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雪国の店主 「今年の冬は暖かい」

01|  雪国の店主 「はじまり」
02|「熊野古道編」

主人公:碧。生まれ育った景色と何より空気の美味しい十和田湖が好きで住んでいるライター。小説家。ライター仕事は旅行記のような記事を書く。

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今年は「あったかいな〜。」

そんな声が近隣の住民たちから聞こえてくる。確かに、例年であれば、冬と呼ばれるこの季節は30cmから50cmほどの雪が積もっている。数年前までこの季節は雨なんぞや降ることもなく、常に麗華の中で暮らすことになる。「今日はあったかいな」と思い、温度計をみると1℃だったりする地域である。

そんな地域の積雪が、今年は10cmにも満たない日々が続いている。年末から「そのうち雪が降るだろう」と思っていた碧は、とうとう3月のカレンダーを捲る自分自身の指と、もう新年から二ヶ月経ってしまったという事実に驚きを覚えている。今年は雨も降れば、まともな雪らしい雪が数回しか降らず、裏山の笹がなかなか雪で被さらない日々が続いていた。例年だと、うまくいけば12月中には山の中の笹などの下草が隠れ、地域の大人たちが放課後の小学生の様に裏山に集まり、ふかふかに積もったパウダーの山を、「登れるスキー」で遊ぶのに、今年はなかなかその機会が訪れなかったのである。

地域のお爺ちゃん・お婆ちゃんたちも面白い。雪が多ければ「雪掻きが大変だ、降らないで欲しいぃ」と言っている割りには、雪がなければないで「降らないから、寂しいね〜」なんて、言っている。人は常に隣の芝は青く見えるかなぁと感じる。

一方で、碧を含めた30代前後の同世代の友人たちは「もっと雪降らないかなぁ」と常につぶやいていたが、それももう3月に入ってしまった。3月1日には1日どかっと雪が降ったようだが、碧はちょうどその日は取材で外出しており、その機会に恵まれず、機会を逸していた。カレンダーをめくっているのは3月3日雛祭り。妹のもみじは転勤でいなくなってしまい、飾り付けをすることもなく、過ごしていた。

ふと、2ヶ月を振り返る。今年のお正月は大変だった。新しい年を迎えて夕方から地域の友人たちと晩酌を始めていたところ、地震と津波警報が発令され、全てのテレビ局が災害に関わる放送に切り替わった。正月でまったりして、隙間だらけの心に警報が鳴り響いたのである。その後、いくつかの地域で大きな被害がもたらされ、気持ちが落ち着かない日々を過ごしている人たちもまだいるようであるが、碧自身も2011年の東日本大震災の際に、被災地を訪れ、様々な話や映像を見聞きしていたことがあり、記憶が呼び戻されて、フラッシュバックのような体験をしてしまった。それ以降、なかなか被災された地域の情報を見れないのが実情である。そんな今年の始まりから、早2ヶ月。

「もう、3月か。」

先日、取材先から戻る新幹線の車内雑誌に、福井県の水月湖の湖底にたまった45メートルの泥を標本展示している「年縞」に関わる記事が掲載されていた。約7万年分の標本で、地球の動きがわかるものだ。

本来ならすでに氷期に入っているはずの時代になる。
 一方、人類による温室効果ガスの排出により、地球の気温は上がろうとしている。そのため、氷期であるはずの地球は暖かい時代のままだ。つまり、二つの矛盾する力を抱えているわけで、地球の気候を1万1700年ぶりに不安定にしてしまう可能性があるのだという。不安定な気候では、農耕ができなくなったら、いったいどうなってしまうのだろうか。

トランヴェール 2024.3

「本来は氷期だったはずの地球は、今暖かいのか。」
 万年単位の気候変動に抗うほどの力が、この百数十年単位で作用しているのか、と思うと、動物としての“人”はどうした方が良いのか、持続可能性な社会という命題を社会は抱えているが、どこに向かっているのかと改めて思う。暖かい冬とは言え、周囲にはまだ雪が残り、今日の外気温は0℃を下回っている。
薪ストーブを見ながら、ウイスキーを片手に暖かい冬を考えていた。

(第三話 完)

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