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AI・ロボット時代にこそ公務員が力を発揮する理由とは

電子国家エストニアから見えてくる公務員の将来像

ロシアと隣接する人口およそ130万人の国、エストニア。世界最先端の電子国家といわれていて、Webサービス「skype」が生まれたことでも有名です。

ここでは、行政のさまざまな手続きのうち、なんと99%がオンラインでできるようになっています。15歳以上の国民はIDカードを所持しており、行政の手続きだけではなく運転免許証や銀行のカードといった機能も集約。不正受給やセキュリティの課題をどうするかという議論はありますが、近い将来には日本でもこうしたサービスが一般的になることが予測されています。

AIやロボットが、これまでの行政サービスを補完してくれる時代です。ただし「では公務員の仕事はなくなってしまうのか」と悲観する必要はありません。公務員には公務員でしかできない仕事があるからです。

そのために必要なことを、全国で活躍している公務員の方を紹介しながら、お伝えします。

「1」の力が地域を、日本を変える

宮崎県出身で2008年に総務省に入省し、2013年から神奈川県庁に出向して仕事をしている脇雅昭さんという方がいます。

脇さんは、個人的な活動として、官僚と47都道府県の自治体職員をつなぐ「よんなな会」という組織を立ち上げたのですが、ここには約1000人もの公務員が集結。中央省庁の長官や社会起業家などのゲストも入り混じりながら、公務員同士の新しいつながりが生まれています。

どうして脇さんがこうした活動を始めているのか。脇さんはその理由を「1万人が1の力で、自分の身の回りに何ができるだろうと考えている人を増やすことが、よい社会に繋がると思っているから」と答えています。

国内には国家公務員が約58万人、地方公務員としてはなんと約273万人もいます。1人が100の力を身につけることは大変ですが、1の力を出すことはできるかもしれない。それだけでも、世の中には合わせて300以上もの新しい力が生まれることになります。脇さんは、そこを思い描きながらつながりをつくり、1人ひとりに「私もやってみよう」という当事者意識を生み出しています。

地方公務員ほど、地域に深く根ざした仕事はありません。課題だらけとされる地域において、公務員の1の力がどれほど重要かは明らかです。公務員のみなさんは、1の力が地域を、日本を変えることを知って欲しいと思います。

「○○さん」と指名される専門性

では、これからの公務員の具体的なありようとはどんなものでしょうか。

長野県塩尻市役所の公務員に古畑さんという方がいます。バブル崩壊時、本質的な住民目線の地域づくりが重要だと感じた古畑さんは、なんでもこなせる「役場の人」ではなく、この仕事なら「古畑さん」と指名される人材になる必要があると買ってくれました。

古畑さんとの対談記事はこちらをご覧ください。MACHI LOG

古畑さんのお話に象徴されるのは「専門性」や「特徴」です。役場の人として十把一絡げに認識される時代は終わります。大切なのは自分自身がどうありたいか、地域にとってどんな人間になるかを考えることが大事。自らを掘り下げ、専門性や特徴を磨き上げていくことがとても大切です。

「ビジネス思考」という二つ目のカードを持つ

左:こゆ財団の岡本氏。農家と一緒に地域を飛び出し視察にいくことも

宮崎県新富町の役場職員であり、現在は地域商社「こゆ財団」に出向して執行理事をしている岡本啓二さんは、既成概念に捉われない新しい発想の持ち主です。

茨城県の起業家育成塾「茨城県北ローカルベンチャースクール 」に携わっている茨城県庁の岩田悠さんも、イノベーティブなアイデアを持った人材です。

彼らに共通しているのは、ビジネス思考で地域課題を捉えることができること。町民からの依頼に応えるという従来型の行政の仕事に加えて、外部パートナーと連携してビジネスの手法を使って地域課題を解決しようとしています。

公務員は地域課題に精通していますし、役場内での合意形成にも長けています。「ビジネス思考」という二つ目のカードを持ち、従来型の仕事とビジネスの手法を掛け合わせることは、公務員でしかできないこと。これからの時代において、公務員に必要なセンスといえるのではないでしょうか。

私が関わっている全国の人材育成事業には、公務員の方も少なからず参加してくれています。そうしたところからビジネスセンスを身につけるのは、よい手段だと思います。

採用や働き方にもイノベーションを

これは自治体トップの方々にお伝えしたいことです。

脇さんが掲げている「1の力を発揮できる公務員」の実現には、採用や働き方にもイノベーションが不可欠です。

では、新規採用にはどのような人材がふさわしいか。一言でいえば、イノベーティブな人材です。イノベーターやリーダーは先天的に特性を持ち合わせた人材もいますが、基本的には後天的につくられていく存在だと感じています。

課題先進地である日本の地域において、親世代の「役場勤めなら一生安泰」という幻想はまだまだ根強くあります。一方で地域は少子高齢化の影響を受け、経済は疲弊し、人材も流出。新しいことにとにかくチャレンジしていかなければ、どんどん沈んでいく一方です。

宮崎県新富町では、職員の副業を認めました。農作業の繁忙期に助っ人として参加するなど、自らがやりたいこと、ワクワクすることに時間を投じる職員が増えてきています。

先鞭をつけたのは、2018年3月に就任した小嶋崇嗣町長です。職員の採用や働き方改革を考えているトップや自治体のリーダーは、宮崎県新富町での取り組みを学んでいただくことをお勧めします。

公務員にこれから必要とされる事

公務員にこれから必要とされるのは、変化への対応力です。

多様性を極め、先行きの不透明な時代にあって、公務員は組織や人材を柔軟に変化させながら、町をありたい姿に発展・進化させていくことが求められています。

ここで力を発揮できるスキルといえば、コーディネート力でしょう。大きく掲げた町のビジョンに対し、多様な立場、出自、経験からなる町民の意見をまとめて推進力に変えていく。言葉で書くと難しく響きますが、ひとことでいうならば「町民の間にしっかりと入り、つないでいくこと」だと感じます。

そういう意味では、ファシリテーションやコーチングのスキルを持った人材は活躍の可能性を秘めていると思います。

AI・ロボットを公務員が使いこなす時代も目前です。テクノロジーの担い手として、エンジニアやプログラマーといったスキル・経験を持った人材も重宝されるでしょう。

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