勉強だけ出来る発達障害者はどのような業界・職種を選択すべきか考察してみた

今回は高学歴で勉強は得意であるものの発達障害(ASD、ADHD)を抱えている人におススメしたい業界や職種に関して筆者のこれまでの体験と考察の下で記していきたいと思う。
結論としてどのような性質を満たす業界・職種であれば発達障害の方に向くのかその特徴をまとめてみた。

・原則的に東京勤務、本音を言うと本店勤務に限定
・積極的な対人コミュニケーション能力、対人能力を要求されない
・激務過ぎない
・専門性が身につき、いざとなれば転職することが出来る
・異動が頻繁に存在せず、特定の職種にコミットすることが出来る
・一定程度ルーティンワークも存在する
・大手企業もしくはその関連会社で在り、解雇規制に守られている
・大学・大学院や資格を通じた勉強が実務に活かせる
・過集中や特定の領域へのこだわりを活かすことが出来る
・朝が早すぎない、リモートワークが可能
・パソコン業務、現場仕事が存在しない
・マルチタスクが要求されない

勿論上記の全てを満たす職種は殆ど存在しないと思うし、ひとえに発達障害と言っても人によって症状は異なるため、その全てを満たす必要はない。一般的な発達障害の症状を抱えている人であれば満たしたい条件を列挙した点はご理解いただきたい。

まずはそれぞれの条件をなぜ満たす必要があるのかという点を発達障害の症状を踏まえて一つ一つ考察していきたいと思う。

★【原則的に東京勤務】
★【積極的なコニュニケーション能力、対人能力が要求されない】
最初に断っておかないといけないが、筆者は就職して以降、東京でしか勤務したことがない。出張で海外オフィスに行ったことはあるのだが、30代にもなって東京でしか勤務したことがない。余談ではあるが、東大卒の友人や同期は外資系に進んだものを除いて結構な確率で海外勤務を経験している。特に日系金融に進んだものの大半はニューヨークやロンドン、香港等Tier1と呼べる世界の大都市で勤務しているものが本当に多い。そう考えると筆者のように東大を出ていながら東京にずっとステイしているのは既に頭打ち感があることが分かる。
しかしである、筆者はそれでも発達障害を抱えているのであれば東京での勤務をおススメしたい。これは友人や同期から聞いた話や自身が長期の海外出張に行った経験から出した結論である。

日本の大企業の殆どは本社を東京に構えており、その他全国に支社を有しているパターンが多い。東京以外で勤務することは基本的に支社で勤務することを意味する(一部の大手企業であれば、海外の拠点も有していることが多い)。
この支社で勤務することは発達障害系の方には非常にネックになりやすい。その理由としては、以下の4点が挙げられる。
①    支社・支店は基本的に閉じられた人間関係で完結する世界で在り、本店よりも濃密な人間関係を要求される。メーカーであれば工場勤務の可能性もある
②    支社・支店の業務はミドルオフィス・バックオフィスというよりもフロントオフィスに位置することが大半。営業がメインの職場になる
③    そもそも都心から離れた生活は発達障害の人には向かない
④    支社での業務は転職市場で評価されるものではないケースが多い

一点目から説明していくと、支社・支店は基本的に閉じた世界であり、逃げ場がない世界である。また体育会出身の方が配属されやすいこともあり、雰囲気もマッチョな世界になりやすい。基本的にはその地域出身のメンバーが配属されるわけではないため、休日のコミュニティーも会社のメンバーで閉じていることが多い。イメージとしては新卒の同期3~4人で同じ支店に配属され、近い年次のメンバーで休日もドライブやスキーに行ったりするような世界だ。発達障害、特にASDを抱えている場合は、このような濃密な人間関係に耐えられない可能性が高い。業後に飲み会を入れられることが多くなると、自分の生活リズムを保つことも難しくなる。ASDの人は基本的に同じような生活リズムが続くことに執着する人が多い。そのようなマイルールに拘ったマイペースな生活がキープできなくなってしまう。

