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コミュニティマーケティングでもっと意識すべきは新規顧客なのでは?という話

「これからはファンを大切にしよう!」

コミュニティマーケティングやファンベースを知っている人にとって違和感のない言葉だと思います。

私も自分なりにコミュティマーケティングを学び、考察を発信してきました。

また「ファンベース」を書いたさとなおさんの塾である「さとなおオープンラボ」に通っていたこともあるので、ファンを大切にすることは必須であると信じてきました。

しかし私は、冒頭の言葉を真っ向から否定するかのような本に出会ってしまったのです……。

それがこちら。

この本は経験則ではなく、科学的な分析に基づいて導き出したブランディングおよびマーケティングの法則について述べています。

※以下引用および表の画像は、記載がない限り「ブランディングの科学」から使用しています。

本書の目的は、消費者の購買行動やビジネスの成長を予測するための一定のパターンを明らかにすることである。
本書は主にアレンバーグ・バス研究所のマーケティングサイエンス部門での研究を基にしている。

この「アレンバーグ・バズ研究所」の研究結果は、マーケ界隈では著名な企業がこぞってマーケティングに活かしているそうです。

アレンバーグ・バス研究所は、コカ・コーラ、クラフト、ケロッグ、英国航空、プロクター・アンド・ギャンブル、ニールセン、TNS、ターナー・ブロードキャスティング、ネットワーク・テン、シンプロット・アンド・マーズなどの世界中の多くの研究機関に利用され、またその資金援助を受けている。シャープ教授はこれまでに100を超える学術論文を発表し、ジャーナル5誌の編集委員も務めている。

ちなみに著者であるバイロン・シャープ氏は、USJをV字回復させた森岡さんの著書「確率思考の戦略論」の中でも参考にされている「Repeat Buying」の著者でもあります。

この「ブランディングの科学」で語られている法則が、なかなかに衝撃的なものばかりなのです。


本で語られている法則

1:ライトユーザーが重要

はい、初っ端からファンを大切にしていません。

なぜライトユーザーが重要なのかについて、説明しますね。

この本で最初に紹介されるのが「ダブルジョパティの法則」。これは市場シェア率の高いブランドほど「買う人の数」も「買われる頻度」も高いというものです。

マスブランドより、そこへ対抗している弱小ブランドのほうが、応援のためにたくさん買われそうな気がしませんか?

でもデータを分析するとそうではない。

またこの法則には続きがあって、市場シェア率の高いブランドほど「買われる頻度」は高いが、大きな差はないんですね。

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↑この表を見ても、真ん中の「年間市場浸透率」(=市場シェア)と右の「購入頻度」を比較した時に、1番下と1番上の比率が、年間市場浸透率は9.5倍ありますが購入頻度は1.4倍程度に収まっています。

また同じ市場で、価格差も大きくない。

なので市場シェアを獲得するために重要なのは買う人の数(顧客数)になる。

熱量がどうとか関係なく顧客数が重要ということは、顧客数の大半を占めるライトユーザーが重要になる、というわけです。


2:ファンもいつかは心が離れる

ファンはずっとそのブランドを愛し続けてくれる。

それも幻想であるとデータでまざまざと見せつけてきます。

熱狂的なファンがいるブランドの事例として紹介されるハーレーダビットソンを例にこう書いてありました。

ハーレーダビッドソンのSCR(調査期間内にそのブランドを1回以上購入した家庭の割合)は約 33%と報告されている。言い換えると、ハーレーダビッドソンの購買客はハーレーよりも他のブランドのバイクを2倍の頻度で購入するということだ。この値はブランドのロイヤルティ指数としては非常に平凡である。

ハーレー好きであっても、むしろ他のブランドを購入している割合のほうが2倍高い……。データで見ると結構衝撃的です。

本の中ではなぜこんなことが起こるのかを詳細な調査データで説明をしています。

重視すべき発見は、ブランドに関する私たちの思考の大半は絶対的でないということだ。調査を受ける際に、「非常に満足した」という欄にチェックをつけ、 1時間後には「いくらかは満足した」にチェックをつけることも決して珍しくない。

つまりファンの存在は絶対的ではなく、ファンであってもその時の状況などによって購入するブランドが変わってしまう。

そんな悲しい事実を突きつけてきます。


3:「ニッパチの法則」にはならない

「ファンはたくさん買ってくれるから、大切にすべき!」

「20%の顧客が80%の売上を作ってくれる!」

いわゆる「ニッパチの法則(パレードの法則)」もデータで論破してきます。

製品カテゴリーの枠を超えて数十のブランドを対象に調査を行った結果( Sharp & Romaniuk, 2007)、日用品ブランドの 3カ月間のパレートシェアはわずか 35%であった。

※パレードシェアは、購入頻度が上位20%の顧客のシェアという意味。

別の調査データもあるのですが、やはりパレードの法則が成り立っていません。

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顧客の上位20%のヘビーユーザーの売上比率が50%程度…。

