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気まぐれな彼女

3
僕と彼女のちょっとだけ不思議な日々についての作品集
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ブルームーン

明るく輝く黄金色のまん丸。手元に落ちるライトの光を返した瞳に、ぼくは読んでいた雑誌を取り落としてしまう。
「ねえ、大丈夫」
 膝の上にするりと滑り込んできた彼女がくるりとした目で訊いてくる。なにをと訊き返さなかったのはどこまで見透かされたのかを知るのが怖かったからだったと思う。
「もが」
 返事の代わりにぼくは落ちた雑誌を拾い上げ、ぼくに挟まれた彼女が呻く。じたばたと振られた細腕が背を叩く。それか

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なんでもない夜に向いたこと

 家に帰ると彼女がカーペットの上に倒れていた。
 そう思って近づいてみると寝転がっているだけ。指先がカーペットの上を這っている。
「どうしたの」
 僕の声に気だるげに顔を回して無秩序に垂れた黒髪の隙間からその眼を見せる。眠たげなままの目蓋の奥にある色は曖昧で、焦点が僕に合っているのかどうかもわからない。
 おかえりぃと間延びした声で僕を迎える。
 彼女のすぐ傍まで寄ると、彼女の胸の辺りに目覚まし時

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ずっと一緒に/再会のないように

 焼けたソーセージと白身を見つめながら大きな欠伸を漏らす。
 眠い。片目に浮いた涙を拭う。潤んだままの瞳の中で陽光がきらきらと輝いている。綺麗なのはいいことだが、料理中は鬱陶しいことこの上ない。早く隠れてほしいけれどお天道様が僕ひとりを見ていたとしても、それはそれで怖いから、こちらが瞬きをして瞳の上から涙を追い出す。
 もう一度湧いた欠伸を噛み殺して、視線を下げると黄身もすっかり固まってしまってい

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