筆者は結局このような世界は経験することはなかったが、新卒の研修の段階で数日間同じ研修会場で研修を受け、毎日同じメンバーと飲みに行っただけで本当に辛かった記憶がある。このようなこともあり、地方の支店に配属されていたらすぐにうつ病になっていた可能性もあると思う。支店全体での飲み会もあるだろう。そのような飲みの場で発達障害の人が周囲を気にしながらお酒を注いだり、乾杯の音頭を取ることは出来るだろうか。
メーカーであれば工場勤務になることもあると思うが、この場合は地元のマイルドヤンキー層と交わることもあると思う。マイルドヤンキー層には発達障害系の人は殆どいないので、尚更会話についていくことは厳しいと思う。

二点目であるが、支店・支社は総合職であれば基本的に営業系の職種がメインになることが多い。管理系の部署は基本的に本店に配置されることが多く、支社・支店は地方の顧客にリーチするために設置されていることが大半だ。ADHDの症状だけであれば営業は案外向いている可能性はある。ただASDの症状を抱えている場合は、対人関係構築の難しさから営業系の職種は向かない可能性が高い。

三点目であるが、個人的には発達障害の人は田舎暮らしよりも都心の方が向いていると思う。都心の良さでもあるし悪さでもあるのだが、人が多すぎて、周囲の人間が自分に対して向ける関心が地方よりも圧倒的に薄い。これは関西の郊外と都心に暮らしたことがある筆者の経験から殆ど間違いないと思う。都心の方が逃げ場があると思う。集団にうまく溶け込めない発達障害の人にとってこれは結構大事なポイントだと思う。転職のしやすさという観点でも、都心に住んでいた方が圧倒的に有利だ。ただこのポイントはオンライン面接が可能になった今ではそこまで重要なポイントではないかもしれない。

四点目のポイントであるが、営業店での業務は転職活動では評価されにくい。例えば金融業界であれば、支店は縮小傾向であるし、支店業務に関しては外部から獲得しなくても自社のメンバーで調達可能であるからだ。発達障害の人には転職という逃げ場がどうしても必要になる局面が出てくる。筆者も転職経験者であるし、一つの集団に長くいるとどこかで躓くことが出てきがちである。そのようなケースに備えて、常に外部の転職市場にアクセスしておく必要がある。ちなみに筆者の意見としては、転職はしないで良いのであればしない方がベターだと思う。今の日本では転職はマイナスになることが多いし、そもそも新しい職場に適応するには相応のコストが必要だからだ。退職金の面でも不利になることが多い。ただそうは言っていられない事情が発達障害の人にはあるのだ。

上記で挙げたポイント以外にも東京勤務にはメリットもあると思う。人数が多いので、色んな人との出会いがあり、自分に合った人を見つけやすいというのもメリットかもしれない。
結論になるが、支店よりも本店、地方よりも都心の方が発達障害の人にははるかに生きやすい世界だと思う。

★【大手企業もしくはその関連会社で在り、解雇規制に守られている】
発達障害を抱えている方には実力主義の外資系企業よりも解雇規制に守られている日系企業をおススメしたい。外資系企業の方が濃密な人間関係は要求されにくい傾向にあるのは間違いないが、同時によりドライであり仕事がうまく回せないと居場所がなくなり、最終的にはアップオアアウトの下で事実上解雇されてしまう場合が多い。
発達障害を抱える方であっても職場がフィットすればきちんとパフォーム出来る可能性は十分にある。しかしうまくいかない場合は、全くパフォームできないこともある。その点日系大手企業であれば、出世は出来ないかもしれないが、一定の年次までは比較的年功序列で上がれる可能性が高い。どこまでの年収であれば自動的に行けるのかというのは業界で決まってくることが多い。日系金融であれば1000~1300万、総合商社であれば1500万といったような感じである。正直ここまで確保できれば生活に困ることはないだろう。
勿論仕事上で確り成果を残し、やりがいを感じたいというのは最もな意見ではあると思うのだが、それよりも発達障害を抱えている方にはとにかく生きていくことを優先してほしい。例え、職場で窓際であっても、仕事に全くやりがいを感じることが出来ていなくても、ある程度お金に困らず生きていくことが出来ればきっと不幸な人生にはならないと思うからだ。
解雇規制に守られてた大手企業をおススメしたい理由のもう一つとしては、学歴や勉強が出来ることが大きなアドバンテージになるというのもある。外資系企業やベンチャーであれば、学歴も大事だがそれより何より「実際に今仕事が出来るか」という点が重要になる。
その点、日系企業は学歴主義が残っているし、実際に今の仕事が出来ているかという点で評価される局面はベンチャーや外資系企業と比較すると少ないと思う。このため、自分が努力して身に着けた数少ない取り柄である学歴を最大限に生かすことが出来るのはこのような日系大手企業であると考える。
あまり出世は期待できないので、稼げる業界の中の出来るだけ企業体力がある企業に何とかして潜り込みたい。個人的には稼げる業界で在りかつ陰キャラでも生き残れる金融業界やIT業界は発達障害におススメ出来る業界だと思う(部署による)。
以前の記事で紹介したように一回入ってさえしまえば、不祥事さえ起こさない限り解雇されることはないのだから。