もちろん売上としては大きいです。

しかし1つ前の法則と掛け合わせると、ファン(≒ヘビーユーザー)を大切にしていたとしても、他のブランドを買ってしまう可能性も高いわけなので、果たしてファンだけを大切にすることが売上げ増につながるのか?となると、疑問が湧いてきます。

そもそもファンの財布にも限界がありますし、商品によってはLTVに上限があることも多いので、ファンの売り上げが青天井に伸びることはありません。

なのでファンの売上に期待しすぎるのはビジネスとして正しくないのかもしれません。


ファン”だけ”を見てちゃいけない

このように「ブランディングの科学」はことごとくコミュニティマーケティング的な考え方を否定してきます。

しかし私は、この本は今まで学んできたコミュニティマーケティングやファンベースは共存しうるのではないかと読みながら考えました。

そこで生まれたアイデアが「コミュニティマーケティングはファン”だけ”を見ていてはいけないのでは」ということでした。

▼ファンベースは決してファン「だけ」を重要視するわけじゃない

「ファンベース」と聞くとファンだけを大切にするように見えますが、実はさとなおさんはそうは言っていません。

ファンを土台にして売上をきちんと確保しつつ、ファンに新規顧客を増やしてもらうというのがファンベースの基本の考え方です。

※引用:https://markezine.jp/article/detail/27985

そう、つまり新規顧客獲得の効果をさとなおさんも重要視しています。

▼ファンに売るのではなく、ファンを通して売る

「ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング」の著者でありAWSのコミュニティマーケティングを成功に導いた小島さんが、スライドなどでスローガン的に「Sell Through the Community」と言っています。

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※引用:https://logmi.jp/business/articles/21744/2

さきほど「上位20%のヘビーユーザーの売上比率が50%にしかならない」というデータを見せましたが、そもそもコミュニティマーケティングでもファンから派生したファン以外=ライトユーザーの売り上げを見ようと言っている。

なので、思想的にコミュニティマーケティングとブランディングの科学は共存しうるわけです。

▼新規顧客とファンは混ざり合ったほうがよい

ファンもいつかは心が離れると本には述べられていますが、コミュニティは流動性があってこそ熱量が保たれるものだと考えています。

ずっと「古参」がのさばっていると新規顧客にとって居心地が悪くなるので、一定の流動性は必須と言っていいでしょう。

なのでファンが離れることも嘆く必要がなく、むしろ良いコミュニティ運営ができている証拠とも考えられます。

もちろん、ファンが過剰に流出する状況は止めなければいけません。新しい人も古くからいる人も、コミュニティ内でいろんな形で居場所がある。そうすることで、新規顧客がだんだんとファンになっていく流れを作ることができます。

でもその上で離れてしまうファンは引き止めない。

このバランスを重要視したほうが良いでしょう。


コミュニティマーケティングは「新規顧客獲得効率」で評価をすべきでは?

上記のことから、ファンだけでなくファン以外のライトユーザーの動きや売り上げを見たほうが、より正しくコミュニティマーケティングの成果を見ることができそうだと分かります。

ここで私は、コミュニティマーケティングは「新規顧客獲得効率」で評価をすべきなのでは?と考えるようになりました。

もっと細かく言えば、コミュニティから生まれたコミュニケーションやコンテンツで獲得した新規顧客の獲得数・獲得コスト効率で評価をすべき、ということです。

そうすることでコミュニティマーケティングの成果を理解しやすくなり、組織内で承認されづらいコミュニティマーケティングが受け入れられやすくなるんじゃないかと。

なぜそう考えるか、書いていきます。

▼コミュニティの力はコンテンツによって飛躍する

話に入る前に前提のすり合わせをさせてください。

「コミュニティから生まれたコミュニケーションやコンテンツで獲得した新規顧客」と少しまどろっこしい言い方をしたのはワケがあります。

それはコミュニティから生まれたコンテンツが、コミュニティのビジネス的な影響力を飛躍させるからです。

コミュニティはどうしても「人のつながり」のイメージが強いので、口コミ(=コミュニケーション)からしか顧客獲得できないイメージが強いです。

しかし、そこに参加した人から発せられたコンテンツや、その人のつながりから生まれたコンテンツからも顧客獲得は可能です。

さきほど例に挙げた小島さんも、著作内のキーワードとして「アウトプットファースト」と書かれています。

これはコミュニティ内のイベントの様子や学びを発信していく雰囲気を作っていく、ということです。

またカーシェアリングサービスを運営しているAnycaのコミュニティ&PRマネージャーである宮本さんも、記事の中でコンテンツの力について述べています。

例えば、『Anyca』利用者のストーリーをテレビの取材で使ってもらったことがあります。
過去に「シェアリングエコノミー特集として10分の枠を取っているので、3 分ほど『Anyca』を扱いたいです。取材させてください」とテレビ局の方から連絡が来ました。
その際に「お客さまのストーリーがこんなにたくさんあります」と『Anyca STORIES』の記事を見せたんです。
そうすると「『Anyca』だけで3分だけではなく10分持ちそうですね。まるまる『Anyca』の特集にしましょう」と10分の枠を抑えてもらえて。
テレビCMに換算すると2億円くらいの価値があって、新規登録してくださるお客さまがすごく増えました。

