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花よりスマホ

今年の私は、桜が好きではないのだと思う。

紀伊半島南部に咲くクマノザクラや山桜を眺めていた三月の中旬くらいは、きれいだと思ってそれなりに心が躍った。
でもそれ以降はビクともしなかった。

お花見している人たちの姿ですらも、
桜が咲いているのに正直どうとも思えない自分を惨めにする。

"今しか見れない"感が私を急かし、
"今味わっとかんと、次は来年"感にうんざりする。

まぁ、桜をきれいと思えない、そんな春があっていいだろう。
元気がなくて、景色を楽しめない時も、
元気はあっても景色は楽しめない時も、
元気がないから、景色をみて感動する時も、元気がなくてなーんにも楽しくない時も、全部ある。
全部あって、ふつう。

今の私は、ちょっとだけずっと気にしてることがある。

それとは別に、今月はキャンプも山歩きも熊野古道にも行けなくて身体にアクが溜まっているのがわかる。
自然を自分のペースで味わいたい。
一人になって考えたいことがある。

やっといけたキャンプは一ヶ月ぶりだった。

キャンプサイトになんと枝垂れ桜が咲いていた。


「好きな場所にテント張っていいよ」と管理人さんにいわれ、私は桜に近寄った。

枝垂れ桜は、ふつうの桜に比べてサンサンとした雰囲気がなく、静かだった。
ソメイヨシノは「みーんな私のこと好きでしょ?」と思っていそうだが(個人の意見です)
この枝垂れ桜からは何の声も聞こえなかった。

心が桜の近くはいやだと言わなかったので、そろそろと桜の横にテントを張る。

色がいっぱいで、テントが一層かわいくて、ちょっとドキドキした。

焚き火の火でマシュマロを焼いた。

とろとろで甘くてあったかくておいしい。

大きいのを五つ食べた。

炎は暗闇でみるのが一番きれい。

私は炎が燃え尽きて、最後に残る、このジクジクしてる炭をみるのが好き。
炎が息してるみたいで光ってて、おもしろい。

火があれば、夜も明るくて、暖かく、寒さをしのげるし、恐ろしい獣は近寄らない。だから今の私たちも火が燃えるのを見ていれば、なんとなく落ち着いて安心できるのでしょう。
土井善晴、「一汁一菜でよいという提案」、2016年、グラフィック社

土井善晴がいってたけど、ほんとにそうなの? と身体に聞きながら炎を見た。

PM8:00

一通り焚き火タイムを楽しみ、満足したのでテントの中に帰ってさっ寝るぞ〜!と寝袋に入り込んで、
目を瞑る。

くそほど寒い。

もう春なんじゃなかったの、桜咲いてるやん? どうしてこんなに寒いの? どうしてなの?

馬鹿なので薄い寝袋しか持ってこなかった。

凍死するほどではないのはわかるが、こりゃ寝れん。
とにかくできるだけ体を丸め、寝るのは諦めてとにかく目を瞑る。

テントの独特の匂い。
外で寝るわくわく。
最近かけてもらった優しいことば。
今日読んだ本。
友だちと喋って笑ったこと。

眠れはしないが、そう悪い気分でもない。
さすがに時間が気になって時計を見たら、0時を過ぎていた。浅くは眠っていたような気もする。

けど、さっきより寒い。
足の感覚がまるでない。
このままじゃ無理だ、しぬ。

テントから出ると星がきれいだったが、空を楽しむ余裕もなく車に小走りで駆け寄り、服、じゃなくてもまとえるものは全部出してみることにした。

結局、ヒートテック1枚、ロンティー1枚、薄手のパーカー1枚、パジャマ1枚、サーフポンチョ1枚(ポンチョは現場で着替えをする時に隠すために着るもので正確には衣服ではない)に仕上がった。

全然寒い。

カバンからバスタオルと、インドで買ってきた可愛い布も引っ張り出して寝袋の中につめる。
意味があるかどうかは知らんが、とにかくやるだけのことをやるしかない。
あるものでなんとかするしかない。
持ってきたものしか、この場にはない。

朝6時になるとキャンプ場の温泉にはいれるので、あと6時間の辛抱や、、とガタガタ震えながらスマホで時刻を確認する。

すると、
てかこの四角い板、何の役にも立たへんやん、という気分になった。

世界と私を繋げてくれるが、
どんなことだって教えてくれるが、私の代わりに色んな記憶を取っておいてくれるが、ちっともあったかくない。

死ぬほど寒いこんな時に全く発熱しない小さな四角い板が、わりと私の生活で大切なポジションなのがなんだか笑えた。

スマホを冷やすと充電の減りが速くなるから、
布でぎちぎちになった寝袋の中にそっと入れておいた。

無機質にゴロッとした物体がいる寝袋でまた目を閉じた。


あったかくならないくせに、寝袋に入れてやってんだからさ、
あの人からの連絡届けて見せろよ、と思いつつ。

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