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メモ:地域再生の「足し算と掛け算」

※Webの記事は全て2024年1月3日閲覧

はじめに

2024年1月1日に令和6年能登半島地震が発生しました。地域づくりを学ぶ身として、過疎地域を襲った自然災害は重大な事件です。
過去に災害からの地域再生プロセスを少し勉強したので、改めて整理してメモとして残します。

自然災害が過疎地域に与える影響

※この章では、特にことわりのない限り「小田切徳美『農山村は消滅しない』岩波新書 2014年」から引用しています。

過疎化が進み、人口減少の激しいいくつかの農山村では「むらの空洞化」と呼ばれる現象が確認されています。これは寄合や祭が開催されなくなるなど、集落機能の脆弱化を指します。

むらの空洞化がある程度まで進行すると、地域内に「この地域はもうダメだ」というあきらめの意識が広がり、集落機能が急激に脆弱化します。この点を小田切は「臨界点」と呼び、最終的には「全ての集落活動が停止する」としました。そして臨界点に至るきっかけには、地震などの災害が大きいことが指摘されています(https://www.jacom.or.jp/nousei/proposal/2015/150119-26294.php)。

全国過疎地域連盟によると、能登半島地震で被害にあった地域の多くが「全部過疎」として指定されています(https://www.kaso-net.or.jp/publics/index/44/)。

例えば、この記事に登場した以下3地域も「全部過疎」です。

  1. 珠洲市(市長が記事内で「市内は壊滅状態。住宅全壊は1000棟ほどあるのでは」と述べる)

  2. 穴水町(町長が「町内は壊滅的な被害で人命に関わる家屋倒壊は9軒」と述べる)

  3. 能登町(町長が「壊滅的。一刻を争う状況で物資の供給をお願いしたい」と述べる)

以上を考慮すると、能登半島地震は、能登半島における農山村の「むらの空洞化」を促進し「臨界点」に至らしめる可能性があります。

新潟中越地震からの教訓:「足し算と掛け算」型の支援

地域再生という視点から見た能登半島地震の類似事例として、平成16年新潟県中越地震が挙げられます。

新潟中越地震も、能登半島地震と同様に過疎化が進む農山村で発生しました。そしてその結果、稲垣によると「震災を機に利便性を求め、街中で住宅再建をする人が多く、過疎化・高齢化に拍車がかか」りました(http://www.kosonippon.org/mail_magazine/728/)。
つまり各地域の状況が「臨界点」への接近したと考えられます。

このような状況下で、当時地域再生に携わった人々が明らかにしたのが「地域再生の「足し算と掛け算」」という議論です(この議論の展開過程を示したものとして、例えば稲垣2013が挙げられる)。

2種類の支援について、小田切による整理を引用します(https://www.zck.or.jp/site/column-article/4861.html)。

  • 足し算の支援(寄り添い型支援):住民の愚痴、悩み、小さな希望を丁寧に聞き、「それでもこの地域で頑張りたい」という思いを掘り起こすようなプロセス

  • 掛け算の支援(事業導入型支援):具体的な事業導入を伴うもので、短期間で形になるものである。(中略)それによりあたかも掛け算の繰り返しのように、大きな変化をもたらす可能性がある

この2種類の支援の在り方について、小田切は以下のように指摘します(カッコ内は筆者編集)。

中越地方における経験からは、被災後の数ヶ月から数年はこのタイプ(足し算)の支援が必要だったと言われている。(中略))そして、重要なのは、この掛け算は十分な足し算の後に、はじめて実施するべきものであるということだ。

https://www.zck.or.jp/site/column-article/4861.html

実際に、「十分な足し算」を行わずに掛け算型の支援を行った結果、地域再生が失敗した事例が報告されています。
例えば、新潟中越地震からの復興プロセスにおいて地域復興支援員が果たした役割を分析した稲垣は、以下のように指摘します。

「(中略)専門家等が、他の地域の成功事例を持ちだし、活性化しようとアドバイスをしても住民は動かない」、あるいは、「いやいや動き、失敗し、住民は専門家の話は二度と聞くものかと思った」という事例が当初の復興支援の現場において少なからずあった。

つまり, いきなり掛け算のサポートを行うのではなく(例えば- 2 × 2 =- 4 になってしまう),まずは,集落をプラス値(主体的な意識をもった集落)にするための足し算のサポートを地道に行い(-2+0.5+0.5・・・=+ 1)、住民の主体性(+ 1)を見極めたうえで、掛け算のサポ ート(1×2=2)を行っていくことが有効であったの だ

稲垣文彦 2013「中越地震における地域復興支援員に学ぶ」 農村計画学会誌 32 354-357

これからできること

ここまでの議論を考慮すると、今後能登半島で求められる支援は「足し算型」であると考えられます。しかし今日(2024年1月3日)は震災発生から2日しかたっておらず、「住民主体の集落機能がどうのこうの」なんて言える状況ではないと思います。ゆえに、今すぐに私たち素人ができることは寄付をすることくらいしかありません。そして私たちが現地に行って、ボランティアなどの形で何かできるのは、今から数か月後かもしれません(新潟中越地震で「地域復興支援員」が始まったのは、震災から3年以上たった後でした)。

なので、今できることは

  • 信頼できる機関から寄付をする

  • 被災地に思いを馳せ、「力になりたい」という想いを保つ

だと思います。そして私は、被災地から「力を貸してほしい」というメッセージが届けば、現地に行って求められることをやりたいです。そこで結果的に「足し算型の支援」みたいな何かに繋がり、被災地の復興に繋がればよいな、と思います。

復興という言葉を出しましたが、復興は「インフラが元にもどる」みたいな単純なものではありません。そこには住民の想いといった人的要素が多分に含まれています。ここで紹介した「足し算と掛け算」もあくまで地域再生プロセスの議論の1つです(自分は「確立された理論ではなく、経験則に近い教訓」と理解しています)。なので「地域のために求められることを」という想いで、被災地を「手伝う」くらいの姿勢を忘れないようにしたいです。

最後に、「足し算掛け算」の議論をリードする稲越文彦氏の言葉を残して締めます。

地方創生の本質は自治の再生だ。そのため、『足し算と掛け算』の実践は役に立つだろう。けれども、これは成功事例を示すものではなく、道しるべに過ぎない。模倣する時代は過ぎ去り、自治体が現場実践の模索から独自の地域再生モデルを創出していく時代が到来している。私たちの『足し算と掛け算』の経験はそのように利用して欲しい。

https://www.zck.or.jp/site/column-article/4861.html



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