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函館の作家・佐藤泰志の映画、全5作!

函館ってすごい魅力的な街のイメージがありますが、この函館を舞台に小説を書き続けた孤高の作家・佐藤泰志の原作を映画化した最新作が公開されました。

実は今回が5作目でして、どれもいい映画なんです。

そしてこの5作品が全てあるプロジェクトとして立ち上がったものでして、その経緯からが面白いので、最新作公開記念ということで今回はこの全5作品の紹介とこのプロジェクトについてnote書いてみたいと思います!

ポスター画像にFilmarksのリンクを貼っておきますので、そこからどこで視聴できるのか分かります。


最新作 『草の響き』

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2021年 日本 116分
監督:斎藤久志 脚本:加瀬仁美  原作:佐藤泰志
出演:東出昌大、奈緒、大東俊介、kaya、林裕太、三根有葵、ほか

<あらすじ>
心の病で東京から実家のある函館に妻と戻ってきた和雄。医師の勧めで始めたランニングで、路上で遊ぶ少年たちと交流するようになり…

こちらは、2021年10月8日に公開したばかりの最新作です。

心の病の治療のために、取り憑かれたように走り続ける男を東出昌大、心ここに在らずで自分をちゃんと見てくれない夫との距離に悩む妻を奈緒が演じています。

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こういう一生懸命に生きているのに上手くいかなくて社会の底で人知れず苦しんでいる市井の人々を主人公にしていくのが佐藤泰志作品の特徴です。

そしてこの話はもうひとつ、学校で孤立してる転校生とプールで出会った同じく孤独な少年とその姉の物語も並行して進んでいて、彼らの遊び場である広場と主人公がランニングする場所が同じことから、二つの話が交わったりしていきます。


佐藤泰志とは

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1949年、北海道の函館生まれ。
学生時代から少年文学賞を受賞するなど早くからその文才が高く評価され、芥川賞には5度もノミネートしたにも関わらず一度も受賞せず、同世代の村上春樹らが人気を博す中、不遇なまま41歳で自殺した作家です。

若い時から自律神経失調症に悩まされていたそうで、『草の響き』の主人公とまさに同じで、自己を投影したキャラクターであることがうかがえます。

<芥川賞ノミネート作品>
「きみの鳥はうたえる」
「空の青み」
「水晶の腕」
「黄金の服」
「オーバーフェンス」

佐藤泰志を描いたドキュメンタリー映画作品『書くことの重さ』も作られました。


映画化プロジェクトについて

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函館が舞台になる映画は数あれど、函館が中心でそこに住む人々の姿までしっかりと描いた作品があまりないと感じていた函館市民の有志の方々によって、函館出身で市井の人々の営みを描き続けてきた作家・佐藤泰志の作品を原作とした映画作りの案が持ち上がる。

選ばれた作品は、『海炭市叙景』。移り行く函館の街とそこに住む人々を描いた作品です。

その実行委員の中心となったのが函館の映画館シネマアイリスの支配人・管原和博さんです。
そして実行委員会の皆さんで地道に資金集めをして、PR活動をして見事目標金額の1000万円を集めたそうです。

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<『海炭市叙景』映画化の目的・意義>
・函館生まれの作家による、函館をモデルにした小説を、函館ロケで映画にする。
・今の函館の町並みを映像として記録し、後世への記憶に残す。
・市民参加の映画づくり。映画づくりという大きな目標を掲げた自主的活動が、町に活力をもたらし、文化活動の新しい形を生み出してゆく。

市民参加の映画づくりということで、監督探しから本当に全部自分たちでしたのだとか。その思いが中途半端じゃないところがすごいです。


それではここからは、時系列で作品紹介をしていきます。


『海炭市叙景』(2010)

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2010年 日本 152分
監督:熊切和嘉 脚本:宇治田隆史  原作:佐藤泰志
出演:谷村美月、竹原ピストル、加瀬亮、他

まずは映画化第一弾となったのがこちらの作品です。

函館をモデルとした海炭市を舞台に、造船所にリストラされた兄妹をはじめ移りゆく時代とともに変わっていく街で取り残されそうになる様々な人々を描いた群像劇。

上手くゆかない生活の辛さと海炭市の寒さで雰囲気は重いのですが、ふとした瞬間に映し出される函館の夜景がとってもきれいで、辛さの中にちょっとした光が差し込む感じがすごくいいです。

監督は、鬼才・熊切和嘉。力強い作風のイメージですが、この寂れた地方都市な感じをすごくよく捉えていたと思います。
個人的には『私の男』が熊切監督の作品の中では一番好きです。


『そこのみにて光り輝く』(2013)

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2013年 日本 120分
監督:呉美保 脚本:高田亮  原作:佐藤泰志
出演:綾野剛、池脇千鶴、菅田将暉、他

