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魂の遍歴 すべての罪はわが身にあり

1995年3月20日。オウム真理教によって日本の犯罪史上、類を見ない史上最悪の無差別テロ事件、地下鉄サリン事件が発生した。今から約28年前の出来事で若い人たちは知らない人も多いことだろう。

実行犯として大きな役割を果たし、サリン事件以外のオウムが犯した様々な凶悪事件においても中心的な役割を担ったとされる井上嘉浩元死刑囚。

その井上の5000枚に及ぶ獄中手記に基づいて作られたドキュメンタリー本。
オウム真理教において教祖である麻原彰晃の側近中の側近にして修行の鬼。オウム=井上教とまで呼ばれたその霊性の高さ、弱冠16歳にして入信。25歳で逮捕されるまで入信に導いた人々の数は1000人以上。彼がいかにしてカルトにのめりこみ、空前絶後の犯罪を犯し、そして脱会し、死刑囚として命を燃やしていったのかまでを記した、「魂の遍歴 すべての罪はわが身にあり」を読み終えた。

実は半年以上前に購入して読み始めてはいたものの、途中で他の本に浮気してしまったりして、こんなにも時間がかかってしまった。
総ページ数は500ページ以上。なかなか読むのには力が要る本であった。

事件が起きた時わたしは小学生だった。その年の1月には阪神淡路大震災もあったし、何やら大変なことが起きているな、世も末なのだな。自分はエホバの証人の家庭で育っていたので、本当にハルマゲドンが近づいてきているのだなと思っていた。井上嘉浩という名前はもちろん知っていた。とにかく当時のメディアはこの人に限らず、オウム事件の関係者は、徹底的に悪く報じていた印象で、私自身も血も涙もないとんでもない極悪人だと思っていた。しかしこの本を通じて、この人がどれほどこの宗教にのめり込んでいたのか、どれほど真剣な妄信によって、人の命を奪うことまでしてしまったのか。それこそカルトの恐ろしさを痛感させられたのである。16歳で入信。もともと空手をやっていたそうで、そこから精神世界、仏教にだんだん惹かれ始めていき、麻原の本に出会い、あれよあれよという間に家族の反対も振り払って出家。そこから想像を絶するほどの修行に励み、みるみる幹部へとのし上がっていく。唯一の最終解脱者である麻原に完全に帰依し、やがてポア(殺人)でさえも、救済と捉え正当化していった。実際はポアにはかなりの抵抗があったようだが、それでも彼の果たした役割はどう考えても大きいし、極刑は、被害者とご遺族の底知れぬ悲しみを考えれば当然だし、司法の判断は正しかったと思う。ただ、その執行のプロセスにおいては非常に残念だったなと思わざるを得ない。オウム死刑囚の中で唯一、一審で無期懲役になり、その後死刑となったのがこの井上である。まだ事実があったにもかかわらず、再審請求が審理し始められていたにもかかわらず、2018年7月6日に当時の上川法相によって執行が指示された。「慎重に慎重を重ねて、執行を命令した」と述べたこの法相は、執行の前夜に安部元首相も参加する酒席に参加していたことがのちにわかっている。こんな執行の仕方で果たしていいのだろうか。明らかにされるべき真実の扉は、永遠に閉ざされてしまったのである。

獄中での23年間の様子の方が詳しく述べられていたように思う。井上がどのようにして洗脳から解かれ、実両親と心を通わせ、罪と向き合い、全身全霊で真相解明に尽力したのか、またある女性との出会い、まさに魂と魂の交流。死刑が確定した時の両親の姿、執行後に届く井上の手紙は思わず涙腺が熱くなった。

特に興味深かったのは、実父の献身的なサポートにより、徐々に洗脳が解かれていく際に身体に変調をきたし、身体中に蕁麻疹ができ、昼夜嘔吐を繰り返したことや、

法廷でかつての師、麻原と直接対決したときのこと。その時に麻原は独特の呼吸法を用い、井上に念力を送っていたこと。効かないと分かると地獄に落ちるぞなどと言いはなったこと。

まだ教団にいた時に教団内における禁忌を犯してしまった時に真夏の季節の中、真っ暗なコンテナに監禁され、4日間飲まず食わずの罰を受けたときの様子などだ。

とにかく最期の最期まで彼は宗教家だった。最後の言葉は「まずはよし」 今生において取り返しのつかない罪は犯したものの、自分なりに精一杯罪と向き合ったことを意味しているようだが、宗教を信じていない人からすればそれは「はあ?」という感じだし、納得できない部分も多々ある。確かに同情すべき点は多くあるし、その後のオウム事件の真相解明にとても大きな貢献をしたし、ある意味セット執行されたオウム死刑囚の執行については納得がいかないものの、やったことについては決して許される行いとは到底思えないし、自分が遺族になったと思ったらその処罰感情は計り知れないと思う。

わたしも元宗教2世であるが、井上は1世であり、ある意味2世でもあるのではないかなとも思った。何も世の中を知らない10代で真の宗教だと思い込んでしまった。出会う人を間違えてしまった。きっと出会う人が違っていれば、社会に大いに貢献できたのではないかとも思う。

死刑制度については、日本人の約80%の人が支持、またはおおむね支持していると言われている。全世界を見れば死刑制度がある国は少なくなってきているとは言え、やはりわたし自身も制度自体については賛成である。このことに関してはまた別の機会に持論を述べてみようかなと思っている。

余談ではあるが、最近のジャニーズの報道を見ていても思うのだが、やはりメディアの在り方については甚だ疑問に思うところがある。

わたし自身も取材に応えた経験からも痛感したのだが、本当に伝えたいことはメディアでは20%も伝えてはもらえないということだ。

報じられていること全てが真実ではないこと。メディアの関心事は数時間で目まぐるしく変わってしまうこと。

こうした死刑囚の最期でさえ、知らないことが多すぎる。

ゆえに、まずは知る、ということが本当に大事なのではないかと思う。

毎日起きる様々な凶悪事件。その全てが本当に最後の最後まで報じられてはいないであろう。

はっきり言って、芸能人の誰と誰が付き合っているとか、別れたとか、不倫したとか、そんなことは本当にどうでもいいと思う。

そんなものに時間や労力を費やすくらいなら、様々な社会問題の、本当の真実を伝えてほしいと思うのである。

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