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クルレンツィス in ケルン、まもなく!

クルレンツィス in ケルン 

実はクルレンツィスの話題が続く。これを書いている日付は変わってしまったが、実はまさに今、ドイツのケルンでは現代音楽フェスティバルが開幕している。ACHT BRÜCKEN (eight bridges) という名で4月30日から5月11日まで、ケルンの街のあちこちで、熱い現代音楽作品の数々が上演される。

2011年から毎年開催されているこのフェスティバルは今年で9回目となり、今年は「大都市 ポリフォニー」という副題を持って「Geschehen 出来事」にフォーカスを当てている。会場はコンサートホールのみならず、なんと地下鉄の駅や倉庫など、普段演奏会場にはならないような場所まで含まれるのだとか。

期間も長いので、本当に多くのユニークな企画が予定されていてるのだけど、「現代音楽」をフューチャーしてこれだけの規模のことが実現できるのは、さすがドイツ、さすがはケルン(ケルンはシュトックハウゼンのホームタウンであったこともあり、60年代頃から特に現代音楽に対してオープンである)だと思う。

さて、前置きが長くなったけど、このフェスティバルにメインコンポーザーとしてギリシャ=フランス人作曲家のジョルジュ・アペルギスが選ばれているが、本当の目玉はおそらく前回取り上げたクルレンツィスだ。

クルレンツィスと現代音楽フェス

5月4日と5月5日の2日間、ケルンのフィルハーモニーで予定されているのは、クルレンツィスが振るSWR Symphonieorchester(南西ドイツ放送交響楽団)。残念ながらムジカエテルナではない。ちなみにコパチンスカヤもこのフェスティバルに登場するが、彼女もクルレンツィスとセットではなく、9日にコンセルトヘボウと共演する(それも魅力的である)。

クルレンツィスのホームページを見ると、4日と5日の公演内容に関しては「ラフマニノフ」としか書かれていない。確かにラフマニノフの2番は演奏されるのだが、その前に演奏される予定の1曲は、今回のフェスティバルのための委嘱作品、ロシアの気鋭の作曲家セルゲイ・ニュースキー(と読むのかわからないけど)の当フェスティバルのための委嘱作品。それからもう1曲はモスクワ生まれの(実はニュースキーも)若手作曲家ドミトリー・クルリャンツキーの「Riot of Spring」で、こちらは訳すと「春の暴動」。当然、1913年の初演で大騒ぎとなった当時の前衛作品の代表、ストラヴィンスキーの「春の祭典」をもじったタイトルである。作曲されたのは2013年だから、ハルサイの100周年記念だったようだ。

クルリャンツキーの上演作品、略してハルボウについては、YouTubeでクルレンツィスによるパフォーマンスを見ることができる。2013年のボーフム ルールトリエンナーレにおけるもので、書いてないけどプレミア(初演)だったのかもしれない。演奏はこちらはムジカエテルナによるもので、演奏後の会場の異様な興奮度合が伝わってくる。ハルボウについてだが、作品の内容については動画を見て頂いた方が早い。まずクルレンツィスが指揮棒ではなくバイオリンを手にオケの中央に立ち、ノイズと楽音の中間のような音を出すと、オケの中から音がさわーっと微かに、でも蠢きと緊張を持って滲みあがる。Dの音に支配されつつ、時には倍音も多く聞かれ、やがてオケのメンバーは会場の中を演奏しながら歩き始めたりする。時には鉄道の駅の構内のようなノイズや機械音に似たような音が聞こえたり、メンバー同士での芝居じみたやり取りがある中、オケのメンバーが楽器を会場にいるお客さんに渡して音を奏でさせたりする(銘器だったりしないのか、とか内心ひやひやする)。客がなかなか弓を動かせなかったら、メンバーが弓を持って動かしてやったりしている。でも概ねトライしてくれている姿に、個人的には心打たれるものがある。(日本でやったら概ね断られてしまいそうだ。)クルレンツィスは自分も時々バイオリンを弾きながら、弓で会場に向かって(メンバーに向かって)指示を出す。でもいつの間にか彼も会場の中に入って演奏していたりする。とにかく一見(一聴?)の価値はある動画だ。

プログラムの最後にラフマニノフの2番(ピアコンではないのでご注意)が配されているのは、クルレンツィスであれば聴衆のお口直しでもなんでもないのであろう。こんなフェスなら本来はその必要もないはずだし。恐らくは彼にしかできないラフマニノフへのアプローチがあるのだろう、と思うと今すぐケルンに向かいたくてたまらなくなる。特派員として熱い中継をしますから、誰か私を派遣してくれないかな!

ドイツにおける現代音楽に対する関心

それにしてもこれほどの規模の、しかも現代音楽をテーマとしたフェスティバルが街ぐるみで開催できるって、どれだけ素晴らしい。こういう企画に一流のアーティスト達が体当たりで関わって、そこに学生や子どもたちも積極的に関与していける(小中高大学生がプロに混ざって参加するプログラムもある)12日間ってなんて贅沢。ケルン市はこの企画に毎年約50万ユーロ(6000万~7000万円近く)投資し、Sparkasse(銀行)や企業からの寄附も多い。ドイツでは、こういう催しに芸術的、経済的、教育的価値をとことん見出しているんだなあとつくづく感じる。なんというか、「現代音楽」を隔たりあるものとして扱うのでなく、「身近にある私たちの音に耳を傾けてみましょう」的な距離の近さがある。

実は、私が留学していた約10年前まではここまでではなかったです。ドイツでは現代芸術への関心は高く、カッセルのドクメンタとか目立ったものがありましたが、現代音楽に対しては日本ほどではないけど、やはり少し距離感があった。Acht Brueckenだって2011年までは3年おきのトリエンナーレで名前も違って、注目もこれほど高くはなかったように思う。2011年から毎年開催になり、今年に関してはクルレンツィスやコパチンスカヤといった今まさに旬のアーティストを招いて規模を一気に拡大した印象。クルレンツィスやコパチンスカヤが現代音楽にも明るいこともあると思うけど、なんとなく100年前の前衛のムーヴメントを、彼らは現代版で起こそうとしている気がする。

ちなみに、上の写真はケルンの地下鉄ホイマルクト駅。近年新しく生まれ変わって、このフェスティバルの会場にもなっている。






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