女性研究者の比率は増えている?―化学編―

 巷では「理系分野は女性が少ない」と言われますが,日本化学会の学生会員では女性の比率が微増しています。私の所属する公益社団法人日本化学会から直近4カ年分の学会員の性別構成のデータをいただきましたので,女性研究者の比率について考えてみました。

1 日本化学会とは

 日本化学会は,理学部化学科で学会に所属する場合のファーストチョイスになる学会です。

日本化学会は、1878年(明治11年)に創立され、会員約3万名を擁するわが国最大の化学の学会です。化学・化学技術の知識を進展させ、人類の発展と地球生態系の維持とが共存できる社会の構築を目指します。
日本化学会より

 化学の関連分野全体を網羅する21ものデビジョンがあり,学校で習う,理論化学,物理化学,無機化学,有機化学のほかにも,化学教育や化学経済などの様々な分野があります。

2 日本化学会の女性比率推移

図1 日本化学会の学生会員および正会員の女性比率推移(出典:日本化学会)

 日本化学会からいただいたデータを,Tableauで集計して図1に示しました。直近4カ年では,学生会員の女性比率が2%上昇しています。一方で,社会人や大学教員などの個人正会員の比率は9%で変化がありません。比率からは,大学生および大学院生の女性会員が増えている一方で,社会人や大学教員は横ばいであるように思われます。そこで,会員の実数を比較してみましょう。

3 学会員数の推移

図2 日本化学会学会員数推移(出典:日本化学会)

 図2より,直近4カ年で,女性の学生会員は1.4%(16人)の増加を示しています。一方で,男女,学生正会員合わせた全会員数は6%減,人数にして約1800人減少しています。図2が示す通り,減少の大半は男性会員で,正会員(定年退職によるものでしょうか)が7%減(約1300人),学生会員に至っては8.5%減(約400人)の大幅な減少です。
 女性正会員は5.4%減(約100人)ですので,全体的な会員数の減少傾向のなかで,女性の学生会員が増えていることは目立った特徴と言えます。学会員数の減少は,学会の活性が落ちているのか,それとも学生数そのものの減少によるものなのでしょうか。

4 理学部化学科の学生数推移

 文部科学省が公開している学校基本調査から理学部化学科の学生数を調査しました(図3)。男女別で集計されていますので,1~4年生,修士,博士の3つに分類して集計しました。こちらは2010年から2017年の8カ年分でグラフを示します。

図3 理学部化学科学生数推移(出典:文部科学省「学校基本調査」)

 2010年と2017年比較では,大学生は13%減,修士は2%減,博士は19%減となっています。図3からは,男子学生が2014年から急速に減少していることが,ハッキリと分かります。
 2014年と2017年比較では,男子学生は11%減(約1000人),男子修士は1.6%減(約20人),男子博士では18%減(約100人)の大きな減少となっています。女子学生は6%減(約200人)ですが,減少の割合は男子学生の半分です。そして,女子修士は6%増(27人),女子博士は2%増(2人)です。とくに女子大学院生の修士課程進学者が増加しています。
 化学領域では,男子学生が減る一方で,女子学生の減少は男子学生の半分で,女子大学院生は増えています。化学領域では,女性の活躍が進んでいるようです。

5 人口はどうなっている?

 日本は現在人口減少社会に突入しています。学会員数の減少と若年層の人口減の関係を考えてみます。総務省が公開している人口推計から,大学生と大学院生に相当する20~24歳人口を抽出しました(図4)。

図4 日本の20~24歳総人口の推移(出典:総務省e-Stat「人口推計」)

 2014年と2017年比較では微増になっていますので,学生数の減少は,人口減少による影響は小さく,メディアの言う文高理低傾向による影響が大きいようです。

6 化学領域の女性比率

 日本化学会からいただいたデータと学校基本調査の結果を,女性比率で集計しました(図5)。

図5 化学領域の女性比率(出典:日本化学会,文部科学省「学校基本調査」)

 日本化学会と理学部化学科の女性比率から,女性の大学院進学率の増加に伴って,日本化学会の学生会員の女性比率が上昇していることが示されます。一方で,学部生の女性比率(30%)と学生会員の女性比率(21%)には9%の開きがあります。大学院生の実数(2468人,学校基本調査)は,学生会員の実数(5704人,日本化学会)の半分の割合になりますので,約2300人を占める学部生のうち,女子学生は学会に所属しない傾向があるようです。
 また,正会員になると,女性の比率は学生会員の半分以下(9%)にまで落ち込みます。この比率は,学校教員基本統計(文部科学省)から算出した理学部化学科の大学教員の女性比率とほぼ同率(10%,2016)です。「化学領域の大学教員はほぼ全員が日本化学会に所属している」と仮定すると,正会員の86%(男性81%,女性90%)が大学教員で占められていますので,大学教員の女性比率に近いのでしょう。

7 世界ではどうか

 PLOS BIOLOGY誌に「科学におけるジェンダーの格差:女性が等しく表現されるまでの期間は?」という論文が発表されています。詳しい解説は,こちらで紹介されていますので,ここでは結果だけ見てみましょう。

図6 世界の化学領域の学術論文のなかで女性著者が占める割合(出典:The GENDER GAP in Academic Publishing)

 化学領域の世界の学術論文における女性著者の割合は29%です(図6)。世界的に見ても,化学領域は,まだまだ女性が少ない領域のひとつです。ちなみに,日本では女性著者の割合は18%まで下がります(図7)。

図7 日本の化学領域の学術論文のなかで女性著者が占める割合(出典:The GENDER GAP in Academic Publishing)

8 女性の活躍のために

 理系の才能において男女の差は小さいことは,研究(Alyssa,O’Dea)で示されています。性別は才能を制限するものではありません。
 こうした背景によって,従来男性が主体であった化学領域でも,近年女性の研究者が増えつつあることが示されています。一方で,就職先のひとつである大学教員の女性比率は10%と,まだまだ低い現状があります。女性研究者の活躍のためには,家庭と仕事の両立や育児期間後の復帰の問題がある(平成27年度版男女共同参画白書)とされています。近年,各大学で,それらの支援体制の構築が進んでいることも,希望を持って大学院に進学する女子学生が増えている要因かもしれません。積極的な女性支援によって,男性も働きやすい職場環境を整備することで,化学領域はより活性になり,それによって日本化学会の会員数も増えていくのではないかと思います。

引用論文

・Katsu1110,「科学技術分野の日本の男女格差って……?
・Alyssa J. Kersey, Emily J. Braham, Kelsey D. Csumitta, Melissa E. Libertus & Jessica F. Cantlon ,”No intrinsic gender differences in children’s earliest numerical abilities”,npj Science of Learning,volume 3, Article number: 12 ,2018.
・Luke Holman , Devi Stuart-Fox, Cindy E. Hauser,“The gender gap in science: How long until women are equally represented?”,PLOS BIOLOGY,2018.
・内閣府,「平成27年度版男女共同参画白書」
・日本化学会,「会員数推移」
・文部科学省,「学校基本調査」
・文部科学省,「学校教員基本統計」
・R. E. O’Dea, M. Lagisz, M. D. Jennions & S. Nakagawa,“Gender differences in individual variation in academic grades fail to fit expected patterns for STEM”, Nature Communications,Vol.9,Article number: 3777,2018.
・総務省統計局,「人口推計」

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