロと男女を捉える浅い被写界深度が圧倒的に美しく、冷戦下における男女のせつない恋模様を一層際立たせる。パリにいても「2つの心」はポーランド語で歌ってほしかった。オヨヨー♫

アマンダと僕

2018年の第31回東京国際映画祭で最高賞と最優秀脚本賞を受賞した作品。突然訪れた悲劇に対し、知人や親族以外はまるで平時であるかのごとく穏やかに描かれることに、リアリティが感じられず残念。でも、デュースで止めるのはニクいっ!

Girl

男性として生を受け、バレリーナを目指すトランジェンダーの物語。いつまでも見続けることのできる不思議な魅力をもった主人公の「女の子になりたい」真っ直ぐな気持ちが、息苦しさをともないながらも痛いほど伝わる。時折「ドキュメンタリーだっけ?」と見紛うような演出や、ドガの視点を疑似体験しているかのようなカメラワーク、お父さんの寄り添い加減も良かった。

存在のない子供たち

観終わった後に自分が発する最初のひと言は大事にしてるんだけど、この作品の場合は少し時間をかけながら言葉を自分の中で探した上で、発した第一声が「参りました」だった。子供たちがおかれている現状のみならず、その状況に対する主人公のドラマチックな言動が更に助長して、ショックがでかかった。

カニバ パリ人肉事件38年目の真実

上映開始時間が遅く、アルコール摂取後だったことに加え、時差ボケの影響で60分近く爆睡。でも一気に覚醒したのは、人肉事件の当事者である佐川一政氏ではなく、実弟の純氏が見せた性癖。荒い息遣いとともに、有刺鉄線を巻いた自らの腕をナイフでプスップスッと突き刺すシーン。この行為を理解してくれる女性が現れたら結婚も考えているとか。上映後、しばらく呆然。

よこがお

濡れ衣を着せられ堕ちていく女性の話。困惑、諦め、怒り、復讐、許容、そして邂逅と丁寧な描写とともに変遷させながらの、ラストの(不意打ちの)感情の発露!これは、見事すぎて鳥肌モン‼ちょっとしたきっかけから自分に火の粉が降りかかり最後には火傷しちゃうパターンは、実際にありそうで怖い。

天気の子

警察が介入してきて捕り物帖的な様相を繰り広げながらクライマックスに向かう展開が、作品全体を占めるファンタジー的トンマナと相いれず、うまく気分か乗り切れなかった。ちなみに、映画を観た帰り道、代々木の廃墟に寄ってみた。タイミングよく警察車両が前を走ったので、ハッと思い写真を撮った。それぐらいかな。

世界の涯ての鼓動

MI6の面々はなぜにああも女性を口説くのが上手いかねー。会話の切り返しが洒脱すぎる。ただし、今回のボンドはピンチに対して自力で突破できない。ボンドガールは知性派美人だけど、ピンチを救ってくれるわけではない。そんなふたりだけど、海を通してつながっている表現は、個人的には好みだった。

永遠に僕のもの

実話をもとにした破天荒な主人公の話。アルゼンチンでは大ヒットしたらしいけど、どこかで観た、誰かの作品を思い出してしまう映像に、辟易してしまった。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド

結論から言うと、大好きだ!変わりゆくハリウッドを舞台に、斜陽感のあるディカプリオとイケイケのブラピによるタランティーノ十八番の会話劇と、ノリノリのタランティーノ・サウンド(サントラ即買い)。そして期待通りに裏切られた、壮絶破天荒なクライマックス(=核心部)。語りたいことはたくさんあるけど、お腹いっぱいの大満足な一本!ちなみに2回観たけど、また観たい。

アス

寓話的な要素があるんだろうけど、よくわからん。逃げては追われる狂気さが際立ったまま終わった印象。前作の「ゲット・アウト」のほうが楽しめたな。

フリーソロ

クライミングをやらない人でも、クレイジーなことは一目瞭然!記録、名声、地位、名誉とはかけ離れた思考で、どこか頼りない、感情を抑制されたアレックスの人柄が印象的。「人間はいつかは死ぬ。だから、好きなことをやらないと。」というセリフが何度も引用される。「おまえは、どうよ?」問われているようにも思える。

サタンタンゴ

2012年の「ニーチェの馬」を契機に、久々に映画世界に誘ってくれたタルベーラ監督の、94年に公開された4Kデジタル・レストア版。タルベーラ作品を劇場で観ることができる幸せといったら・・・。150カット7時間18分のモノクロ作品(平均すると1カットあたり約3分の超絶長回し!)は、良いとか悪いとか、好きとか嫌いでは割り切れない、またしても豊かな映画体験だった。

