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能登半島地震で見えた、災害×情報の課題 ―インプレゾンビにデマ…SNSの限界も

はじめに

1月1日に発生した能登半島地震で被災された皆さまに、心からお見舞い申し上げます。いまなお地震活動が続くなかですが、一日も早い復旧・復興を祈念しております。


元日に発生した能登半島地震では、道路の寸断による集落の孤立や救援活動の難しさといった課題に加えて「被災者にとって必要な情報をどう届けるか」といった、情報の流通に関する課題も浮き彫りになりました。
今回のnoteでは、「情報のライフライン」の課題について、当社代表の米重による社員向け講話の内容の一部を紹介します。


報道の「確かな情報を集め、伝える力」が弱っている

報道機関が「確かな情報をより早く届ける」情報のライフラインとしての役割を持っているとすれば、それを果たしにくくなっているという課題が見えたのが元日の能登半島地震でした。

これらは、元々「テクノロジーで『ビジネスとジャーナリズムの両立』を実現する」ことを謳ってきた我々としては、かねて予想していた課題です。だからこそ、人海戦術やアナログな手法ではなく「報道の機械化」を事業領域として様々なサービスを展開してきました。が、今回の地震ではその課題が予想以上に大きく露呈してしまったと思います。

例えばある新聞社は、昨年11月末で輪島の支局を廃止したばかりだったと言います。他の新聞社でも能登半島に限らず、全国津々浦々の支局を廃止していく動きが続いています。報道機関、とりわけその中核をなす新聞社が相次いで地方から取材体制を撤退する動きが各社で進んでおり、報道記者が地方の情報をなかなかリアルタイムに、且つ細かく収集しにくいという状況の中で、今回の地震が起きてしまいました。

より状況が厳しかったのはテレビ局です。テレビ局は「中継局」を通じて、地域に情報を届けるわけですが、一部の地域では地震の翌日に全局が停電し、NHKと民放4局すべてが見られなくなってしまうということが起きました。近年のテレビ局の経営環境が厳しいのは周知の通りですが、こうした中継局への投資やバックアップ、増設が難しいということはかねてから指摘されています。
その結果「誰それの家が倒れた」とか、「どこそこの道は通れん」とか、そういう情報は、集会所に集まってきた人々の声が全てだった。要は口コミ以外の情報源が全くない被災者が多く存在する状況だったー といったことが後に分かっています。

上記の記事では、輪島の朝市の火災は翌日になって知った、という声も紹介されています。が、実はこの輪島市の火災は、FASTALERTやNewsDigestでは、発生直後、数分〜20分程度の間、それこそ最初の1棟が燃えているというような状態の時からリアルタイムに把握し、発信をしていた事象です。つまり我々の情報も被災者には上手く届いていなかったということであり、非常に大きな課題です。

インプレゾンビ、エコーチェンバー…SNSは大荒れ

対して、SNSはどうだったか?
近年、特に災害時の情報インフラとしてSNSとりわけX(Twitter)の活用の重要性は広く知られています。当然、能登半島地震でも多くの情報が発信されたわけですが、非常にまずかった課題のひとつが、「インプレゾンビ」とか「インプゾンビ」と言われるスパム投稿の類です。
ネット広告を仕事にする人からすると、インプ”レ”ゾンビという言い方はどうもしっくり来ませんが、それは本論ではないので置いておきましょう。

インプレゾンビとは、Xで分配されるようになった広告収益の獲得を狙って投稿されるスパムのことです。Xはイーロン・マスク氏の買収後、有料会員に広告収益をインプレッション(=投稿の表示回数)に応じて分配するという施策を打ち出しました。その収益分配を狙って、バズった投稿に、コメントを生成AIか何かで作ってぶら下げるということが横行しているわけです。 例えば100万インプレッションある、とてもバズった投稿に、いかにも生身の人間のようなスパム投稿(まさにゾンビですね)をぶら下げると、それだけで5万、10万といったインプレッションを稼げるわけです。

