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【人生の岐路に立つ人へ】『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田そのこ(新潮社)

進む・立ち止まる・戻る。
そのすべては、それぞれの、正しい選択だ。

人生の岐路で迷う人の背中を、そっと押してくれる小説。

おすすめ度・読者対象・要点

おすすめ度:★★★☆☆
読みやすさ:★★★☆☆
・高校生以上
・全体的に20代後半〜40代の女性向け

人生に悩む人の心の繊細さ、どちらに進めば良いか迷うその機微に、優しく丁寧に向き合っている。
明るく読める話ではないが、進退を迷う人の心には寄り添ってくれる。

人生の選択、その選び取ることにスポットを当てている短編集。
短編集だが、各話少しずつリンクしている所、なんとなく重なり合っているところが1冊の書籍としての完成度を高めている。

1作目はデビュー作であるというが、確かに読み口は重厚さを感じられる。R-18文学賞の作品だが、そこまで過度な描写はないので、高校生ぐらいからでも読めなくはない。

好きなポイントと注意点

人生で迷子になっている人たちの気持ちに、そっと寄り添うような、背中を優しくとんとんするかのような、温もりがある。
『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田そのこ(新潮社) 解説(吉田伸子)より

進むことと立ち止まること、そして戻ること、いずれにも正解はなく、選び取った人にとってそれが選び取った道になるだけ、なのだと。
いずれにせよ良いことも悪いこともあるだろうけれど、選ぶことが1番の勇気なのだということ。

「教わるもんじゃなくて、体で覚えてくもんだよ、そんなの。
ひとから叩かれたら痛い。だけど同じことができる手のひらを、自分も持ってる。
こういう気づきの繰り返しだろ」
『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田そのこ(新潮社)

だからこの作品は、選択をした人の励まし、支えてくれるだろう。
主人公の周りは、つかず離れず。でもなんとなく気になって見守っている。
その関係性も心地よい。

全体を通して、とても品のある作品でもある。

個人的には4作目のおんこが大好きだ。
ああいう登場人物が出てくる作品はなかなかない。

ただ、取り上げている話題として、家族に悩んでいる人には少し辛い描写がある。
そして、全体的に題材が暗い。

いくら言葉をもらっても、それじゃ勝てるはずがない。
力を尽くして得たものだけが、新しい力をくれるんだよ。
誰かから貰おうとしちゃダメだったんだ。
『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田そのこ(新潮社)

とくに子どもを授かるとか授からないとか、育てるとか育てられないだとか、そういうことに悩む人はやめた方がいい。
それでも読みたいなら、4作目だけならいい。

「本当にバカねえ。
他の女のところに行く男なら、くれてやればいいじゃない」
『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』町田そのこ(新潮社)


余談

という私は、結構読むのが辛かった。

人に寄りそう小説として、評価も高いが、題材がきつい。
出てくる人たちは20~40代の女性中心に、中高生も出てくるが、抱えている問題が普通じゃなさすぎる。
そんな人がポンポンいたら、何が普通で何が普通でないのかわからなくなりそうだ。

『52ヘルツのクジラたち』で本屋大賞を受賞した方の1作目、評価も高い、となれば読んでみようと思う人が多いと思う。
ただ上記の注意事項から、読むのを少し怖く感じた人は文庫で読むことをお勧めしたい。
文庫の解説を読むと、小説に飲まれることなく読むことができると思う。

そうやって楽しみたい作品だと感じた。

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