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靴を洗い、あきらめ、そして浮足立つ。


靴を洗った。

先日記事にした、珍しい「掃除日和」の際に。


今年の春に購入した、NIKEのエアマックス。
白とベージュっぽいシンプルで優しい色味が気に入っていた。

でも、毎日履いていたせいで、すっかり汚れてぼろぼろになってしまった。
もともとベージュなのか、汚れてくすんでいるのか分からないくらい。
「洗わなきゃ、きれいにしなきゃ」と思いつつ放置していて、ようやくバケツに放り込んだ。

日ごろ、靴の手入れもろくにしない女なので、やり方がよく分からない。
事前にネットで調べ、ウタマロクリーナーで浸してこすって洗えば白くなる、というのを見たので、子どもの世話の合間をぬってやってみた。
泡まみれの靴を、ブラシでゴシゴシこすってみる。


それにしても、靴を洗うのなんて、久しぶりだ。

小学生の頃、週末には上履きを持ち帰り、庭の蛇口の下に洗面器を置いて、ごしごし洗った。
専用のブラシがあって、それを上履きの中に突っ込んで洗う。
靴をひっくり返すと、でこぼこ模様のあいだに、粘土や石が挟まっていて、それが綺麗にとれるとすっきりした。

そんな記憶を思い出しながらこすってみるも、ぜんぜん白くならない。

おかしい。
よく見てみると、黒いのは汚れではない。


キズだ。

踵も側面もつま先にも、ガリッと削れてできたらしいキズが黒くなり、靴の汚れのように見えていたのだ。
履いている時は、そんなことにすら気づいていなかった。

さらに、中敷きをとってみると、まあ足の形がくっきりついており、内側もすっかり黒くなっているではないか。

汚い。
こんな汚い靴を履いていたのか。
分かってはいたものの、あまりのみすぼらしさに愕然とする。


靴は、その人となりをあらわす、とはよく言ったものだ。
私はまさに、こんなかんじの人間だ。
上部ばかり気にしいで、見えないところは適当に済ませる。

靴、下着、爪、カバンの中身。
そういうところこそ、丁寧に、私の心地よい姿にするのがいいと分かっているのに、大人になっても、おざなりなままだ。


今読んでいる、松浦弥太郎さんの『今日もていねいに。BEST101』という本。
「きれいな靴というのは、「新しい、古い」の問題ではありません」とあって、ぎくりとする。

みんなが履いているNIKEの靴が欲しかったから、手に入れた。
それしかないから、毎日履いた。
汚れていても、曲がっていても、手入れを怠り、見て見ぬふりをした。

でも、松浦さんがおっしゃるように、私の「靴をどこかで脱いで、ちょっと離れたところから見てみる」と、それはそれは薄汚れていて、まるで外作業でもしている人の、作業靴のように思われそうだ。

恥ずかしい。
そんな私では恥ずかしい。
そういえば、昔デートした人にも、「服は可愛いけど、靴がぼろぼろやん」とダメ出しをくらったことがあったな。
うるさいねん、と思っていたけど、彼はまさしく正論だった。


一方で、仕方ないよ、とも思う。
この靴を履いた場面を思い出す。

私はこの靴を履いて、長男と公園を走り回った。
私はこの靴を履いて、次男と何度も砂場をした。
朝忙しく子どもたちを登園させるとき、自分の靴を履く余裕もなく、玄関から飛び出す子どもたちを車から守るため、かかとを踏んで後を追った。

子どもといっしょにいるとき、私はいつだって汚れる場面に出くわすし、自分を後回しにせざるを得ない。
そんなとき、「ちょっとお母さん、靴履き替えてくるから」とか、「今日は靴が汚れたら嫌やから、砂場はやめておこう」とか、そういうことを言いたくない。

だから、靴も、時には服だって、汚れたってかまわない。
そう思って、身に着けている。


言い訳みたいな気もするけれど、それも本心。
だから、この汚れて汚い靴のことを、あまり否定するのはよしておこう。

バケツの中でぷかぷか浮かぶ靴を見ながら、私はもう一度、ウタマロクリーナーを吹きかけて、ブラシでゴシゴシこすってやった。

早く手入れしなくてごめんね。
踵踏んじゃってごめんね。
後回しにしてばかりの靴に労わりの言葉を思い浮かべる。

やはりこれ以上、白くはならない。
・・・こりゃだめだ。
私は、靴をぴかぴかにするのをあきらめた。



靴を干しながら、新しい靴のことを考えた。
これはもう、新しく買おう。
ずっと新しいのを買うのをためらっていたけど、洗ってみてもどうしようもないと分かったことで、踏ん切りがついた。

来年は、新しい靴で、また子どもたちと駆けずり回ろう。
買う靴は、またNIKEにしようかな。
この靴が気に入っているので、また同じものをネットで買ってもいい。
本当は並んだ靴を試着して、ベストフィットを探すのも好きなんだけど、子連れに試着の難易度は高い。

それでも、「靴を買う」って、わくわくする。
足元が綺麗だと、なんだか自分がいい感じに思えて浮足立つ。
松浦さんも「足になじんで履き心地が良い靴をかわいがり続けることは、すてきなおしゃれ」だと書いておられるし。


来年に向けて、買いたいものができた。
それだけで、年始が楽しみになってくるから、私という人間は単純なのだ。
もちろん、いい意味で。

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