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おっちゃんとファンタグレープ

2023 1/12(木)
 
しばらく日記が滞っている。
こういう時は、昔、書いた文章を掲載するのがいいだろう。
今回は、2014年に書かれたものだ。

おっちゃんとファンタグレープ
 
俺が中学生位の時、親戚のおっちゃんがふらっと実家にやって来た。
ふらっとやって来たのだが、どうやら風邪で熱があって少し休ませて欲しいということで、それは完全に、ふらっと違いであった。
俺は寝ているおっちゃんに心配して話しかけていた。すると、突然、おっちゃんが言った。
「なんか面白い映画のビデオあるか?」
身体は疲れているが、眠れなかったのだろうか。
こんな場合、普通はテレビでも観るのだろうが、その時、俺は、おっちゃんが映画好きだった事を思い出した。
それは、おっちゃんの妹である、俺の母から聞いた話だ。
母は、学生時代に友達と、当時話題だった松本清張原作のサスペンス映画「影の車」を劇場に観に行った際に、そこに兄であるまだ学生のおっちゃんが一人で映画を観に来ていたのを目撃した。
そして母は「影の車」をたった一人で観に来る兄のおっちゃんに只者ではないオーラを感じたらしい。
おっちゃんは、根っからの映画好きだったのか、それとも友達がいなかったのか定かではないが「影の車」を一人で観に来れる根性はツワモノだったらしく、その話を聞いてから、俺の映画好きの遺伝子の一部は、もしかしたらおっちゃんから授かっているのではないかと思った。
そんなおっちゃんは、横になりながら「ゴースト ニューヨークの幻」を最後まで観終え 
「おもろかったわ~」
と、すっかり元気になってしまった。
しかし、そのあとのコメントがいけなかった。
「いやぁ~この間、観たシュワルツェネッガーの、キング・オブ・デストロイヤー・コナンPART2よりおもろかったわ~」
比較が酷かった。
本当は、おっちゃんは映画好きではないのではないかと疑いを持ちながら、よく考えたら、
「キング・オブ・デストロイヤー・コナンPART2」は、以前、俺がおっちゃんに薦めた映画だったと、そもそも、自分のセンスに疑いを持った。
そんな明るいおっちゃんが、後年、大病になるまでは「グレートブルー完全版」や「居酒屋ゆうれい」などを一緒に観に行った。
晩年、おっちゃんが入院している時に
「退院したら、映画でも観に行こう」
と誘ってみたが、そんなことよりも、
「ファンタグレープが飲みたい」
と言っていた。
その後、あっけなく亡くなってしまった。
まだ54歳だった。
生きていたら、俺はおっちゃんと二人で、映画館でファンタグレープを飲みながら映画を観たかった。

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