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アートはホンモノを超えられる?-生き物を作品にする理由-

みなさん。突然ですが、これなんだと思いますか。

佐藤卓《シロモンクモゾウムシの脚》(写真Toshiki Yamahata)

実際は5㎜ほどのゾウムシの脚を700倍にすると、こうなります。
こんにちは、杉山です。先日六本木で開催中の展覧会に行ってきました。しょっぱなに登場する、パンチの利いたこの作品。生き物の一部を拡大したり、トリミングすることで、こんなにもものすごいことに。。。

「虫×アート」、ありそうでなかったテーマですが、自然を見て「なんでこんな不思議な形になったんだろう」「よくみたらめちゃくちゃかっこいい」と改めて気づくことは、むしろ大勢にとっての共通体験ではないでしょうか。

《かぶとむし》じゅえき太郎

未来感あふれるこの流線形。
自然界は、人の手では生み出せない造形や色彩にあふれています。昔も今も、その美に魅せられた多くのアーティストたちが、虫をモチーフに作品を作り続けてきました。
そんな「虫とアート」をテーマにした今月のアート誌『月刊美術』。
アーティストたちは、なぜ虫を題材にするか。
探っていったら、ホンモノと創作との間に起こる様々な葛藤や気づきがあることがわかりました。
縁あって私もいくつかの取材に同行させていただいたので、内容を少しご紹介します!

ホンモノの魅力が表現できない、という葛藤


印象派の画家たちが「一瞬の光をそのままキャンバスに再現したい」と強く願ったように、自然を描くアーティストにとって永遠の課題となるのが、「ホンモノ」を「作品」にどうやって落とし込むか。そこに、アーティスト個々人の哲学が光ります。

彫刻家の福井敬貴さんは、標本作りや採集でホンモノを観察しながら、そこでの気づきを制作に生かしているとのことでした。その標本技術が専門家たちから高く評価され、たくさんの依頼があるそうです。

《私が知りたいことを私が知るために“Attelabidae”》福井敬貴

(上記2点/丸山宗利さん福井さん共著の『とんでもない甲虫』より 写真/丸山宗利)

ホンモノに対するリスペクトが強いからこそ、尽きない悩みがあるそうで…

「昆虫の作品を作りたい!それだけで美大を目指しました。(…)昆虫が蛹から成虫になる際に自分の身体を溶かす変態過程を金属鋳造のプロセスを重ね合わせる、というコンセプトで試行錯誤しています。しかし昆虫の魅力は奥が深すぎて、悩みは日々深まるばかりです。特に細部の魅力を表現することは不可能ではないか、と思ってしまいます。」『月刊美術』9月号53㌻

福井さんは、そのなかで、ひとつの答えを出しています。

「現時点では作品を標本や資料などとともに展示し、両者の間に見えてくるものはなにか?と探っています。
ただ、そうやって昆虫について考えていると、固定観念や思い込みが簡単に壊れていきます。(…)芸術も学んだ私が、自然科学と社会との境界をなくすことで同じような体験を多くの人にしてもらえたら、と思っています。」

形のすべてに理由がある。進化の秘密を覗いている気分

自在置物と呼ばれる作品で有名な作家・満田晴穂さんの言葉にも、ひとつの答えを見つけました。

「昆虫を観察していてつくづく思うのは、形に嘘がないということ。すべてに必然の理由がある。そのことに気づいてから、ググっとはまっていきました。進化の秘密を覗いている気分になります。」『月刊美術』9月号35㌻

《蟹型二股鍬形》満田晴穂(写真Toshiki Yamahata)

昆虫の形は、「進化」のひとつの答え。歴史の重なりによって磨かれてきた「美」があります。
すでに完成された「大正解」としてのホンモノが目の前にあるにも関わらず、自分の手で再構築したいというその思い。ホンモノが完璧すぎて途方に暮れることもあるそうですが、それでもやめられないのは、きっと芸術家としての「さが」なのですね。
追求し続ける皆さんの姿勢が、とてもかっこいいなと感じました。

「虫はあらゆる問題を解いて何億年も生きてきた。その世界の入口へ、アートを通して誘われてほしい。」『月刊美術』9月号18㌻
「虫展」を監修した養老孟司さんの言葉です。昆虫は私たちのそばにある一級品のアートともいえます。
本誌では、「現代人になぜアートと虫が必要か」について、語っていただきました。

写真Toshiki Yamahata

一方で昆虫学者の丸山宗利さんいわく「なんでこんな形になったのか、こんな生態なのか、理由がまだわかってないこともたくさんあります。調べるほどに謎が増えるのが、またおもしろい」とのこと。
分類学の専門家でもかけ算式に謎が増えていく、めくるめく不思議な世界。

足元に生きるアート

たくさんの作品を見て、改めて実物を見たい。
そんな時に、昆虫ならすぐそばで見つけられるのが嬉しいところ。少し外に出てみれば、チョウが舞い、アリが歩き、スズムシやコオロギが鳴いている。

秋によく飛んでいるトンボは、見れば見るほどに美しい!すっと伸びた胴体といい、均衡のとれたハネといい…どこをとっても、うっとりするほどかっこいい生き物です。

(『丸山宗利・じゅえき太郎のマル秘昆虫手帳』より)

湿潤な環境に恵まれた日本は、3万種以上の昆虫が生息する、まさに昆虫天国。
以下の本では、身近な昆虫を12か月の日記調で紹介しています。
せわしない日常にひと息ついて、すぐそばで見つかる「昆虫とアート」をぜひ楽しんでみてください。

実業之日本社 杉山


ある日主人公が拾ったのは、昆虫学者の手帳だった…!?画像のタップで商品サイトにジャンプします。



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