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【山田太一】脚を引きずる女性を解放したテレビドラマ『せつない春』

シナリオライター、
山田太一さんが亡くなった。

山田太一といえば、
『ふぞろいの林檎たち』
『岸辺のアルバム』
『異人たちとの夏』や
ラフカディオハーンの
世界観を追求して、
ドラマにしたことも
記憶に残ってます。

山田太一さんは
健康な頃は、よく単発ドラマの
シナリオを書いていた。
きちんと予告に出会っていないと
見逃してしまうから、
運良くドラマ放送に出会えたら、
本当にラッキー!でした。

そんな単発ドラマで、
私がナンバーワンだと思ったのは
「せつない春」1995年、
テレビ東京製作、でした。

昭和主義の父親が
家庭崩壊を招き、
何もかも失っていく、、、
そんな父親の権威失墜を
山崎努や竹下景子の夫婦が
演じていました。

二人には、足にハンディを
抱える娘(清水美沙)がいて、
引きずるように歩くので、
親たちは、自分たちの娘は
結婚は無理だろうと諦めすら
あるのですが、
清水美沙は、杉本哲太演じる
ガッシリした好青年の恋人がいる。
とはいえ、なかなかそれは
親に話せないでいる。
この辺りが令和とはちがって、
まだまだ古い昭和の価値観に
障害者は囲まれていたんだなあ、
と思いますね。
1995年、リアルタイムで
放送を観ていた私には、
親の側の気持ちも
それなりに共感しました。

清水美沙の母親、竹下景子は
恋人に対して、迫るんです。
うちの娘みたいな、
体に障害を持ってる人を
あなたみたいな健常者は
いつか面倒を見られなくなる、
そんな時が来る。
私の娘はあなたみたいに
さくさくとは歩けないのですよ!
一時の感情で好きだとか
婚約するとか決めないで!
お互いに不幸になるんだから…。

そんな、今ならあり得ないような
言葉を口にするんです。

これを聞いた娘とその恋人は
家を飛び出していく。
私たちは本気なんだ、まじめに
結婚を考えているんだ、と。

私は今でも、この場面を、
夜の住宅街の道を、
杉本哲太が清水美沙の手を引いて
先へ先へ歩いていく姿が、
そうしてその後を追いかけ、
両親が血相を変え、家から出ていく、、、 
その場面が今でも頭に
こびりついています。
胸をえぐられたようで、
とても感動的なドラマでした。

さて、今ならどうなるでしょう?
少し脚を引きずる女性がいて、
それゆえ健常者との結婚に
反対する頑なな両親、、、、
これは今もまだ
普遍的なテーマとして、
視聴者の胸を震わせそうですね。

こんなにぶしつけな、
障害の当事者やその家族でも
めったに口に出さない気持ちを、
山田太一は、28年前、
1995年に書いていたんです。 
バリアフリー問題に連なる障害者の話を
家族ドラマで書いていたんです。
山田太一にとっても、
このドラマの製作陣にとっても、
大きなチャレンジだったでしょう。

「せつない春」は
昭和の価値観の崩壊がテーマ。
山田太一さんらしさがギュッと
表現された作品でした。

そういえば、
村上春樹のヒット作品
『国境の南 太陽の西』でも
主人公の初恋の女性は
少し脚をひきずって歩く人でしたが
春樹の場合は、主人公には
それも魅力の一つとして
書かれていましたね。
『国境の南…』は1992年発売。

村上春樹もまた、
障害者の話やバリアフリーについて
さりげなくながら、
書いていたのに、
受け取り手側の私は、当初、
それにはスルーしてしまっていたんです。
出来の悪いファンですね。

そうして、今年2023年、
市川沙央さんが障害者問題を
真の当事者として引っ提げて、
芥川賞をとりました。
これでやっと、わたしも、
作者が言いたかった願いに
気づけるようになってきました…。

気づくのが、
情けないくらい遅いな、私は…。

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