帰れない二人

「長江哀歌」をきっかけに追いかけているジャ・ジャンクーの新作。中国の内陸部にも及ぶ中国の急速な発展。変化の象徴として描かれるインフラやアパレルなどと、何十年経っても変わることのない義理や人情、面子、しがらみといった連綿と続く営みやしきたりのコントラスト。その変遷に、馴染めず不器用に生きる男女。はかないな~。

サウナのあるところ

あまり興味のなかったサウナは、トレーニングの疲労抜きから利用し始めて、最近ようやく楽しさがわかってきた。日本のスタイルは個々人の内省的な側面に集約される気がするが、映画で描かれる本場フィンランドのスタイルは、言うならばシェア。仲間とのサウナでの時間は、身体のみならず心も裸にしてくれる。室温とロウリュウの蒸発音やスチームには心のつかえをほぐしてくれる効果もあるらしい。

宮本から君へ

予告での期待感通り!実際に出血シーンは多々あるけど、全編血管が浮き出っぱなしのポルテージ。池松壮亮のコワれ具合と蒼井優の鋭利な狂気に痺れる。エンディングがエレカシだったことも納得感あって、後味もよし。

ジョーカー

そもそも、あのジョーカーだし、ホアキンだし、ベネチアで金獅子賞を獲得するしで、期待するなと言われても無理だ。「動機のない殺人」と恐れられていたジョーカーの成り立ちを露わにすることが、そもそもセクシーじゃないけど、その理由が映画の文脈で言えば特別悲惨なわけでもなく、むしろよくある話で、あちゃーって感じ。でも、この作品が圧倒的なのはホアキンの美しい演技力。これだけで白飯が食える。作品そのものが扇動的で挑発的なために、多くの人々のパンドラの箱が開かないことを祈るばかり。

ジョン・ウィック パラベラム

1作目、2作目と縁あって機内で鑑賞したので、せっかくの続きモノだけに3作目はスクリーンで。ジャッキー・チェンのカンフー映画シリーズで興奮した幼児体験と大好物なマトリックスを髣髴とさせる世界観で、どうしても血が騒いでしまう。アクション・シーンのワンショットが長尺なのも嬉しい。身体が重そうなキアヌが、どうしてか弾が当たらないガン・フーの奇跡に酔いしれた。

ボーダー

正直何も期待していなかった。ポスターからも予告からも何も感じることができなかった。けど、観て良かったと思える作品。ミステリーの文脈で、主人公(ティーナ)へ感情移入させながら、重い社会的テーマを演者の過去や立場、判断の境界(ボーダー)を変化させながら揺らす。「時代のなんたるかは、ファンタジーで語る」それを地で行く作品。あらすじでは知り得ない深みにハマる。

去年マリエンバートで

61年公開作品。アラン・ロブ=グリエによる脚本を、アラン・レネが監督したモノクロ映画。反復、脱ストーリー、規則性の排除がもたらす中毒性と、しっとりとした湿感と豪奢な世界観。素敵過ぎた。これもまた温故知新。

CLIMAX

ドラッグがキマッた世界は、考えられる人間のサイアクが凝縮された、神さえも見放した世界だった!観なきゃ良かったって思えるほどの衝撃はトラウマ級。スクリーンのこっちは傍観者的で見た目は冷静に見えるかもしれないけど、向こう側のカオスに引っ張られ体温だけは終始高め。楽しかった!この温度差がものすごく面白い。演技経験のないプロのダンサーのぶっ飛んだパフォーマンスは必見。

象は静かに座っている

誰もが堕ちる可能性があるけど、ほんのわずかな理性で堕ちないように日々生きている。かろうじて指一本で身体を支えていたことに、堕ちてからようやく気づく。堕ちることで途方に暮れ、彷徨い、その先にあるかもしれない新たな生を求め旅に出る。これは、旅行や報道では知り得ない、現在進行形の中国なのかもしれない。

少女は夜明けに夢をみる

イランの更生施設て生活する少女たちを描いたドキュメンタリー。殺人、売人、窃盗、家出の罪を犯した背景には社会や家庭に問題があることがわかり、むしろ被害者は彼女たちだと、次第に見方が変わる。現状に抗い心に傷を負うもの同士、互いに支え合いながら日々を過ごす姿は幸せそうにも見える。更生施設での外連味なく溌剌とした振る舞いと出所直前の緊張と安堵感の落差が印象的。

