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モノづくり大国を目指すロシア

2023-07-16

7月13日、モスクワで未来技術フォーラム「量子力学の世界 - 演算処理と通信」が開催された。

先日、ロシアが観光立国への準備を着々と進めていることをお伝えしたが、科学技術の分野でも制裁を踏み台に発展していることが伺える。

総会冒頭の挨拶でプーチン大統領は、ロシアを排除しようとする西側の制裁に言及し、「ロシアは誰からも孤立することなく独自の道を前進するのみ。我々は諦めず、独自に研鑽を積んでいる。科学技術の国外依存は国家安全保障に対する深刻な脅威であり、国家主権の弱体化と喪失をもたらす。」との見解を示した。

科学技術分野に限らず、あらゆる分野で2014年から経済制裁を受けてきたロシアは第一次産業を中心に脱国外依存を進めてきた。2014年の経済制裁の前後から国内の農業や酪農が急速に発展していったのを私自身も目の当たりにしている。

そして自給自足が回り始め、ロシアは自信を取り戻し、自信がさらなる主権重視、国内回帰への足がかりとなった。

科学技術分野においても、ロシア連邦科学技術10カ年計画(2022年〜31年)が制定される等、同様の動きが近年活発になって来ている。若い世代を前面に押し出しているのが特徴的だ。

ロシアが青少年の育成に力を入れている件についてはこれまで度々お伝えしてきた。

プーチン大統領は昨年2月に行われた年次教書演説でロシアの教育改革を重要項目に掲げ、教育システムを欧米式ではなくソ連式に戻すと宣言し、モノづくり自給自足大国への道筋を示した。

以下、鈴木宗男議員と佐藤優氏による新党大地主催第136回月例東京大地塾より抜粋させていただく。https://www.youtube.com/watch?v=pFV0ClRqDX0&t=2505s

(引用開始)全ロシア人民戦線というのが、今、併合4州の人道物資の支援とか教育をやっているわけで、一種の大政翼賛会なんだよ。

この翼賛会が教育の再編で出てくることで、ロシアの教育は大きく変わると共に、産業や国策との結びつきが強くなる。これは日本外務省とか内閣情報調査室とかでやらなければならないこと。

ロシアの教育改革、これがどういうふうになるか。5年で100万人、特に軍産複合体を中心とした形で専門家を作ると。これがロシアの国防生産力にどういう影響力を与えるのか、一種のアウタルキー経済を目指していくという形のプーチンの宣言なの。

ここのところ、私は今回の大統領の年次教書では注目したが、日本の報道だと全然わかんないよね。

教育を変えるということはソフトを変えちゃうということだから。西側とは違うソフトでロシアは戦っていくということ。

でも考えてみて。GDPで比較したら、韓国と同じレベルよ、ロシア。それがなんで西側連合全体と今まで一年戦い切れたわけ?ということは、GDPという指標で国力を図るということが多分、間違えてるからだよね。ロシアはそこで自信を持ち始めている。(引用終わり)

プーチン大統領は今回の未来技術フォーラムで、研究者への科学研究費助成事業(メガグラント)について大変詳しく語っているが、こちらもやはり若手が主役だ。

科学研究費助成事業(メガグラント)は、競争力の高い若年層の科学者育成を目的に設立された。

本プログラムの恩恵を受け、全国の研究所や教育期間で若者のイニシアティブが発揮されている。
https://crds.jst.go.jp/dw/20190709/2019070920124/

プーチン大統領はこの国家助成事業に非常に前向きだ。 

「多くの研究者がロシアで注目度の高い重要な研究プロジェクトに参画したいと考えています。そして、優れた研究チームを編成し、最前線の科学技術関連の課題を遂行するために欠かせない科学研究費助成事業(メガグラント)の再開が求められていますが、この提案を全面的にサポートします。」

政府と議会に向けては、2026年迄の連邦計画予算案で科学研究費助成事業(メガグラント)予算を必ず計上すること、また助成金の受給要件を研究者にとって一層良いものにするよう要請した。プーチン大統領は、助成金の上限の引き上げや補助期間の延長も必要だとの考えだ。

また、若手の起用の他、国外の科学者にも積極的にアプローチをかけている。つまり、ロシアの国内回帰の動きは、ロシアが主権に拘泥し他国を排除するということを意味しない。プーチン大統領は、「逆に、他の国々と対等で互恵的な同盟関係を構築していく所存だ」とBRICSとの関係強化に言及した。

具体的には、研究所の設立など大型事業に参画している外国人への支援を明確にし、 ロシアの知的資産となる事業を対象に5年間で総額5億ルーブル(約7億8600万円)を拠出、ロシアの教育研究機関に携わる外国人研究者には5年間で2億5千万ルーブル(約3億9300万円)の助成金が支払われる。

更に、現在国外に居住するロシア人に向け、祖国で貢献することを希望する優秀な若手研究者にも支援を惜しまないと述べた。

すでに44か国から293件の審査申請があり、30件が審査をパスし、13 の地域で新規研究事業がスタートしている(2022年度実績)。申請要件の改定後は申請数が更に増えるはずだ。

元々ロシアの教育文化レベルは高い。テレビ番組でも良質なドキュメンタリーが多く、近年は若手が司会を務める学術トーク番組もよく見かける。そしてこれから具現化する教育改革で、前述の佐藤優氏の表現を拝借すると、ロシアは「国のソフトを書き換え」国力を上げてくるだろう。

ロシアの学生は、さまざまな国際学術オリンピックで優秀な成績を残している。7月の国際数学オリンピック(日本)、国際化学オリンピック(スイス)、国際生物オリンピック(アラブ首長国連邦)、11月の国際天文学オリンピック(ロシア)で常に上位を占めている。

注)千葉県で開催された国際数学オリンピックでは、ロシアチームは制裁のため参加国としてカウントされず、学生らはリモートでの参加を余儀なくされたが、メダル総数では中国に続き2位という快挙を成し遂げた。(日本は5位)https://twitter.com/jupiter_russia/status/1679434183716864001?s=20

ソ連崩壊後、ロシアの優秀な頭脳が流出し、国は存亡の危機に瀕した。これからは逆にロシアに逸材が流入してくる。日本はロシアとの関係を断ち切るのは得策ではないだろう。


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