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読書録117 TAJIRI著「真・プロレスラーは観客に何を見せているのか」

令和のプロレスファンに、「ガチヤオ論争」とか「ミスター高橋本」とか「ケーフェイ」とか言ってみても、きっと通じないだろう。

「怪しく」て「卑猥」で「曖昧模糊」とした、「巨大なグレーゾーン」であった「プロレス」も、長い低迷期を経て、白黒はっきりした「スポーツエンターテイメント」として再認識されたんじゃないかと思う。

だけれど、「日本プロレス界の父」力道山先生の出自である「相撲界」同様に、閉鎖的な「奥の院」が見え隠れする雰囲気は残っているようにも思う。 

業界を広げるために必須である「プロレスラー志願者」が読むべき技術書の類いは「トレーニング理論」か「プロレス技の技術」という枝葉の部分に特化したものばかりで、いわば「ケーフェイの外側」からの発信だ。

TAJIRIさんの著作の最大の面白さは、「ケーフェイの内側」である「プロレスの根幹」の技術や理論を、惜しみなく発信しているところだと思う。

彼の著作を読み込んでいけば、身体的なポテンシャルに違いはあれど、素人でも最低限の「プロレス」が構築できてしまう。

ある意味で、業界では類のない「プロレス解体新書」ともいえるのが、本書も含めた「TAJIRI本」だと、勝手に思っている。

とはいえ、お楽しみはそれだけではないのだ。

TAJIRIさんの文章力は高く、描かれるエピソードの解像度が繊細かつ鮮やかで、人物達も活き活きとしているから、普通に「エッセイ」として面白く、手元に置いて気軽にパラパラと読めてしまうのがとても素晴らしい。

本書は、前作の文庫版(加筆修正版)かな?と思っていたら、ガッツリ書き下ろしだったのもうれしい。

後、TAJIRIさんや武藤敬司さんのような、「アメリカンプロレス」で、きちんと「メシを食って」きた人たちが、「亜流WWE」のようになった、日本のプロレス界に危機感を感じているのも興味深い。

個人的には、ションベンとビールとスルメの臭いが漂い、怪しげなギミックに溢れた「昔のパリーグ」みたいなプロレスに郷愁を感じたりはするな。

これも多様性って事でどすか?(笑)



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