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読書録118 三浦英之著「涙にも国籍はあるのでしょうか」

東日本大震災が起こる2年前に亡くなった父は、生前いつか関東にも大きい地震がくるからと、地震の際に気をつけるべき事について俺や弟にうるさく言っていたのだけれど、そういえば「高い所に逃げろ」ってよく言ってたな…と、あの日が訪れるたびに思い出したりする。

父自身は、横浜で生まれて戦中に祖父の故郷である千葉県木更津の金田村(今、アウトレットとかすごいあたり)に疎開しただけで、東北に所縁はないし、大きい地震に遭う事もなかったのだけれど、関東大震災の津波で木更津界隈も被害があり(清水一族も本家の主屋が流されたらしい)被災した人達から叩き込まれた教えなんだろう。

うっすらとした津波への恐れの下地があった上に、「あの圧倒的な破壊」をリアルタイムで映像を見てしまった衝撃もあって、いまだに震災関連の本は読むようにしているのだけれど、中でも本作の著者である三浦英之さんの「南三陸日記」は印象的で、新たに本作が出版されたというので、早速手に取った。

「その視点は欠けていたな」というのが、最初の感想。
いまや日常に外国人の存在は珍しいものでは無く、コンビニから居酒屋まで外国人の店員さんが多いから接しない日は無いくらいなのに、「あの震災」で被災された外国人の方々の状況ってほとんど知らなかった。

実際、著者は丁寧に綿密に取材を重ねるけれど、辿れないというか、辿りようもないパターンも多い。

綺麗事もイデオロギー的な主張も挟まずに、ひたすらリアルに密に「人間」が描かれているから、ものすごく伝わってくるんだよなぁ…

SNS等で見かける、著者の政治思想を含んだ発言には相容れないと思いつつも、「五色の虹」「南三陸日記」「涙にも国籍はあるのでしょうか」の三作品が好きなのは、「不純物を交えずに真っ直ぐ人間を描いている」からなのかなぁ…と。

後、やっぱり地に足付けて「南三陸」に根付いて得た体験だとか関係性だとかは尊いよね。

素晴らしい作品でした。

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