★【激務過ぎない】
★【朝が早すぎない、リモートワークが可能】
★【パソコン業務メイン、現場仕事が存在しない】
発達障害、特にASDの特徴として、睡眠障害を抱えており夜型人間であることが多いことが挙げられる。また感覚過敏であることから疲れやすい。
筆者はこの両方に当てはまっている。

このことから、例えば連日のように深夜残業を要求されたり朝が早すぎる業界・職種は避けた方が良い。筆者個人の経験としては連日22時まで業務が続いたり、朝7時スタートなど要求されると睡眠不足のため、全くパフォームできなかった。
ただ激務な職場であったとしてもリモートワークが可能であるならば、幾分か負担は軽減される。人間関係が得意でない発達障害の人にとって、家で黙々と業務を行えるリモートワークはメンタル面でもプラスに働くことが多いと思う。
ではリモートワークが可能な業態とはどのようなものかを考えると、これはパソコン一つで完結する業務であるとの結論には容易にたどり着く。
工場で機器をいじったり、実際に顧客のもとに通って営業活動を行う必要があるのであれば、リモートワークはなかなか難しい。パソコンさえあれば業務が完結するようなブルシットジョブの多くは発達障害系とは非常に相性が良い。しかもこれはASDの手先が不器用という弱点もカバーしてくれる。現場仕事の場合は機器をいじる必要があるかもしれないが、パソコンワークでは手先の器用さは要求されない(と思う)。
このような背景から例えば金融業界であれば、リスク管理、経理、法務、コンプライアンス等のミドルオフィス系は結構フィットすると思う。いずれも経理の繁忙期を除いて特段激務というわけでもないので。

★【専門性が身につき、いざとなれば転職することが出来る】
★【異動が頻繁に存在せず、特定の職種にコミットすることが出来る】
★【大学・大学院や資格を通じた勉強が実務に活かせる】
★【過集中や特定の領域へのこだわりを活かすことが出来る】
これはもう何回も繰り返し述べてきたことであるが、発達障害の人はどこかで転職する必要が何らかの事情で出てくる可能性が高い。いざ転職したいとなった際に重要になるのは、当たり前であるが市場価値が高い業務の経験を有していることである。その業務がなるべく汎用性が高くかつ専門性が高いものであればなお良い。
特定の業務領域で長くやっていくために重要なポイントは内部要因と外部要因に分けられると思う。
内部要因としては、まずはその業務において重要となるスキルや経験を高いレベルで有しており、会社内のその領域において必要不可欠とされていることである。そのためには、業務に真剣に取り組むことは勿論、大学や大学院での勉強、資格試験の取得を通じた勉強も重要になってくる。この際に活きてくるのがADHDの過集中やASDの特定の分野へのこだわりという点である。これらの特性を活かすことで定型発達の人よりもある領域でより深く入り組んだ知識を身に着けることが出来るかもしれない。実際筆者はこれまで何度か発達障害系の人がその高い専門性ゆえに定型発達の人よりも職場で重宝されているシーンを見てきた。
特定の分野でスペシャリストとみなしてもらえることが出来ればその職種に長年コミットすることが出来る可能性は飛躍的に上昇する。高学歴の人は是非、「勉強が出来る、苦にならない」という才能を活かすべきである。
外部要因としては、その業界、企業、職場で異動がどの程度頻繁にあるかという点だ。この点においては、異動を前提とする日系企業は外資系企業に劣後すると言える。異動が頻繁にあれば長年特定領域にコミットすることは出来ないので業務スキルを蓄積することが難しくなってしまう。
しかしこれも最近では克服する手段が出てきたといえる。具体的には新卒段階での職種別採用の拡大と中途採用の活用である。職種別採用では、異動があってもその職種の関連領域の異動に限定されることが多いし、中途採用であれば、そもそも部署単位での採用となることが多いため異動が前提とならない(その代わりに出世を捨てることになることが多い)

