妄想:わたしを補佐するあかんぼう

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やっと、授かった。念願の赤ん坊である。もう一人ほしくなったが、まだ、様子が分からないので "あかんぼう" とくらしてみてまた考えようと思う。

今、わたしの周辺の家庭では "あかんぼう" がたくさんハイハイしている。まん丸のおむつをフリフリしながら、とがった岩石がある荒野でも難なくハイハイして移動する。

"あかんぼう" は常に私をいやしてくれた。きゃつきゃつと笑う。べそをかく。いやいやをする。すぅすぅと深い眠りにつく。夜泣きをしない。しずかにわたしの目をまっすぐに見つめてくれる。

そして、落ち着いたかわいい声で「こんなことがあるよ」とそっと教えてくれる。わたしは "あかんぼう" の占いに沿って一日を組み立てていく。

外に出るときは、特性のベビーカーに "あかんぼう" を乗せる。というより "あかんぼう" がハイハイからジャンプして乗ってくる。準備OK。ベビーカーは自走しながら、わたしがいちばん歩きやすい経路を案内してくれる。雨が降りそうだったら、さりげなく傘を差しだしてくれる。それらは、すべて "あかんぼう" が指示している。

そして、今日の占いでは「あたらしい恋人にであえるかも」とあった。わたしを未知の世界へ誘う "あかんぼう"。 "あかんぼう" ネットワークでわたしと相性のいいパートナー候補を探してくれたみたいだ。

突然、通りの角を曲がってベビーカーがするすると寄ってきた。「ばぁ~」「あっ、うぅぅ」「ちゅっちゅちゃ」「うぶるぅぱっ」と "あかんぼう" 同士の交信が始まった。かわいいしぐさながら真剣な面持ちである。なにか、あったか・・・。

やがて、わたしの "あかんぼう" が抱っこを要求してきたので、抱きかかえて耳元まで引き寄せる。"あかんぼう" が教えてくれたのは「恋人候補が、突然、『"あかんぼう" を携帯しない "真正ニンゲン"』を好きになって、あの "あかんぼう" を放棄した」といって、涙ぐんだ。

なんと、自分勝手だろう!わたしは、もうひとりの "あかんぼう" を抱きかかえ頬ずりしながらやさしく声をかけてあげた。その "あかんぼう" は、しずかに私の目を見つめる。涙がひっかかった目じりが愛おしい。

今日は終わりに近づいている。わたしの部屋にはおむつをした二人の "あかんぼう" がハイハイ競争をしてたのしそうに "よだれスジ" を引き伸ばしている。幾筋もある床を見ながら今日の占いが当たっていたのを感じるのだ。

「また、ひとり、パートナーがふえたんだ」と。

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赤ん坊は、夜泣きをするし熱が出たり危ないところにいったり危ないことをしたりします。手が焼ける。けれど、二十数年たつと、立派な大人になってわたしの相談相手にもなってくれます。若いパートナーです。居てくれるだけでいい存在となります。その子供たちも、また、あたらしいパートナーと出会って、やがて、赤ん坊を育てていきます。

この繰り返しは、いま、ゆっくりと回転を終えようとしているのかもしれません。ぱたりと止まった繰り返しのその先はだれも予想できない。だから、すこし、妄想してみたのです。

#日経COMEMO #NIKKEI

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