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母は手負いの虎だった9 「絶望放浪する日本人が、東南アジアでストリート青年の里帰りに同行」

母との生活に絶望し、父に呆れ果て。

死出の旅として東南アジアへ高飛びしたら、ある青年の里帰りに同行することになり。ジャングルの奥地へ向かうところからの話です。

波止場での絶望的な子ども達を見つめた後。

フェリーの中はスリだらけだから、親しげに話しかけてくる人とは会話しないようにと警告され、甲板へ上がった私です。

ベンチに座って風景を眺めれば。

遠くに見える島と、真っ青な海と空。

波止場の光景とのコントラストが残酷なほどの美しさ。

地上で人間が苦しみの中にいても、空には鳥が飛んでいる。

わたしの隣に座ったおばあさんがニコニコと話しかけてきます。

フルーツ差し出してきて、食べな、と言っている。

いくら?

と聞くと、いいから食べて、とジェスチャーする。

スリの親玉かもしれん。。。受け取ったら高額請求かな。

でも、いいや、もう、どうでも。なるようになる。なるようになれ。

とりあえずレンタカー代は先に払ったし、持ってるお金は少額で、お腹に抱いているし。

もらったフルーツはすごく美味しくて。

おばあさんは、わたしが日本人だと知って、のけぞってびっくりしていた。

ジゴロ青年君が心配して引き離そうとするんだけど、大丈夫だよ、と笑いかえす。

結局、何も事件は起きずに目的の波止場へ到着しましたよ。

そこからが想像以上のジャングル。

ジャングルすぎて、緑に飲まれそうな。緑の洪水のような。

土と木と葉、ちょっと腐敗臭のようなフルーツの甘ったるい匂いが混ざり合いながら、むせかえるような湿気で満ちている。

鳥の鳴き声、虫の声、何かの動物の声。どこかにある寺院から聞こえる音楽。

ジャングルとジャングルの間には、小さな街もあって。

ドライブインのような作りのダイナーで休憩。そこで、魚の干物と、野菜の炒め物、カリッカリの目玉焼きに辛いソースをかけて、ご飯の上に乗せた料理を食べた。

ジゴロ青年君が「これ、子供の頃から食べていたんだ。なつかしいな」と涙目になっている。

素朴な料理。彼にとっての故郷の味なんだな。

わたしが東京で絶望の中にいる時も。この人は、この空気の匂いの中で、この料理を食べて育っていたんだ。

地球の違う風景、違う匂い、違う人種がそれぞれの時間を、それぞれの想いを同時に生きている不思議。

市場に青年の友達が住んでいる、と言うので立ち寄ることになって。

カラフルなパラソル屋台が密集している街の奥に、自宅と店が合体した一角があり、その一件に招き入れられる。

友人と感動の再会をしている青年には、お取り込み中のところ大変申し訳ないのだけど。。

わたしはこの旅一番の恐怖で、とてもそこにはいられない。

巨大な黒いカサカサ這うアイツが、あちこちにいるんですよ。。。

しかも、半端なくでっかいのです。日本のやつよりさらにでっかいのです。

発狂寸前でおうちから飛び出て行くわたしを、彼らは「なんでこんなの怖いの??」と大笑いしている。

いや、、なぜ君たちは怖くないの?なんであんなに大量にいる中で生活できるの??と、今までの会話で一番かみ合わず、共感不可でしたw

もーしわけないけども!これは無理なんで!ほんとに無理だからすみません!!!

Gショックから立ち直れないゾワゾワを引きずったまま、またジャングルの中を走り続けます。

4時間以上、ひたすらジャングル。目がおかしくなるくらいの緑。

村といえど、今までの街のように風景が変わるのかと思っていたら。

ジャングルの延長のような感じで、村に到着しました。

緑の中に建物があり、砂利道で繋がっている感じ。

ジゴロ青年君の実家へ向かう間、車の後ろを大人も子供も付いてくる。

お家の前に車を寄せている間に、お母さんが庭に出てきて。

青年と抱き合って泣いている。

年齢以上に見えるお母さんだった。おばあさんに見える。痩せていて、浅黒く、小柄で、白髪。いろんな事情があっただろうな。息子がどんな生活しているのか、知るすべもなく。ちゃんと車で帰ってきたこと、体が無傷だっただけで、どんなに安堵したことだろう。

よかったよ。いいお母さんで。

うるうると2人を見守る私に気づいた青年の母が。なんか言ってる。興奮気味に。

青年がわたしに笑いながら近づいて来て「嫁か?って言ってるwww」と。

あー、、そー思っちゃいますよねぇ〜いやいや、ごめんなさい!!

息子さん純粋な良い子ですよ!でも、嫁ではございません。こんな風貌ですが、実は、日本人でもあります。実は生きる気力もないんです!w

みたいな事を青年君が通訳。

そうかー、、、とがっかりしたのもつかの間。

「おしん!!おしん!!!」

と集まっていた村人からコールが始まりまして。。。

おしんの人気はジャングルの果てまで届いてましたよ。

日本の連続テレビ小説がこんなジャングルの奥地で、何年もの間、人気だったとは。びっくり。

たしかに。貧困の厳しさ故に我が子を手放すというストーリーは、ここでは今もリアルなんだ。

そう思ったら、なんだか、日本人として、真摯に受け答えしよう、みたいな気が少し湧いてきて。

村は「初の日本人キター!」と騒ぎになり。

小学校へ招かれ、夜は村長の家で宴だそうで。

日本人歓迎祭りです。

日本の昔の辛い物語に共感している。

見た目も時代も大幅に違うわたしが。この村にとっては、日本人代表みたいな感じになっている。よくわからないけど、えっと、なんだかすみません。


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