永遠の門

個人的には今更感たっぷりのゴッホだけど、シュナーベル&デフォーじゃなければ観なかったと思う。制作過程を追体験させるシーンの数々に、ゴッホにしか体験しえなかった至福の瞬間が切り取られている。これまで悪い顔しか見たことないデフォーの、抑制された笑みがスクリーンを通して伝染する。ゴッホの作品に描かれたモデルの、破綻のない想像を裏切らない描写も嬉しかった。

マックス・ビルー絶対的な視点

バウハウス100年映画祭からチョイスした作品。シラク元フランス大統領が「日本では大人気」と言ってたけど、日本で取り上げられる機会は少ないように思う。建築・彫刻・画家・デザインといったマルチっぷりはさることながら、この作品を通して人となりを知る、自身初めての機会になった。多才ゆえか、ウルム大学、政治活動そして幾多のプロジェクトにおいてサポート体制が整っていたとすれば、その功績はもっと声高に語られていただろうなー。

アイリッシュマン

昨年のROMA以来、Netflixからのお歳暮が豪華すぎる第一弾。きっとアカデミー3部門受賞に味をしめたんだろう。173億円費やしたと言われる、言わば「マフィア版エクスペンダブルズ」のほとんどが、テレビやPC、タブレット、スマホ・・・で消費されることに一抹の寂しさを感じる。けど、この作品面白いのかな⁈

マリッジ・ストーリー

Netflixからのお歳暮が豪華すぎる第二弾。現代版「クレイマー・クレイマー」と言われる本作品の主演は、スカーレット・ヨハンソンとアダム・ドライバー。観るまでは、アベンジャーズのブラック・ウィドウとスターウォーズのカイロ・レンがこびり付いてたけど、始まってすぐに杞憂に終わり、表情に変化をつけながら長台詞を多用する二人の演技力にのめり込みながら、舞台さながらの迫真さも感じられ、とても好感がもてた。特にお互いの良いところを紹介する冒頭のシーンがとにかくキュート!離婚することで一番得するのは弁護士だということが、少しでも抑止力になればと祈るばかり。

ある女優の不在

反政府活動により映画製作を禁止されているジャファル・パナヒ監督の新作。イラン政府も取り締まらないのが毎度不思議でならないけど、この箔に、つい鑑賞欲を掻き立てられる。古いしきたりが色濃く残るトルコ語を話すイラン領土のアゼルバイジャンを舞台にした性差別がテーマだけど、ストーリーに隠されているだろうメタファーを全部拾えたかどうか自信ない。

気候戦士

世界で気候問題の啓蒙活動や行動改善に取り組む個人(=戦士)にフィーチャーしたドキュメンタリー。気候問題への意識や取り組みは、ドイツの原発稼動停止、イタリアでの授業化、北極の氷河を融かさないプロジェクトなど、世界のどこよりもヨーロッパが進んでいる。グレタさんの言動に対する報道はあっても、火力発電に頼らざるを得ない状況がそうさせているのかもしれないけど、日本の報道から知りうることには限界があると、つくづく思う。すでに地球温暖化を食い止めるフェーズは終わり、すでに温暖化であることを認識しつつ、いかにその進行を抑制できるかといったフェーズに突入している、といったことを聞く。一人ひとりができることに、身の丈よりも少し背伸びをして、やり続けるのみ。

草間彌生 INFINITY

淀みのない真新しい空気に包まれた渋谷パルコの新しい劇場で妻と一緒に鑑賞。日本では、”ちょっと変わった水玉おばさん”ぐらいの認識かもしれないけど、今や世界No.1女性アーティストにまで登りつめたこれまでの足跡を、作品や映像に加えて、彼女のコメントも絡めながら振り返る。ウォーホールへのパクリ疑惑には、つい笑ってしまった。また作品を買い足すつもりです!

2人のローマ教皇

Netflixからのお歳暮が豪華すぎる第三弾。ベネディクト・プライスが演じる先日来日した現教皇フランシスコの枢機卿時代の、アンソニー・ホプキンスが演じる前教皇のベネディクト16世との対話。熱を帯び改革派のたベネディクト・プライスの語りと、それを受け流す保守派のアンソニー・ホプキンスのやりとりが、不思議と退屈せずに観続けられる。世界よ、平和たれ!