であれば、儲けのためにアカウントいっぱい作って、且つ生成AIも使ってどんどん自動化していけと、小遣いが稼げるじゃないか、ということを考える人が出てくるわけです。今回の地震では、こうしたインプレゾンビが相当大量に発生してしまう、ということもありました。
従来言われているデマとフェイクニュースの流通・拡散の課題もやはり表出しました。例えば政府が「ホテルや旅館を二次避難所にします」と発表したら、「被災者からお金取るなんてけしからん」みたいな、だいぶ早合点したようなデマが拡散したりというケースもありました。それで被災者が二次避難を躊躇するようなことがあれば相当問題です。
この手の情報は、自分の意見や根拠が正しいと思って拡散してしまう、人間の悪いところが出てきているケースです。

政府や石川県、自衛隊の活動について、専門的知見も情報も持たない人が無用なダメ出しをして、結果的に救援活動の阻害や、金沢など相対的に被害の大きくない地域への風評被害に繋がるといったこともありました。政治・行政のあり方は絶えず批判的検証に晒されるべきですし、それもジャーナリストや政治家の大事な仕事ですが、そもそもの目的やTPOは弁えなければ本末転倒です。

被災者の生活よりも、自分の政治的な主張の方が大事な人たちが世の中には一定数存在することは残念です。そういった人たちの「コタツで現場批判する」動きが、被災者の気持ちやニーズと関係なく、SNSプラットフォーム上で盛り上がっているという状況が起きてしまったように見受けられます。同じような意見の人ばかり集めて情報のタコツボに入ってしまう「エコーチェンバー」といった現象がそれをブーストさせています。この辺は、私が書籍「シン・情報戦略」で詳しく記した通りの状況です。

やはり、こうした課題をひとつひとつ振り返っていくと、SNSとりわけXは、情報空間としてかなり厳しいと思います。出てくる情報を相当分析、厳選した「上澄み」でないと安心して使えない。元々それを提供してきたのが我々JX通信社のFASTALERT(ファストアラート)です。より我々の役割は重くなったと思います。

JX通信社が目指す情報提供

つまり、確かな情報を届ける報道機関が上手く情報を集めて届けきれない状況である一方、SNSプラットフォームは「インプレゾンビ」だ「デマ」だ「エコーチェンバー」だと大荒れになっていた。災害時の情報空間、という観点で状況を俯瞰した時に、被災者が常に頼れる情報源がない―、ということに気がつくわけです。

もっと言えば、デマやフェイクというのは確かにSNS上の問題としてありますが、それ以前に、信頼できる確かな情報の供給主体やそのパワーが弱くなっていることが大きな問題です。デマ、フェイクはSNS以前から、それこそ関東大震災の頃から知られている大きな問題ですが、信頼できる確かな情報源がSNS以外で有効に機能していて、被災者が必要な情報に接して安心できるなら大した問題ではないわけです。が、確かな情報にあまり、もしくは全く触れられないのに、恐怖を煽るデマだけ耳に入ってくる、みたいな状況になると最悪です。

これらを根本的に解決するために今後何が求められるか?やはり、この情報爆発の時代に対応できる、確かな情報を大量に供給する仕組みが必要だと、改めて確信しています。そして、それを実現できるのは当然人海戦術ではなく、テクノロジーです。

つまり「テクノロジーで大量の情報を迅速に分析し、発信する」という構造が必要だということです。「確かな情報をより早く届ける」のが、情報のライフラインとして従来報道機関が担ってきた役割だとすると、その仕組みを、今までのような人海戦術の仕組みからテクノロジードリブンに変えていく必要がある。それを支える、ないし体現するのが「記者ゼロの”AI通信社”」という形であると思います。我々自身が、様々なサービスの開発を通じてそうした仕組みになっていくことを目指していきます。


JX通信社では、企業・自治体・公共団体の皆様向けに「FASTALERT(ファストアラート)」、市民の皆様向けに「NewsDigest(ニュースダイジェスト)」を提供しています。

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JX通信社は今後も「確かな情報提供」を通して、災害時における企業活動の継続やレジリエンス強化、地域の安心・安全に貢献してまいります。