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旅の経験

成田空港を午前11時頃に離陸すると、同日の現地時間の午後4時頃にデンマークのコペンハーゲン空港に到着する。10時間から11時間ほどの飛行機の旅となるのだけれど、いつも機内ではあまり寝られずに見たかった映画や本を読みながら時間を過ごす。到着の午後4時頃と言えば夏時間であれば日本時間の夜の11時、冬時間であれば翌日の0時になることもあり、空港のゲートを抜けてバゲージクレームで荷物を待っている頃には、襲いかかる睡魔との戦いが待っているのだ。
長距離便は特に大型のスーツケースはなかなか出てこないのが常なので、自分の荷物をピックアップしたらなるべく早く電車や地下鉄に乗り込みたいものだといつも思うのであった。



10年ぐらいコペンハーゲンを行ったり来たりしていると、色々な場所や家、ホテルなどに泊まることがあった。ある時はジャズライブを毎晩やるような少し小洒落たホテル。またある時は家主とは一切合わずに近所のカフェで鍵をピックアップして滞在したAirbnb。ごく稀に如何わしい香りが漂う元ゲットーのようなエリアにある宿なんかもあった。先にも書いたように飛行機での過ごし方があまり良くないのと早々に時差ぼけを発症してしまい、到着した時の疲労度はかなりのものだ。なので、空港からのアクセスも地下鉄などで短時間且つ楽に行けるアマーエリアの宿に最近は泊まることが多くなってきた。空港と中心市街の間にあるこのエリアにある宿を選ぶ理由は空港からのアクセスの他にも色々とある。例えば、本当の中心部などにも素敵な宿はいっぱいあるのだが、Airbnbだと家自体がとても古く、水回りの設備などがちゃんと整備されていない場合が多い。シャワーが別の建物にあって一回外に出なくてはいけない時、それが冬だったりすると凍えるような思いをしたり、なぜかシャワーのノズルが便器の上にあり、シャワーを浴びると必然としてトイレ掃除もしなくてはいけなかったりした経験があったので、中心部の建物に比べれば割と新しいアマーに佇む宿が自分にとっては快適だということを何度も滞在した経験から学んだ。それでも日本の建物のように親切にエレベーターがどの建物にもついている訳でもないので5階立ての5階の家にお世話になる時などは荷物の引き上げが一大イベントになるのだった。



その一大イベントを終えて、家主から家の設備などの案内を受けた後、毎度一旦ベッドに横になるのだが、ある冬の旅のこと。いつものように疲れた体を横にしているとなぜだか段々と体が冷えていくことに気がついた。それを滞在中の家主に伝えるとなんと部屋のオイルヒーティングシステムが故障してしまったようだった。北欧の冬の夜の外気はマイナスなので、こりゃ眠ってしまったらマズい、寝ずに耐えるしかないのかと、絶望を感じていたら、家主が熱々の湯たんぽを持ってきてくれて、これを抱いて布団にくるまっていればきっと大丈夫とのことだった。(よくよく聞くと、そういったことが何度かあったらしく、家主もそれで凌げたとのこと。)旅のトラブルはつきもの、物は試しということで実際に湯たんぽを抱いて夜を明かしたところ、思った以上に寒さも凌げ、快適に眠りにつくことができた。翌日早々に業者を手配してくれてオイルヒーティングシステムを修理してくれたのだが、湯たんぽの温もりが忘れられずに、滞在中はオイルヒーティングを切って毎晩湯たんぽを抱いて過ごしたことは家主には結局伝えてはいない。



時差ボケの気怠さ、見知らぬ街への期待と不安、そしてトラブル。旅をすると何かしらが必ず起こる。けれど、旅ができない今だからこそ、そういったトラブルが自分の人生のハイライトになっていることに気がつかされる。ああ、旅に出たい。

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