見出し画像

ふつうの幸せ 

こんにちは、エルサレム事務所の木村です。日本では入学式を迎える学校も多い時期でしょうか。ほとんどの人が祝福を受けてこの世に生を受け、いろんな経験をしながら就学年齢になると小学校に入学し、やがては成人式を迎え、就職、結婚、出産など人生のさまざまなステージを経て年齢を重ねていくことになると思います。
 
しかしながら、そういう私たちが当たり前のように享受している日常や幸せが「当たり前」ではないのが、ガザです。10月7日のハマスとイスラエルとの間の衝突から今日で半年になりますが、ガザは10月7日以前から、「ふつうの幸せ」を味わうことがとても困難な場所でした。なぜならば、10月7日のように突如としてイスラエルからの攻撃が起こるからです。

ガザ市内にあるパン屋(朝食用によく買いに行きました)

10月7日以前、私は2ヶ月に一度の割合でガザに出張していました。ガザで行っている子どもたちの栄養改善と予防の活動のモニタリングや現地パートナーNGOのアルデルインサーン(AEI)のスタッフとの打合せのためです。出張のタイミングでスタッフの誕生日や出産などのライフイベントがあると、一緒にお祝いしたものでした。昨年は10月中旬にガザの友人の息子さんが結婚するとのことで結婚式に招待を受けていて、また別の友人が8月に出産したのでそのお祝いも出張時にできたらいいなあと思っていました。
今は2人とも自宅を離れて別の地域に避難しています。出産した友人は、「この状況で子どもを産んだことが、その子にとって良かったのか」とさえ言っています。
 
地震やコロナ感染症などの不可抗力で楽しみにしていた計画が実現できなくなった経験がある方も多いと思いますが、ガザの場合はそれが日常茶飯事で、イベントなどは「ドタキャン」「無期延期」の可能性も含めて計画せざるを得ません。しかし、ガザの人たちは一瞬一瞬をとても大事にし、「一期一会」という言葉を体現するほどに会うたびに固いハグをしてくれます。

AEIスタッフとの打合せ(2022年11月撮影)

一度も戦争を経験することなく一生を終える人たちがいる一方、ガザの人たちはわずか15歳の子どもでもすでに5回以上の大規模な空爆などを経験しています。そのたびに恐怖や不安と戦い、大切な人の死に直面し、勉強や仕事の機会も奪われ、そして今回はその状況が半年も続いているのです。

 ガザの人々を含むパレスチナの人々は、「あなたたちにとっての”ふつうの生活”は、私たちにとっては夢です。」と言います。

「ふつうの幸せ」が日常ではなく、「夢」となっているガザの現実をみるにつけ、「ふつうの幸せ」は平和の上に成り立っていることを実感します。ガザだけでなく紛争が続いているウクライナ、シリア、イエメン、アフガニスタン、ミャンマーなどもしかり。自然災害や感染症は人間にコントロールできないものですが、紛争や人権侵害は「人災」と呼ばれ、人間が起こす災害です。つまり、本来は人の手によって予防することも止めることもできるはずなのです。
 
SDGs(持続的な開発目標)の目標16には、「平和と公正をすべての人に」と書かれています。自国や自分に関係なくても世界共通の普遍的な価値である「平和」や「公正」を実現するために、世界の人びとは努力をする義務や責任があります。そのなかに私たちも入っています。
 
ガザの友人たちから「国際社会はこのガザの悲惨な状況を知っているのに、見ているだけで、何もしてくれないのか」とたびたび聞かれます。良心のある人たちが停戦を叫び、そのための署名活動や募金、支援などの行動を起こしてくれていることに感謝をしつつも、(恒久的な)停戦の声も聞こえず、ましてやガザの人たちにとって命綱でもあるUNRWA(国連パレスチナ難民救済事業機関)への資金拠出を停止する国(日本含む)も出てくるなど、自分たちが世界から見捨てられている、自分たちの命はどうでも良いと思われている、と感じているようです。
 
10月7日以降、JVCはパレスチナ支援を行う仲間とともに「一秒でも早い停戦を」と、外務大臣をはじめ関係各所に継続して働きかけています。ひとりひとりの力は小さいかもしれませんが、それらが集まれば国の方針を変えるほどの大きな力になります。日本政府がUNRWAへの資金拠出再開が表明されたのも、UNRWA自身はもちろんのこと、私たちをはじめさまざまな団体や個人の働きかけがあったからだと思います。
 
ガザの人たちの「ふつうの幸せ」を奪っているこの状況を一刻も早く終わりにし、「ふつうの幸せ」が当たり前のように享受できるガザを実現できるよう、是非、ひとりひとりが自分にできること、ともにできることに取り組んでもらえたら嬉しいです。
 
ガザ緊急ページはこちら
プレスリリース:2023年10月7日から半年。ガザの声を聞いてください


JVCのパレスチナ事業では、現地に暮らす人びとの意思を応援する形での支援を行なっています。また、パレスチナの問題を日本社会にも伝えることで、一人ひとりが取り組むための橋渡し役を担うことも試みています。 サポートしていただいた分は全額、JVCのパレスチナ事業に寄付いたします。