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「愛してます」は怖い言葉

記者会見の冒頭、青年は「愛してます」と言った。青年の妻となった女性はその言葉を平然と受け止めていた。何度も言われているからなのか、驚きも照れもしなかった。
このシーンを見て、私は吉田拓郎の『言葉』を思い出した。というか、頭の中にこの曲が流れてきた。作曲は吉田拓郎、作詞は松本隆である。

この歌は、男が女に「愛してる」と告白するシーンを描いたものである。というと、「甘く切ないラブソング」と思えるが、この曲はそうではなく、重く切ない。
愛を告白する男は、「こんな歳になって愛も恋もないよな」という四十路を越えた中年男。そして、告白される女は、「今さら愛も恋もないよね」という離婚歴のある30代半ばのシングルマザー(冒頭の「電話の声はささやきまじり」は近くで幼子が寝ているの意)。こういう二人だと「愛してる」も重くなるのだ。

告白すべきかどうか、男は三ヶ月悩み、最後の三日は苦しんだ。女は新しい愛に踏み切ることを怖がっている。男は自分の過去に縛られている。だから、悩んだ。苦しんだ。
結局、男は告白する。そうするしかなかったのだ。
そして、男は告白をした後、こう思う。

「怖い言葉を言ってしまった。もう友達ではいられないんだよ。人生さえ塗り替えるほど、怖い言葉を言ってしまった。」

あー、やっちまった。もう後には引けない。言葉に責任を取らなければならない。男はそう思ったのだ。
記者会見の青年も何年か前のある日、この言葉を口にしたのだろう。そして、その時、彼は、吉田拓郎が歌った中年男のように、「怖い言葉を言ってしまった。もう友達ではいられないんだよ。人生さえ塗り替えるほど、怖い言葉を言ってしまった。」と思ったはずだ。
そして、彼の人生は本当に塗り替わった。
「愛してる」は怖い言葉である。

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