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未来洞察と私01.未来洞察の現在地

近年、企業・行政の経営・事業変革(トランスフォーメーション)、あるいはビジョンデザインや人材育成(教育)に取り組む人々が、「未来洞察」という考え方や方法論を主体的に実践し始めているように感じられます。
言い換えると、これまでは新規事業開発のために未来洞察を実践してきた人や組織ばかりでしたが、昨今ではその活用分野が広がってきており、また、未来洞察の実践も単発ではなく継続的・恒常的な活動になってきたようです。

そこで、日本における未来洞察の実践を振り返り、今後の実践の方向や指針について考えてみたいと思います。




1.未来洞察のルーツ

約20年前、広告会社のストラテジックプランナーだった私は、スウェーデンのとある研究所で「フォーサイト」という組織機能に出会いました。
その時感じたのは、 『そんな組織機能を持った日本企業は聞いたことがないし、それを支援するシンクタンク/コンサルティングファームも日本には存在しないのでは?』 『しかし、これからの日本企業の国際競争力や日本社会の質を高めるためには、フォーサイトという考え方が当たり前のものになる必要があるのでは?

そんな驚きと焦燥感を内包した直感に突き動かされ、その後、米国SRI出身者にフォーサイトの思考・態度や方法論(ホライゾンスキャニングという変化の兆し探索法、インパクトダイナミクスという強制発想法など)を教わり、日本のビジネスパーソンが実践しやすい形にブラッシュアップしながら(フォーサイトを未来洞察と訳したのもその一つ)、研修ともコンサルティングサービスともつかない形で企業向けに提供し始めたのが2003年頃でした。


2.イノベーションのための未来洞察(2000年代~)

最初に未来洞察に興味を持ち活用しようと考えてくれたのは、大企業のR&D部門や新規事業開発部門(主に研究者、エンジニアなどのT人材)でした。
想定外な社会変化を起点にして新規性・独創性の高いアイデアを強制発想するワークショップは、当時はまだ耳慣れない“ワークショップ”という「刺激とルールのあるブレーンストーミング」形態と、「日本の大企業はイノベーションを起こせるか?」という命題の中で採用されてきました。

この活用分野を一言で言えば、「イノベーションのための未来洞察」ですが、「新たな事業機会を見つける『未来洞察』の教科書」(KADOKAWA、2016)において考え方やプロセスを紹介し(「未来洞察のための思考法:シナリオによる問題解決」(KDDI総研、2016)と併読することを推奨しています)、今も活用され続けている分野です。


3.トランスフォーメーションのための未来洞察(2010年代~)


次に、約10年前から未来洞察の新たな活用分野が加わりました。
それが大企業の経営企画部門や事業企画部門、人材開発部門(主にB人材)における経営・事業・組織・人材の変革、すなわち「トランスフォーメーションのための未来洞察」です。

長期ビジョン/パーパスの見直しやバックキャスティングといったニーズは、企業のみならず行政や大学などにも広がっており、これらの動向と未来洞察の活用法について「2030経営ビジョンのつくり方」(日本経済新聞出版、2019)で紹介しています。


さらに、DXやビジョンデザインを支援していたデザイナーなどのクリエイティブ人材(C人材)においては、スペキュラティブデザインやトランジションデザインといったデザインアプローチと共に、未来洞察の活用可能性が一層広げられてきているとも言えます。


4.フューチャーズリテラシーと未来洞察(2020年代~?)

そして、コロナ禍を乗り越え、ニューノーマルを実感し始めた2023年。
日本における未来洞察の実践をさらに確かなものにしていくための指針となりそうなキーワードを知りました。
それが、ユネスコが提唱している「Futures Literacy:フューチャーズリテラシー(自分の頭で未来を洞察・想像し、実現していく態度やスキル)」です。

社会人だけでなく次世代を担う子供たちも、他人が考えた未来に支配されずに、自分自身の現在のものの見方や態度をアップデートするために。
そして、自分で考えた未来を実現していくことにワクワクするとともに、思い描いた未来像に共感し、それを自分事と捉えてくれる仲間を増やすために。

未来を洞察し続けることでフューチャーズリテラシーを養い、そしてフューチャーズリテラシーを発揮することで「誰もがありたい未来を実現していく社会」が近づいているようです。


この記事を書いた人:あわた
博多出身のモラトリアム世代。職業は旅人と言ってみたいが、英語と酒が苦手なのが玉に傷。関心…自転車散歩/珈琲野点/里山/アウトフィッター/EDC/写真/路上観察/水平思考

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