一番手っ取り早いのは、国家資格を取得してしまうことである。医者、弁護士、公認会計士等である。これらの資格を取得さえしてしまえば、専門家としてのキャリアを外部要因に影響されずに形成しやすい。
次が大学や大学院で特定の領域に関連する学問を修めることである。金融専門職に就きたいのであれば、金融工学や統計学を専攻する。ファイナンス系の大学院を出る等である。
データサイエンティストやエンジニアを志望するのであれば情報系の学科を出る等もいいかもしれない。
メーカーの研究職に就きたいのであれば、そもそも理系の学位が必要となる。注意したいのは理系の研究職の場合は、領域がニッチすぎるため意外と転職先が限定されること、地方の工場勤務のリスクが高いことだ。
これらの学問を学生時代に確り勉強してきた学生はそこまで多くないので、職種別採用でひっかかる確率が飛躍的に上昇するし、そうでなくとも配属の際に優先されやすい。

★【一定程度ルーティンワークも存在する】
★【マルチタスクが要求されない】
最後は人によると思うが、業務の特性としては一定のルーティンワークが存在していたり、マルチタスクが要求されないこともポイントとして挙げられる。
ASDの場合は、毎日変化に富むような企画系の業務は向かないだろうし、ADHDの場合はマルチタスクに対応できないことが多い。しかし業務の特性は実際に業務を経験しないと分からないし、同じ業務であっても職場が変われば程度が変わることもある。そのため業務の特性に関しては、まずは徹底した自己分析を行い、自分の得意不得意を把握した上でトライ&エラーを繰り返す中で自分にとって最適な業務を探していくしかない。

上記で発達障害を持っているのであれば、どのような職種を選択するべきであるかに関して考察した。
最後に上記考察を踏まえて、筆者がもう一度職業選択が出来るのであればどのような職種を選択するかに関して述べていきたいと思う。他にも色んな職種はあると思うが、全てを把握できるわけではないので、筆者の分かる範囲で記載した。

・士業(医者、弁護士、公認会計士)
→どれも激務ではあるが、職探しには困らない。医者の場合は専攻選びが重要。最悪バイトだけで食いつなぐことも可能。都心で働きたい場合は、地方勤務よりも薄給になる点には注意したい。
弁護士、公認会計士はプロフェッショナルファームは激務なのでそこで一定程度の経験を積んだ後で事業会社・金融機関の法務・コンプライアンス・経理に進むことがおススメ。いずれも資格を取得するまでがかなり大変である点は勿論認識しておきたい

・アセットマネジメント業界
→ホワイト高給、都心勤務確約、陰キャ多い、金融機関なのでベースの給料が高い、専門性が高く企業数も多いため転職容易(外資にも転職できる)
やり直せるのであれば、新卒でアセットマネジメント業界に行くと思う

・アクチュアリー
→そこそこホワイト、都心勤務確約、陰キャ多い、金融機関なのでベースの給料が高い、資格があり専門性が高いので転職容易

・金融機関の金融工学関連職(クオンツ、トレーダー、ストラクチャリング、リスク管理)
→そこそこホワイト、都心勤務確約、陰キャ多い、金融機関なのでベースの給料が高い、専門性が高く転職も可能だが、朝が早い可能性あり。資格がない点には注意

・データサイエンティスト、エンジニア
→リモートワーク容易、全国どこでも働ける(都心でも勿論働ける)、陰キャ多い、ASDやADHDとプログラミングは相性が良い。働く業界によってはベースが低いこともあり、出世の必要性がある点には注意

20代のときは仕事を通じてやりがいを感じたい、活躍したいという思いも残っていたが、30代になった今では普通に生きていけるだけで十分と思うようになってしまった。
職種選びを間違えず、適切な選択肢をたどることが出来れば、発達障害持ちでであっても最低限の生活を送ることは十分可能だと思う。
当該記事が筆者と同じように発達障害で苦しんでいる方の職種選択の参考になれば幸いである。