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ほぼ宅飲みだけで日本酒通になる方法 ~その⑨の上~ 日本酒業界では「メジャー」な県、佐賀の魅力


「日本酒=北国」?

 例え日本酒にあまり関心がなくても、新潟や東北が日本酒の「本場」であるというイメージを持っている人は多いはずだ。

 実際に新潟は47都道府県でもっとも酒蔵が多い。2番目は長野で、福島が4番目となる。それに山形の「十四代」や秋田の「新政」などの銘柄は、その希少性からブランドとしての地位を確立している。これらはインスタでよく見かけるお酒であり、つまりトレンドに敏感な層に人気があるようだ。

 このように日本酒といえば「北国」とか「寒い地域」、というイメージを抱いている人は少なくないはずだ。
 
 まだ日本酒にまったく関心を持っていなかった頃、ある日わたしは上司と一緒に日本酒飲み放題の居酒屋に入った。そのお店の主人は、聞いたこともない銘柄を勧めてくる。「これは神奈川の酒です」「これは関西の酒」と目の前に一升瓶を出される度に、わたしは「こんなほとんど雪の降らない地域でも日本酒って作られているんだ」と思った。その時出された日本酒は、もちろんわたしが知らないだけで、通からしたらどれも銘酒だったはずだ。でも素人のわたしは、日本酒はやはり新潟や東北のものだとばかり思い込んでいたので、とても新鮮な印象を受けたのである。
 
 それから徐々に日本酒に興味を持つようになったが、わたしが目にする日本酒はやはり「北国」「雪国」というイメージの強い地方のものばかりだった。「浦霞」しかり、「黒龍」しかり。

西日本の酒も多いのはわかった、それでも… 

 この連載で何回も触れいる、こだわりの酒屋Xに通い始めた頃から、「日本酒=寒いところ」というわたしの思い込みは徐々に崩れていく。XのHPを見ると、オススメの銘柄として出てきたのが奈良の「風の森」、埼玉の「亀甲花菱」など。直に店に行くと店頭には三重の「作」や滋賀の「大治郎」など近畿以西の日本酒が所狭しと並べられている(ここまで書いたら、もうXがどこの酒屋なのかバレバレかな…)。

 ちなみにXのインスタを見ると、店主に対して「ここは西日本の酒が多いですね」と話した客さんもいたそうだ。実のところ、Xは東北や北信越の酒も豊富に揃えており、地域的な偏りはほぼない。でも、確かに一般のスーパーには山陰や九州の酒はほぼ置いてないだろうから、西日本の酒が多いという印象を持たれても不思議ではないかも(西日本の酒も豊富にそろえておかないと、専門店といえないと思うけどね)。
 
 かくいうわたしも、Xに通い始めた頃は「さすが『日本』酒というくらい、本当に日本の津々浦々で作られてるんだなあ」と間抜けにも驚いてしまったほどだ。ただ、それでもまだ「でもやっぱり新潟や東北の酒の方が美味しいんでしょ?」という偏見から抜け出せてはいなかった。

日本酒の世界ではメジャーな県、「SAGA」

 そんなわたしに日本酒の世界がどれだけ広いのかを教えてくれた銘柄はいくつもあるが、今回はなかでも佐賀の酒にフォーカスを当ててみたい。
 
 わたしが大学でであった佐賀出身の友人は、地元について「日本一マイナーな県」だとぼやいていた。「わざわざ初対面の相手に向ってそんなこといわなくても…」と思ったが、たしかに直接佐賀に行ってみると、彼が地元を卑下するのもわかるような気がした。端的に言って田舎なのだ。佐賀駅周辺レベルの繁華街は、東京にはごまんとある。それに九州一の大都市福岡と、観光名所を多数抱える長崎に挟まれ、どうも申し訳なさそうにしているように見える。面積も人口も、全国的に下から数える方が早い。地元出身でないわたしがこんなふうに書くと単なる悪口のように聞こえるかもしれないが、それでも全くの嘘や誇張ではないことも確かだろう。
 
 そんな佐賀だが、日本酒の世界では存在感を発揮している。1995年に講談社より発行された『日本の名酒辞典』には、佐賀の日本酒について以下のような説明が書かれている。
 
 佐賀県は昔から伝統的な清酒県である。これは、鍋島藩主の鍋島閑叟候が、米をそのまま売るより、加工して酒として売ったほうが益が多いとの考えから、酒造りを奨励したこととも大いに関係している。佐賀平野から産出する佐賀米の豊かさをみても、酒造りが盛んになる可能性は十分に考えられるところだが、藩候直接の奨励がこれに拍車をかけたわけである。
 
 もともと米が豊かであるのに加え、藩主による奨励政策もあり、佐賀は酒造りが盛んな地域になった。その数は宿場ごとに1つは酒蔵があるというほどで、大正10年には県下に142もの酒蔵があったという。
 その後近代化の波に押されて酒蔵の数は全盛期の3分の1以下にまで減少するが、それでも「伝統を受け継ぎ、良質の酒を造っている蔵元も多く、県産酒が圧倒的優位に立っている地域もある」と、この本には記されている。この本はもう30年近くも前に発行された本ではあるが、この記述は今現在にも当てはまる表現だといえる。そのことについては次回改めて触れてみたい。

見た目も味わいもあざやか、「天吹」

 そんな佐賀の銘酒の中でも、わたしが初めて口にしたのは天吹酒造の「天吹」だった。天吹の特徴は、なんといっても遊び心に富んだラベルデザインにある。初めて目にしたのは、カボチャが描かれたハロウィン仕様のひやおろし。これは見た目だけで購入を決めた。ジャケ買いだ。夏の純米大吟醸も、なんとも華やかで涼しげなラベルが乾いたのどをさわやかに潤してくれそうに見える。口にする前からワクワクさせてくれるのも、この銘柄の魅力だ。

天吹のひやおろし


 ちなみに天吹酒造は、花酵母を使うことでも有名だ。日本酒を醸すためには、酵母という微生物の力を借りて糖分を発酵させる必要ある。その酵母の中でも、天吹酒造は花から分離させた花酵母を使う。花酵母は「花酵母研究会」の会員が使用することの出来る酵母であり、総じてスッキリ爽やかな味わいに仕上がるようだ。ラベルデザインだけでなく、製法にまでこだわるところが天吹の魅力だ。

 味覚だけでなく視覚でも楽しませてくれる天吹の酒。しかし佐賀にはそれ以外にも個性豊かで魅力的な酒が存在する。それはまた次回。

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