※引用:https://fullswing.dena.com/archives/1112

コンテンツになることで、情報が流通し、新しいお客さんを連れてくる。

そのコンテンツは決して商品を褒め称える「口コミ」であるとは限りませんが、「コミュニティ」のマーケティング的な影響力をさらに拡張させるわけです。

コミュニティ自体は急激なスケールによって破壊される可能性があるため、なかなかビジネス的なインパクトが強くならないと悩む方も多いかと思います。

そういった方にもよりスケーラビリティを意識していただきたいと思い、「コンテンツ」と明示的に書きました。

▼コミュニティマーケティングの承認や決裁が通りやすくなる

コミュニティマーケティングって、なかなか価値が理解されずに社内で承認が降りないことが多いようです。

また承認が降りて施策を進めていても、傍から見るとイベントやってワイワイやっているだけで「ビジネス的にどういう価値があるの?」と理解されにくい部分あり、どう評価すべきかわかってもらえず社内で衝突する、といったことも起きがちです。

あと最初に述べたような、ファンを大切にする姿勢から「コミュニティは数字やKPIで評価をすべきではない」と言われがちだったりします。

そんな中、下記のようなnoteを書きました。

・世界的にコミュニティに対してKPIを求められている
・コミュニティは続けないと意味がない
・なので承認を取り続けるためにはKPIを設定すべき

ビジネスとしてコミュニティを続けるためには、社内でコミュニティマーケティングのKPIを設定し、そのKPIを達成し続けられたほうが良いわけです。

ただ、今までその溝がなかなか埋められない…と悩む人を多く見てきました。

しかし、新規顧客1人あたりのビジネス価値を定義することができれば、その獲得数と獲得効率によって施策の良し悪しが判断できるようになります。

もちろん、ビジネスモデルや業態などによってはなかなか定義できないかもしれませんが、「新規顧客」を評価軸にする発想で決裁を取りにいくアイデアは、どんなビジネスでも考えられうるのではないでしょうか。

▼指標として計測もしやすい

新規顧客に対して、どのチャネルから知ったのか?をアンケートで聞いていたり、聞くことができる企業ってありますよね。

その中で「友人・知人の口コミ」や「(コミュニティ名)のコンテンツを見て」といった項目を追加することで、コミュニティ経由の新規顧客を把握することが可能になります。

ECであれば、すでにリアルで買っている場合を排除するために「もともと店舗で購入していた」といった条項をつけて、より純粋な新規顧客を把握できます。

完全なリアルビジネスだと難しいかもしれませんが、対面式できる場合は接客や商談の中で聞くことができる可能性があります。

もちろん顧客がちゃんとアンケートをちゃんと答えてくれるか?という問題はありますが、この項目は比較的事実ベースなので、大きくズレることは少ないのではないかと考えています。

▼ルール次第で歪んだ施策を生み出さない指標にできる

コミュニティマーケティングにKPIを設定する、と言うと「コミュニティ運営が歪む!」と思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

しかし、今回提示した指標の場合、ルールを設ければ歪まないのではと考えています。

新規顧客を獲得することがKPIになると、新規顧客を生み出すためのコミュニティ運営をすると思います。

そうすると「口コミ量やコンテンツ量を増やす」形になります。

その場合に「口コミやコンテンツを作ってくれた方にはインセンティブ」といった施策が考えられます。いかにも歪みそうですね。

しかしそういったインセンティブ施策をNGとすることで、口コミやコンテンツをハックしづらくなります。

むしろファンがつい口コミをしたくなる要素を作ったり、コンテンツを作りたくなる仕掛けを作るなど、ファンが喜ぶ施策を打つべきであると考えるようになるのではないでしょうか。


ファンはもちろん大切に、でも新規顧客も意識しよう!

最近のコミュニティマーケティング界隈は「ファンを大切に!」とファンに注目しがちです。

また自分もそういう節があったので、「ブランディングの科学」を読んだときは衝撃を受けました。

しかしこの本を読んだことで思考が深まり、より正確にコミュニティマーケティングを捉えられました。

新規顧客を意識するアイデアによって「社内でコミュニティマーケティングの決裁が取れない」「社内で理解されない」と悩む人にとって、決裁を取るための戦略を考える手助けになるのではないかと考えて、今回このnoteを書きました。

もちろん、ファンがプロダクトやサービスを好きだと思う気持ちをコントロールしたり利用すべきであるとは微塵も思っていません。

ただどうしてもコミュニティマーケティングやファンベースって理想論的に美しく語られがち。

ビジネスとしてやるときは理想を胸に現実やロジックに落とし込み、したたかにやらなければいけません。

この理想と現実の落とし所として「コミュニティマーケティングを新規顧客で評価をする」というアイデアはいかがでしょうか。

みなさんの参考になれば幸いです。


だいたいスターバックスで、あえてホットティーを飲みながらnoteを書いているので、ホットティー1杯くらいのサポートを頂けたら、こんなにうれしいことはありません。