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タッチパネル・パニック

2022 11/6(日)
 
いよいよトンカツを食べる日がやって来た。
俺は、練馬駅前にあるチェーン店の「松のや」の入り口に立っていた。
一体、何事だと思われるかもしれないが、今年45歳になる俺は、最近、脂っこいものが苦手になってきている。
元気で生きてる人は、大抵、肉を食べている。俺の師匠もそうだった。
このままだと俺は将来、肉を完全に食べられなくなってしまいそうなので、今の内から意識的に肉を摂取しようと、まずは子供の頃から好きだったトンカツから初めてみようと思った。
11時30分、俺は練馬駅前にあるチェーン店の「松のや」へ入った。
予想通りだ、店内は昼前なので、まだ混雑していない。
券売機は、タッチパネル式になっている。
俺の前では、サラリーマン風のおじさんが券売機に向かって、何やらぶつぶつ言っている。
「わかんねぇよ、わかんねぇよ」
かなり苛立っている。
コロナ以降、この方式に変わった飲食店が多くなった。
俺も最初の頃は、このおじさんのように軽いパニックになったが、2年ほど新しい生活様式に慣れた為、今ではお手の物である。
よし、このおじさんにやり方を教えようと思った。だが、次の瞬間、
「もういい!クッソー!」
おじさんは、そこそこの声でブチ切れ、凄い勢いで出て行ってしまった。
お腹が減っているから、余計に腹が立ったのだろう。
早めに順番が回ってきた。
俺はタッチパネルに慣れているから大丈夫だ。
しかも、「松のや」アプリのクーポンをダウンロードしたので、それを使うという応用編を始める。もう、タッチパネルの達人だ。
スマホの画面に表示されたクーポンは、ロースかつ定食、ポテサラつき。
御飯、味噌汁、おかわり自由で500円。
コスパがよすぎて、もはや物価の安い国に来てしまった位の感動だ。
いざ、チケット購入だ。タッチパネルにクーポンのコードを読み取らせる。ピッ。「処理中です」機械音が聞こえてくる。
ふふふ、画面が変わった。
よしよし、あれっ、クーポン価格になってない。
おかしい、何を間違えたんだ。
トライアゲイン。今度こそ、あれっ、また同じ画面が出てきた。
どうしてクーポン価格にならないんだ。
まさか「期限切れ」という、初歩的なミスなのだろうか。
改めて日付を確認した。しかし、まだまだキャンペーンは続いている。
だったら、なんでうまく進まないんだ。
落ち着いてもう一度、頭からやり直そう、まずは、クーポンのコードを機械に読み取らせる、ピッ。「処理中です」画面が変わった。
んっ?あれっ、また、さっきと同じだ。
気がつくと、俺の後ろには、若い学生風のお客さんが1人並んでいた。
早くしろよ、そう思っているに違いない。
焦るな。落ち着け。
もう一度。ピッ。「処理中です」よし、次こそ、あれっ、だめだ。
おい早くしろよ、おっさんタッチパネルの使い方分かってねぇんじゃねぇのか、きっと後ろの若い人はそう思っているに違いない。
背後から、グイグイ、プレッシャーを感じる。
ああ!何度やってもクーポン画面にならない、店員さんを呼ぼうか、いや、そうなるとさらに時間がかかってしまう。
いったん諦めて、列を抜けよう。
「クッソー!」
俺も、そこそこの声を出していた。

※続きは後日

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