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百合根団子の蕎麦、しめ鯖、豚カツの日。

大晦日。午前中夫が北京に居る先生とオンラインで中国語の授業をしている間、キッチンで昼食の準備に取り掛かる。まずは昆布、鰹、干し椎茸でとった出汁に本味醂、醤油、塩を加えて味を調えかけつゆを作る。続いて精神を安定させてくれる食材とされる百合根を蒸して潰し、ニョッキの要領で小麦粉を加えて練った後小さな団子を作る。あとは血を補うほうれん草をサッと茹でて一口大に切り、夫の授業が終わる頃に蕎麦と団子を茹でて温めたかけつゆを注ぎ、ほうれん草、海苔をトッピングしたら今年の年越し蕎麦の出来上がり。

北海道の田舎に居た子供時代、祖父母と一緒に暮らしていた私の実家に、大晦日になると父の姉たちとそれぞれの配偶者、そして子供たちが全員集まった。狭い家の中は父や伯父たちヘビースモーカーの喫煙によって常に煙たく、家事の苦手な祖母は置き物のようにリビングから動かず、小姑たちの中で肩身の狭い母が座る間もなく動き周り、祖母の再婚相手の祖父は居心地が悪そうにひたすら一人酒を飲み、だらしない従兄弟たちは散々お節を食べ散らかしそれでも足りずにコンビニで買って来た弁当を平らげ、末っ子長男の父はいい年して祖母からお小遣いをもらってパチンコに出掛け、十代の私は毎年繰り広げられるその光景に心底うんざりしていた。そんな悪夢の様な大晦日だったけれど、紅白が終わりに差し掛かる頃、家族全員の年越し蕎麦の準備を手伝わされるのだけはさほど悪い気がしなかった。もしかしたら料理はその頃から私をそっと癒し、勇気付けてくれていたのかもしれない。

京都の家にも卵焼き用のフライパンを買おうと思ったまま結局七年が経過してしまい、今になって思い立ち午後夫と大丸に買いに行く。すでに福袋が売られている四階の調理用品売り場で無事卵焼き用フライパンを買い、年始に食べるカレー用のココナッツミルクを買いに地下食品売り場に降りると、お菓子やデリ、生鮮食品を買い求めるお客さんで大混雑していた。調味料の売り場で手早くココナッツミルクの缶を手に取り、ついでに鮮魚売り場を覗くとしめ鯖が目に入ったのでそれもカゴに入れ、そそくさと地下鉄に乗り帰宅。帰ってすぐシャンパーニュを開けて乾杯し、スライスした山羊乳のチーズと羊乳のチーズ、蒲鉾、先ほど買ってきたしめ鯖、茹でたほうれん草を白胡麻と白味噌を混ぜたソースで和えたものをつまみながら飲む。少し飲んだらまたキッチンに立ってキャベツを千切りにし、生だと脾胃が冷えるのでマスタードシードとターメリック、塩と一緒に炒めてインド風のポリヤルにする。今夜のメインは豚カツなので、油を温め厚めに切った豚肩ロースに小麦粉、卵、パン粉を付けてじっくり揚げる。

夕食後、もう何年もまともに観ていなかった紅白を久々にゆっくり観る。殺人的スケジュールのKpopのトップアイドルたちが集結した超豪華なラインナップで、そのお陰かこれまで観た日本の音楽番組の中でもかなり秀逸なカメラワークとなっていて驚いた。もちろんまだまだ韓国のそれには及ばないけど、今までに比べれば数段良くなった。何事も外圧により成長できるタイミングがある。私にとってはそれが、2023年だった気がする。


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