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ミライの小石17. 経験不足の働き手に合わせて、労災の懸念を徹底して洗い出す必要あり?

AIが人間の仕事を代替し、わたしたちは労働から完全に解放される……そんな未来が訪れるかもしれませんし、健康寿命が延びることで、より長い期間にわたって労働を続ける未来が訪れるかもしれません。

労働に従事する時間が長くなることにより、一生のうち労働災害に遭うリスクは高くなり得ます。もちろん、各業界において労災を防ぐための手だてが取られています。危険労働の自動化や機械化に加え、働き方改革にも労災を遠ざける効果があるでしょう。

読売新聞によれば、労災による死亡者数の多い建設業において、人工知能(AI)が危険を予測するシステムや、仮想現実(VR)技術を応用した安全研修などを取り入れ、作業員の安全向上につなげる企業が次々と現れているそうです。(※1)

人手不足によって経験の浅い労働者が業務に従事するうえで発生しかねないリスクを、最先端の技術によって除去している事例といえそうです。

労災防止において、技術の導入とともに欠かせないのは労働者への安全順守意識の醸成です。建設業とともに、人手不足により経験の浅い労働者が多く従事する業界として、畜産業が挙げられます。全国屈指の酪農地帯である十勝地方では、2011年から2021年にかけて畜産業の労災が1.5倍に増えているそうです。そこで、帯広労働基準監督署は独立行政法人家畜改良センター十勝牧場と連携して、労災防止対策のポイントをまとめたリーフレットを作成しました。牛との接し方や重機の使用法など、家畜に起因する労災事例が掲載されているそうです。(※2)

実は、畜産業に特化した労災防止リーフレットはこれまで作られていませんでした。労災対策を講じるためには、そもそも事例が蓄積されている必要があります。家族経営の形態をとり、幼少期より家畜との間合いを体得していた労働者が多い畜産業では、「見て学ぶ」傾向が強く、労災事例自体も文字媒体で体系化されていなかった可能性があります。

外国人労働者や高齢者、ハンディキャップを抱える人々も労働市場に組み込まれる中で、こうした知見の共有はこれまで以上に求められるでしょう。機械化やAIの導入には業界による差異があり、労災の発生パターンや対策法もそれぞれです。熟練労働者の声を拾い上げたり、異業種に従事する人々との交流も借りたりしながら、「危ないと思われていなかったことも含めてリスクとして洗い出す」姿勢が産業界には求められそうです。

(注)
※1 読売新聞「VRで事故体験、ウェアラブル端末で熱中症検知…建設業でデジタル技術活用した安全対策進む」 https://www.yomiuri.co.jp/national/20230216-OYT1T50099/ 2023年4月5日閲覧  
※2 農業協同組合新聞「畜産業の労災が10年前の1.5倍に増加 北海道十勝地方 帯広労基署が労災防止へリーフレット作成」 https://www.jacom.or.jp/niku/news/2023/02/230208-64575.php?fbclid=IwAR3y4AYMK8gGAGww7LxvO0Q54LdyJEWAMNaexsRC5XwqEV73gYvb83pEHlw 2023年4月5日閲覧


この記事を書いた人 藤本一輝
繁華街の路地裏や川沿いを散歩しながらああでもないと考えを巡らせるのが好き。属性を問わずいろいろな人と交流するのも好きです。
関心…考現学/エスニック料理/国内サッカー/モードファッション/路線バス/文化論

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