見出し画像

漂流教室 No.37 「古典を少々 『源氏物語』から 『ときめく』」

いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。

「いったいどちらの帝の御代であったろうか、女御や更衣がおおぜいお仕えなさっていた中に、さほどのご身分ではないおかたであって、たいそう帝のご寵愛を受けなさった方がおいでであった。   訳…私」

「すぐれて時めきたまふ」を
「たいそう帝のご寵愛を受けなさった方」と訳しました。

つまり「時めく」は「帝のご寵愛を受ける」とした。
長い訳ですね。4文字が9文字になっている。倍以上だ。
もともと、古典を現代語訳するとエラく長くなります。
少なくとも1.5倍にはなるかな?

さて、「時めく」の意味は、
「その時や時代に乗って、もてはやされる、栄える」ということです。
「めく」は接尾語。
「そのようになる、とか、それらしくなる、そのような感じがする」なんていう意味です。

主題は「女御・更衣」です。
天皇の奥さんですね。
天皇の奥さんとして、「時流に乗っている」ということはつまり、
天皇さんに愛されるということです。

誰よりも天皇に愛されて、子どもが産まれ、その子が男だった場合は天皇家の跡取りになれる!
女御や更衣として天皇家に入内(じゅだい、内裏に入るんですね)したからには、目指すところはこの一点。
孫が天皇になれば女御や更衣の父親は、権力を握り放題。

ということで、天皇の寵愛を受けるということは、
「時めく」んですね。

「時流に乗る」
あまり現代では使わないかな?

今を去ること40何年か前、クリスタルキングというバンドが、
「大都会」というシングルを大ヒットさせました。
やたらハイトーンボイスのボーカルから始まるこの曲には普段シングルを買わない人にもつい買わせちゃうような力がありました。
(買うてしもた…)

その「大都会」のB面が「時流」。
昔はレコードだから、表面をA面、裏面をB面と言いました。
A面を聞き終えると、レコードをひっくり返してB面をプレーヤーにかける。
趣深い作業でありました。

A面B面のレコードの次のメディアだから「CD」っていうんだな。

LPレコードなんかデカかったですよね。
あのジャケットがよかったなあ。これは芸術作品か!というジャケットもあった。

私、高校時代には芸術は美術を選択しておりました。
で、3年生の時の創作課題がオリジナルレコードジャケット。
EW&F(アース・ウインド・アンド・ファイア)をイメージして、大きな星のイラストみたいなジャケットを作りました。
わが友、H君は自他ともに認めるイラストレーター。
彼も中世の騎士を描いていました。

われら二人の傑作はその後、美術を選択した後輩たちにお手本として示されたそうです。
その時の美術の先生の一言。
「ところで、こいつらは二人とも浪人中や。」
後輩たちはあまり作品制作に入れ込みすぎると将来たいへんなことになると学んだそうです。後輩たちのお役に立ててよかった…
(一年の浪人生活を経て、私もH君も国立大に入ったんですよ。)

ということはさておいて、『源氏物語』で時めいちゃったのは、
「いとやむごとなき際にはあらぬ」方ですから、女御ではない。
女御さんはだいたい大臣家や場合によっては皇族からお嫁に来ます。
すごく「やむごとなき際」です。
天皇の寵愛を一身に受けたのは更衣さんだったんですね。
天皇の妃としてはそうたいした身分ではない。

『源氏物語』の悲劇性はここから始まります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?