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【友達って何だろう】『ブレイブ・ストーリー』宮部みゆき(角川書店)

運命を変えたい。 人生をやり直したい。
それが全てか? 本当は、どうしたらよかったんだろう。
ぶつかり合える出会いが、主人公を変える。

おすすめ度・読者対象・要点

おすすめ度:★★★★★
読みやすさ:★★★★☆

読者対象は小4・5~ 高校生以上ももちろん良い。

主人公の亘は小学5年生。
普通の生活を送っていたけれど、突然家族がバラバラになってしまう。
家族を、元の暮らしを取り戻したい一心で、運命を変える扉があるとされる廃ビルへ!
扉から異世界へ移った亘は、どんな願いでも叶えてくれる塔を目指し、旅をすることになる。

読みやすさは、上・中・下(単行本では上・下)となることや、導入の長さから、一つ星を下げたが、物語に無駄は一ミリも感じないのでデメリットではない。

好きなポイントと注意点

分かりやすく言えば異世界ファンタジー。
運命を変えるための冒険物語。

でも私が思う一番は、本当の友達に気づかされるところなのではないかと思っている。

「あんたはミツルは友達だと言った。
だけどねワタル。友達だって、肉親だって、恋人だって、正しくないことは正しくないんだ。
あんたの心が、それを間違っていると感じたなら、あんたにはその心に従う義務がある」

『ブレイブ・ストーリー』宮部みゆき(角川書店)

「ミツルはあんたの友達だ。きっと大切な友達なんだろう。
だけど、それでも、もしあんたがミツルのやり方を許せないと思うのならば、あんたは行動しなくちゃいけない。
黙っていてはいけないんだ。
分かり合えることなんか期待しちゃいけないけど、諦めてはいけないんだ。
あんたは許せないと思うのなら、許せないということを伝えなくちゃならない」

『ブレイブ・ストーリー』宮部みゆき(角川書店)

運命を変えようとする道中で、亘は、大切なことに気づいていく。
その大切なことが、運命を変えることより、何よりも大事なのだと読者も気づくのではないだろうか。

「僕は最初、何もかもなかったことにできれば、それで済むと思っていた。また幸せになれるって。
でも違うんだ。それだけじゃ、また別の悲しみや苦しみが訪れた時に、前と同じことになっちゃうだけなんだ。
運命を変えるってことは、嫌なことを消してしまうことではないんだ。
出来事は消せても、僕の心は消せないんだから」

『ブレイブ・ストーリー』宮部みゆき(角川書店)

ブレイブ・ストーリー。勇気の物語。
人にぶつかる、本音をぶつける。それは、勇気が要ることなのだ。

ちなみに、アニメの主題歌は「決意の朝に」。
そこからも、一文を切り抜きたい。

過ちも傷跡も 途方に暮れ べそかいた日も
僕が僕として生きてきた証にして
どうせなら これからはいっそ誰よりも
思い切りヘタクソな夢を描いてゆこう

「決意の朝に」Aqua Timez

ちなみに、宮部さんの描くファンタジーはいい。
宮部さん自身、ゲームが好きだということもあり、なんとゲームのノベライズも担当するほど通である。
効果音に頼らないファンタジー小説の良さも体感できるだろう。

注意点があるとすれば、日常パートである序章が長い。
この長さがあるからこそ、よりわが身に置き換えて小説を楽しめるのだが、昨今の異世界ファンタジーと比較すれば、スローに感じて手が止まるかもしれない。そこが注意点だ。

でも、日常が崩れる前段には”日常”が描かれるべきではなかろうか?
耐えられない長さではない!読みやすいので頑張ってほしい。

余談

「あなただけではない。ヒトは皆、同じぢゃ。例外はない。
まったき善き心を持つヒトなど、おるわけがない。
いたとしたら、それはまったき悪よりも
なお邪悪であろうよ」

『ブレイブ・ストーリー』宮部みゆき(角川書店)

「悪しきものがどこか1か所に集められて、誰かがそれを守っているというのは、本当に正しいことなのだろうか?」

『ブレイブ・ストーリー』宮部みゆき(角川書店)

ブレイブ・ストーリーは、さまざまなことがテーマになっている。
当時の社会事情もあるのかもしれないが、いまにも通じるような複雑な家庭事情、それに巻き込まれる子ども、いじめ、そして正義。

勧善懲悪はストーリーとして分かりやすく、受け入れられやすい。
幼い子供には導入にはかならず善悪がはっきりして、悪が裁かれる話でないと物語を楽しめないといわれる。人間の本能がそうできているのかもしれない。

ただし、この物語を楽しめるひとなら、それ以上の話にぜひ触れてほしい。
善悪というのはいろんな物語、エッセイ、なんにでも取り上げられるが、すべてが白か黒か、というのはないのだ。
だから、人は話し合い、寄り添いあい、互いを認め合って生きている。

悪人にも悪人になってしまった過去や原因がある、ということではないのだ。
それを悪とする、というのが、今の立場が正義、としている意思なのだ。

賢い目線で見るならば、書くテーマが多く読書感想文にもうってつけといえるかもしれない。

初めて歌詞を引用するという、くさいことをしました。
でも、よかったら本を読んだ後に、この楽曲も聞いてみてほしいと思う。
ぐんと背中を押してくれること請け合いだ。


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