第二弾になったのが本作。
今度は女性監督の呉美保がメガホンを撮りました。

仕事を辞めてブラブラしていた主人公がパチンコ屋で知り合った若い男に案内された実家は世間から取り残されたような荒屋で寝たきりの父親とその世話をする姉がいて、、
そこで出会った姉に恋心を抱いた主人公にとって彼女は光り輝く存在だった。

貧困や介護、仕事につけない環境とか世間の波に乗れない取り残された人々を描きながら、わずかながら希望もを感じさせてくれる傑作です。

主演の綾野剛はじめ池脇千鶴や菅田将暉など役者陣がかなり良かったです。
Filmarksでも評価が高く、呉美保監督の代表作のひとつだと思います。
個人的に呉美保監督で好きなのは、『きみはいい子』です。


『オーバー・フェンス』(2016)

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2016年 日本 112分
監督:山下敦弘 脚本:高田亮  原作:佐藤泰志
出演:オダギリジョー、蒼井優、松田翔太、他

映画化の第三弾が本作です。

妻に見限られて函館に戻ってきた主人公は、職業訓練所に通いながら失業保険で生計を立ててるんですが、ある時キャバクラで鳥の真似をする変わった女性に出会い、危うさも感じながら惹かれていきます。

2人がデートする山の上の動物園や、海が見渡せる長い坂道とか、夏の青空の元に函館のきれいな街並みが良かったりします。

オダギリジョーの飄々とした感じとか、コメディを得意とする山下敦弘監督というのもあって、ちょっと明るめな印象がある作品ですが、実はお互いに闇を抱えている男女がその過程でお互いの闇に向かい合って、不器用ながらそれを乗り越えようとしていく話です。

ラストシーンとか結構感動しちゃいます。この作品割と好きです。

佐藤泰志が職業訓練所に通った体験をもとに書かれた作品なのだとか。

監督の山下敦弘作品では、やっぱり『リンダリンダリンダ』かな〜。
初期の『どんてん生活』も捨てがたい。


『きみの鳥はうたえる』(2018)

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2018年 日本 106分
監督・脚本:三宅唱  原作:佐藤泰志
出演:柄本佑、染谷将太、石橋静河、他

 映画化第四弾がこちらの作品です。

書店で働く主人公は、同居する友達と同僚の女の子と3人で飲み明かし、学生のような責任もなく楽しいだけの日々を過ごしていたが、やがて3人の関係性が変わりはじめ、微妙だったそのバランスが夏の終わりとともに崩れていく、、

この佐藤泰志原作の映画化シリーズの中では一番好きだったかもしれない。
人がそこそこしかいないクラブで手持ち無沙汰で音楽聴いてる感じとか、なんか妙にリアルでその時の若者っぽさが出てていいんです。

かつて自分もそうであったような気にさせられて、つい結構感情移入しちゃいます。
染谷将太はすごく達者だし、柄本佑も石橋静河も良くて役者がみんなハマってました。

ひと夏の、いつか終わってしまう幸せな関係性の描き方がすごく良かったです。

三宅唱監督の中では、『ワイルドツアー』も実験的で楽しかったのですが、個人的にはやっぱり本作が一番好きですね。


まとめ

この映画化プロジェクトの特徴として、毎回違う監督に違う原作の映画化をさせているところがあります。
そして監督のチョイスがすごくいい!

佐藤泰志が描く函館の世界観をとてもよく表現しているんじゃないかと思います。

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一般的には函館はきれいな街のイメージだけど、佐藤泰志が描くのはどこか寂れた地方都市。そして社会の底で必死に生きている市井の人々を厳しくも優しく描きます。

基本的には上手くいってなくて厳しい現実を生きる人々が住まう街なんだけど、最後に一筋の光が感じられるのが特徴で、函館の街も寂れたところばかり写すんだけど、ちょっとした時に見せる夜景だったりがすごくきれいだったりして、映像と作品内容と函館の街がすごくリンクしています。

これはほぼ全作品に共通しているので、そこも注目ポイントです。


函館の街

今回noteを書いていて思い出したのですが、フィンランドのアキ・カウリスマキ監督が大好きでヘルシンキに行ったことがあるのですが、カウリスマキの描くフィンランドってすごく寂れてて暗い街なんです。
だけど実際はとってもおしゃれでキラキラとしたきれいな街でした笑
(『かもめ食堂』が公開されたのはその後です)

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佐藤泰志の描く函館にも同じものを感じました。

今回の作品を見てきて、改めて函館市の観光サイトを覗いてみたらそのギャップがすごくて面白かったです笑


最後に

今回は、『草の響き』公開記念!ということで、函館の孤高の作家・佐藤泰志の原作を映画化した全5作品と、そのプロジェクトを紹介してみました。

監督もそれぞれ個性的なんですが、佐藤泰志の作家性が立っているので、好きな人は好きっていうクセになる魅力があるなって改めて気づきました。

函館にもすごく行ってみたいです。
そろそろコロナも落ち着いてきたので遠出ができるようになったらぜひ行っていみたい場所になりました。


最後までありがとうございます。

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